願いを叶えてみて
「おぉ……胃が…」
キリキリと痛みだした胃の辺りを右手でギュッと抑える。
今年もか…今年もなのか…。
「スンミニヒョン、どうしましょう」
「どうしましょうったって…」
どうもならんでしょ。
暗にその意味合いを含んだジョンインに視線を送る。
王族の次男坊の世話係をする事は誉高い事だと最初は思っていた。
9年経った今となってはもう…。
どうやらまた今年もやらかしたらしい。
ジョンイナの説明によると『願いを叶える事と引き換えに頂く寿命もしくは魂を貰い損なった。課題の期限は明日まで』らしい。
つまりは留年確定案件。
報告と相談に来たジョンイナは大学の後輩。
そして当の本人のヨンボクは同級生。
ヨンボクの世話係にはなったものの、法務関係の仕事と二足の草鞋だから彼の全てを監視している時間は正直無い。
今年こそはしっかりヨンボクをサポートしようかと思っていたら、想定外の事故で召された大勢の人間の魂の決済に追われ…今に至る。
「そもそも交渉の段階で寿命もしくは魂の回収の話をしてない時点で契約は未成立だし無理です…今更取りにも行けない…」
「願いを叶え損ですね」
ただの通りすがりの良い人。
それだけだ。
「マズイな、また今年もヨンボクの父上から小言が…」
「留年100th アニバーサリーですからね。長男坊召喚しときますか、今年も…はは…」
滅茶苦茶叱られるわけではない。
ほぼヨンボクの愚痴を聞かされる。
あの子は素直で明るくて社交的だけど、ふわっとしてて心配。
ほら、あの子天然でしょー…。
スンミンみたいな几帳面さがあれば今頃とっくに卒業して留学するか働いてるんだけどな。
という愚痴を丸1日、酷い年は翌日も半日餅と茶を嗜みながら聞かされる。
クソほど忙しいのに。
愚痴を聞き終わった後は「来年度もヨンボクをよろしくね」とキューブをくれる。
キューブ1つで1週間の特別有給が貰えるらしいが未だ使えた事はない。
忙しすぎる。
「なんとか交渉できないかな。言い忘れたけど寿命か魂下さいって」
それで合意したところで法令違反にあたるけど。
『真実』『誠実』『謙虚』に反する行為は認られない。
「無理かと、願いが叶って人生楽しもうとしてる奴が命差し出さないでしょ」
「ですよねー…つかソウル特別区の事務から寿命の数値が合わないってうちに連絡来てたけどヨンボクの仕業かな」
「詳細はまだ本人から聞いてないけど、貰うもの貰ってない以上可能性としてはあるかも。ヨンボクから事情を聞いてまた報告する」
ジョンインが壁掛け時計をチラッと見ると静かにその場を退出した。
次の登壇の時間が迫っているらしい。
去ったジョンインを見送ってから、スンミンはため息をひとつつくと山積みの書類に目を通し始めた。
