願いを叶えてみて



「僕今から登壇なんですぐには無理ですよ」

「担当教官なんだからお前も協力してくれよ。登壇が終わったらすぐにでも元フェレットを探してほしい」

「探さないなんて言ってないでしょ。生徒はヨンボクだけじゃないんだから登壇を優先します。物理的に今すぐは無理なだけです」

ジョンインの研究室に寄れば項垂れたヨンボクがソファに座っていた。

「スンミナぁ…」

「留年100年目にして大事件起こしましたね…まじであり得ないんですけど」

「ごめんね、そんなつもりじゃなかったんだけど」

心の底から反省している様子で瞳をウルウルさせているヨンボクにこれ以上言うまい。
そんな事よりフェレットを探す事が優先事項で建設的だ。

「それにしても見た目がわからないものを探すのは至難の技。どこで実習したのか覚えてないんですか?」

ジョンインが机の上の分厚い教材を何冊かチョイスしながら次の授業の準備をする。
同じ場所に行けばそこにいる可能性が高い。

「それが…アパートの一室なんだけど…似たような棟がいくつもあってどの部屋かわからないんだよね…しかも似たような所が4箇所くらい心当たりがある」

ゆっくり思い出しながら話すヨンボク。
通りすがりにした実習だったからよく覚えていないらしい。

「うむ、なら捜索範囲は縮まった。アパート群を手当たり次第に探せば良いと言うことか」

スンミンがそこまで話すとドアがノックされたから返事をするとリノとハンが入ってきた。

「ソウル特別区人間課のイ・ミノです。周りからリノと呼ばれているのでリノで良いですよ」

「営業事務のハンです」

2人が軽く会釈して入ってくると中にいた3人も会釈をした。

「わざわざご足労おかけしました。法務部のキム・スンミンです」

「え!あのキム・スンミンですよね!電話越しではわからなかったけど顔見たらわかったわ…」

ハンが興奮しながらリノの背中をばんばん叩いた。

「…痛い、そんな有名なんか」

「番犬ケルベロスって有名じゃん!生者と死者の境界線を厳格に分けるで有名だよ。曖昧を許さないからここ数年変なバグが発生してないって事務職の中ではありがたがられてるんだよ。いやぁ、ほんと噂通り犬顔だなぁ」

「へぇ…」

スンミンが赴任してからというもの度々発生していた生者や死者が入り混じり、この世が混乱する事が少なくなった。
死者が急に生き返ったり、生者が死後の世界に迷い込んだりという事が格段に減った。
これまで営業による曖昧な判断や感情であってはならない事がたまにあったが、スンミンの積極的な法整備でゼロではないが以前より格段に仕事の精度が上がった。

「それが仕事なんで」

本人は淡々としていて知らないところで呼ばれているあだ名を知らないし、知ったところでどうでも良いみたいだ。

「俺達が呼ばれたのは数字が合わない件ですか?」

リノが尋ねるとスンミンが首を縦に振った。

「そのとおり。ここにいる学生が実習で事故を起こしてしまいフェレットを人間にしてしまいました。その為に数字上バグが起きたというところですが、その数字に関しては些細な問題です。1番の問題は動物を人間にしてしまったという事で、それが法に触れる行為である事です」

「なるほど」

「早急に探し出して元の状態に戻す必要があります」

スンミンの話にリノとハンが頷く。
ジョンインが机の引き出しからソウル特別区の白地図を出し広げる。

「ヨンボクの話によるとアパート群の中の一室でフェレットを人間に変えてしまったそうです。候補地はここと…」

赤いマジックをペン立てから抜き、印をつけていく。
おおよその候補地を4箇所に目星をつける。

「手がかりはこのアパート群と17歳の人間という事くらいで今日中に見つかるかどうか」

手分けして探そう、とスンミンが言うとヨンボクが手を上げた。

「アパートの特徴は覚えていないけれど飼い主らしき20代男性がいた。手がかりになるかはわからないけど…」

「あぁ、あと昨日変なもの見た」

リノが手を挙げる。

「昨日の営業先の近くのカフェでおおよそ17,8くらいの見た目の男性の魂の履歴が1年くらいの変なやつが」

スンミン、ジョンイン、ヨンボクが目を見開く。
そいつの可能性は限りなく高い。

「どんな見た目?背は高い?肌の色は?人相描きできる?」

ヨンボクの質問攻めからの人相描き依頼を受け、ペン立てから黒のマジックを取り出し白地図を裏返す。

「性別は男、背は座っていたから断言できないけど175〜180ありそう。髪は多少茶色で一般的な短髪。人相は目は切れ長で左目の下に黒子あり。体型は細身。そこまで真剣に見ていないからこの程度だけど…」

サラサラとリノが描いた完成した人相描きを見てヨンボクが呆れた表情をする。

「これは酷い…」

「お前が描けっていうから描いたんだけど」

ムッとしたリノの隣で笑いを堪えるハン。

「大丈夫、心は伝わった。耳からの情報でなんとかしますね」

ジョンインがニコッと微笑んでファイティングポーズをした。

「ほぼジュルミじゃん…ぶはっ」

励ましながらも途中で自爆したハンに蹴りを入れたリノが「とにかく」と咳払いした。

「俺が知っている変な奴の情報は共有したからな」

そう言ってハンを連れて出ていった。


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