願いを叶えてみて
休憩を挟んでからお金の勉強を再開した。
お札と小銭の金額は覚えた。
あとは物価だけど、今夜はお互い疲れたから打ち止めにした。
明日使うとしても飲物と昼食くらいだから、その程度の現金を渡しておけばお店の人がなんとかしてくれる…と信じている。
お店の人、迷惑かけたらゴメン!
「明日、家を出たら事務所に行って練習。お昼ご飯や飲物は財布にお金を入れておくからこれで何か買って。帰りも気を付けて。何かあったら電話して、わかった?」
「う、うん、わかった」
俺はジニが無事に事務所に着き、無事に帰宅できるのか心配で、ジニも同じく自分でやり遂げられるのか心配でドキドキしただろう。
我が子を送り出す親の気持ちはこんな感じか…
ジニも不安だったのか寝る前のテレビタイムの間、俺の横にべったり引っ付いてきた。
最後の方は俺の腰を回してホールドしていた。
あぁ…これが彼女だったらなぁ…
ふと遠い目をしたらジニが第六感を発動したらしく「まだ俺、この家にいますけど」とジト目した。
ジニがいる間は彼女は作れないという事が発覚した。
翌日はジニをバス停まで送り乗車したのを確認してから出社する。
ジニがドナドナされたのを確認したら、急いで地下鉄に乗りギリギリ出社できた。
「おはよー」
「おはようございます」
チャニヒョンやすれ違いざまの同僚に挨拶を交わしながらデスクにつくとパソコンの電源を入れて朝の準備をする。
「チャンビニー、珍しい、ギリギリだなんて」
マグカップ片手に席までやってきたバンチャンがクリアファイルに入った書類をチャンビンに渡しながら言った。
「寄るところがあって」
そっか、と爽やかに手を振りながら自分のデスクに戻ったバンチャンは他の同僚とにこやかに談笑しながら仕事を始めた。
毎度ながらそのスマートさは惚れ惚れする。
余裕がある出来る男って感じ?
起動したデスクトップでメールチェックをして息を落ち着ける。
土日を挟んだから大量のメールチェックに時間がかかる。
必要なメールは一部なんたけどね。
「チャンビニー、はい、これ。今営業部から貰った資料なんだけど13時までにまとめといて」
「わかりましたー」
チャニヒョンから受けとった資料に目を通しながらタイムスケジュールを確認する。
特に急ぎはないからこれから手をつけるか…
「あと個人的な話なんだけど、合コンどう?前に彼女欲しいって言ってたろ。秘書課から男を揃えて欲しいって話が来てるけど、どう?」
「合コン…」
確かに前にチャニヒョンと食事をした時に彼女が欲しいといった心当たりがある。
今も欲しいとは思っているが…ジニの世話で彼女どころじゃない。
「日程はみんなの都合でこれから組むんだけど、行くよね?」
絶対参加するだろうと踏んでいるチャニヒョンには申し訳ないけど…
「すいません、しばらくは退社後の予定が入っていて参加できなさそうです」
「え?……すでに彼女できたとか?あっ、気になる女性がいるとか?」
「いや、そうではなくてですね…」
手のかかる居候がおりまして、出会っている場合では無くなったといいますか。
出会ってデートする時間が無いし、デート代もしばらくは金欠で工面できないだろうし、なにしろ居候に嫉妬されるだろうから彼女を作れない状況になったといいますか。
「うん」
「まぁ、色々と…ありまして」
「そっか、気が向いたら声かけてよ。いい話があったら誘うからさ」
「ありがとうございます!」
プライベートの事を気にかけてくれたり、変に深入りしてこないのも感謝。
俺はさっそく仕事に取り掛かるべくキーボードに入力を始めようとした。
「あ…そういえば……」
「はい?」
「あのフェレットどうなった?飼い主見つかった?」
俺は一瞬ギクリとしたが、平常心を保ちながらチャニヒョンに返した。
「無事に解決しました。その節はありがとうございました」
先輩に嘘をつくのは心苦しいものはあったから曖昧に答えた。
飼い主には返していないが、ある意味解決したというか、解決していく最中というか。
そう答えるしか無かった。
そう、あの部屋にフェレットはもはやいないのだ。
脳裏にジニが浮かんだ。
あれはもう人間だ。
手はかかるけど、性格は良いから大事にしてもいいかなぁ…って。
変な意味ではなく、そう、弟が出来たような。
助けてあげなくてはいけない対象に思っている。
