願いを叶えてみて
「はい、ソウル特区営業部のハンです」
キーボードを打ちつつ鳴った電話をとる。
『お疲れ様です。法務部のキム・スンミンです。先日管理部に問い合わせの数字のバグについてですが…』
「あぁ、はいはい…」
管理部に問い合わせた寿命の総計が合わない件が何故法務部から連絡が来たのか謎だったが、デスクトップに資料を出す。
『実習中の学生による不手際が原因でした。申し訳ありません』
自分自身は学生を体験した事が無いが、管理職に就くなど将来有望視されている人物は働く前に大学に通うらしいと聞いた事がある。
多分全体の10%もいないと思う。
「いえ、ではこのバグはいつ訂正されますか?」
『早ければ明日中。そうでなければ、また別の対策をたてるところです』
「そうですか…実はこのデータの提出期限が明日となっておりまして、このまま管理部に提出させていただく事になりますがよろしいですか?」
『了承しました。管理部にはそのように報告させていただきますので、よろしくお願いします』
電話が終わって受話器を置く。
不明だった数字の不一致が解消されてひと安心。
こっちの計算ミスが原因じゃなかった。
とりあえず明日が期限だからそれまで資料は寝かせるとして。
次の仕事を頑張ろう。
電話が鳴る前までしていた作業を再開する。
はー、なんだかすっきり。
電話の受話器を置いたスンミンは席を立ち、かけておいたコートを羽織る。
あの後すぐのジョンインからの報告によると…
『ヨンボクが実習の際、契約にミスがあった。願いを叶える事と引き換えに寿命か魂を引き渡す条件を伝えるべきをできていなかった事は前に伝えた通り。問題はもう1つあって…結果的に動物を人に変えてしまった、と。変えるつもりは無かったらしいけど…』と。
今回に限り、単なるケアレスミスだから次は気をつけようというレベルの話ではない。
なにせ動物を人間に変えてしまっている。
1年も生きていない動物を17歳の人間に変えてしまうというのは歪が生まれる。
世の中には決まった数と秩序があり、その数を許可なく勝手に増やす事も減らす事もしてはいけない。
必ず法務局を通して閻魔様の決裁をとらなければならない。
人や動物の生死、寿命に関しては実習としての許可を超える行為に関しては学生の身分で触れてはいけないと知っているはずなのに。
『フェレットが人間の食べ物を食べたい願いと人間の一緒に住む新しい家族が欲しいという願いを同時に叶えたらそうなった』と 嘘みたいな化学反応を起こしてしまったらしい。
間違ってもヨンボクは閻魔様の次男坊。
魔力はその辺の職員より強めだ。
それが暴走してしまったという事なのか?
…天然って予想外の事をやらかすから本当、怖い。
わざとでは無いとはいえ、学生の失敗では済まない事態に法務部の俺が事態の収集に動かなくてはならない事になった。
「未処理の決済書が山程あるというのに」
あの餅ゴリから貰ったキューブいつ使えんねん。
あ、餅ゴリはヨンボクの父上の事だ。
餅ばっかり食ってるゴリラだから陰でそう呼んでいる。
あぁ、このままだと過労で死んでしまう、死なないけど。
デスクを離れようとしたら電話が鳴った。
「もしもし、法務部のキム・スンミンです」
『お疲れ様です、管理部です。実はソウル特別区の哺乳類課から問い合わせがありまして…』
「1年分合いませんよね、数字が」
『…え?…はい、そうですが…』
「フェレットだと思いますのでまた追って連絡します。人間課も哺乳類課も数字があってない状態で資料があがってくるかと思いますので通してください。法務部が許可しています。対処についてはまたご連絡します、お手数おかけして、すみません」
電話をきってから執務室から出る。
今からすべきは原因となっているフェレットを探す事。
捜索範囲はソウル特別区と決まっているから案外早めに見つかるかもしれない。
問題は今の姿形がわからないということ。
男なのか、女なのか、細型なのか太型なのか。
全くわからない容姿のものを探すのだからそういう意味では大変だ。
「頭数はいるな…」
俺は心当たりを当たる事にした。
