願いを叶えてみて
やっば、今月赤字だ。
思った通りの展開に苦笑する。
人が1人増えたんだから仕方がない。
日用品の出費が多かったからそうなるだろう。
食費はまぁ知れているから来月からはギリギリやり繰りできるのではないか…と予想している。
当面はこれでいくとして、収入を増やさないとマズイ。
貯蓄が全然出来ないという危機に焦る。
副業探すか…固定費の見直しか… もう少し安い物件に引っ越す?
でもここ住み慣れちゃったし離れがたいんだよな。
スマホで銀行の残高を確認する。
赤字の原因となった当人を見るとテレビを見ながら踊っていた。
現状を知らないから呑気なものだ。
「ジニョンかっこいー」
暇を持て余して見様見真似ダンスはそれなりにうまかった。
日中家事の合間に踊っているらしく、我流ながらなかなかの運動能力と記憶力だなと感心した。
暇を持て余して暇ならその能力を活かす環境に行けば…
「……」
いやいや、駄目だ芸能事務所に売り込むなど駄目だ。
あれから名刺の会社を調べて授業料などかかるお金を調べた。
練習生の間は授業料無料。
お金の面はクリアできていると思う。
問題はジニの住民登録が無い事や人としての一般常識の欠落による不安。
「ジニや、ダンス楽しい?」
「楽しい!」
汗だくで踊るジニを見ながらスマホの通話ボタンを何度か迷いながら押した。
そして翌日ジニと外出。
あれから貰った名刺の会社に連絡してジニがスカウトされた件を話した。
学校に通っていない点、一般常識が怪しい点も包み隠さず話した。
実はフェレットということと住民登録が無い点はまだ話していない。
とりあえずの見学だけでも良いとの事だったので家を出てきた。
「人に会ったら」
「こんにちは!」
「親切にしてもらったら」
「ありがとう!」
「今日は見学だけだから気楽に行こう」
ジニには貰った名刺の事務所に見学に行く事を伝えている。
見学して本人が良ければ行けばいいと思うし事務所がオーディションしてくれるならしてくれたらいい。
住民登録の点はまた後日考える。
まだ通うと決まったわけではないから。
事務所のドアを開けて受付をして案内されたスタジオに行くと練習生たちがレッスン中だった。
「わー、すごい!」
ジニが目を輝かせて前のめりに見ていた。
凄く興味があるんだなってひと目でわかる。
「こういうの好き?」
「面白い!ヒョンは?」
「うーん、俺はどちらかというとじっくりジムでトレーニング派かな」
40分くらい見学して受付に戻るとスタッフが仕事をしつつも待っていた。
ジニと簡単に話して芸能に興味があるか確認していた。
当然受け答えはぐだぐだだったから、所々補助にはいった。
ジニ的にはダンスのレッスンは気に入ったから通ってみたい気持ちはあるようだ。
「じゃあ簡単にだけど、歌って貰える?」
「えっと…」
オーディションというわけでは無いけど、受付で突如始まったテスト。
歌えといわれてもジニ、歌知ってる?
俺の心配を他所にジニが自宅で踊り聞いていたジニョンのグループの曲をワンフレーズ歌った。
「なにかダンスできる?」
毎日踊っていたジニョンの振り付けをその場で踊る。
うん、さっきの練習生より格段に下手だが悪くない、というのが俺の感想。
ゴリゴリに練習している人たちに勝てるわけがない。
家で見ている時はそれなりに見えたけど、凄いものを見た後は感想変わるな。
「創作してみて」
創作!?
ジニが創作とはなんだと俺を見たが俺もわからない。
即興でなにかやれって事なんだろうけど。
何をすれば悩んでいるジニにスタッフが助け舟を出す。
「なんか好きな事してみて、芝居でも手品でもオリジナルソングやダンスでもいいよ」
尻をフリフリ、両手をフリフリ…
「アメリカ〜ノ〜、アメリカ〜ノ〜、チョアチョア〜」
うむ、なかなかにシュール。
好きな事っつーか、最近好きな飲物をリズムにのせただけ。
一節終わって「どう?」と言いたげな少し楽しそうな表情でスタッフの様子を伺う。
「とりあえず練習生(仮)って事で」
「やったー!」
「えっ、いいんですか?こんなんで!?」
想定外の判断に俺が吃驚した。
特に何が凄く秀でてる訳では無くて、ちょっと実技した程度なのに。
『チョアチョア〜』のくだりなんか完全にスベってた。
「(仮)なんで本登録は次のオーディションで。ぶっちゃけ技術は無いけどビジュアルが良い。度胸と愛嬌もある。キープしときたい人材ではある。面白さは芸人枠じゃないから気にしなくて良いですよ」
要するにビジュアル要員という事か。
将来デビューするしないは置いといて、幼稚園に通わせるくらいの気持ちで書類の記入をした。
