願いを叶えてみて



「ヨンボクさん」

「はい!」

大学の廊下で教官に背後から呼ばれてビクリと跳ねたヨンボク。時にフィリックスとも呼ばれる。
長い金髪に薄いそばかす。
白い服に身を包んだ彼は天使のようだとよく言われる。
そして対象的に低い声に最初はびっくりされる。

「今年は無事卒業できますかね?」

「そ、そりゃもう!先日2人分の願いを叶えたんで単位は大丈夫…なはず」

少し自信なさげに答えたヨンボク。

「もうそろそろね、卒業した方がいいと思うんだよね」

急にタメ語になった教官にヨンボクが向き直る。
黒髪に切れ長の瞳、横に長い口はにっこり笑っている。
神父のような漆黒の服装にバインダーを片手にため息をつく。

「イエナー、わかってるって」

「去年も同じ話してるんだけど。何年留年してるかわかってる?」

「あ…いやぁ…99年…くらい?」

「どうやったら99年留年できるの。僕、ヒョンの後輩だったのに、今あなたの教官の立場なんだけど」

元は可愛い後輩。
だけど今は先に卒業して研修も済み教官10年目になる。

「そんな事言ったって、向いてないんだよね」

唇を尖らせたヨンボクがちらっとジョンインを見ると真顔で見据えていた。

「しょうがないでしょ。長男では無いとはいえ王族の次男坊でしょ。向き不向きの問題じゃないんだわ」

「好きで王族してるんじゃないっていうか…」

ヨンボクの父を人は閻魔様と呼ぶ。
生き物が亡くなった後の采配を統括する偉い人といえばわかりやすい。
天国に行くか地獄に行くか、はたまた生まれ変わるか、奇跡を意図的に起こすか。
人によっては神様とか悪魔とか呼ぶ事もある。
死後の世界のトップであり天界で働く僕達の社長みたいなものだ。

「とにかく留年100周年とかやめてくださいね」

「わかってる、ちゃんとやったし。今年は卒業するし」

「…お願いしますよ。スンミニヒョン、この時期になったら胃痛発症するんだから」

スンミンとはヨンボクの世話係の立場だ。
大学卒業後、法務局に就労していたが2年後に突如ヨンボクの世話係も兼任するようになった。
働きが優秀だった為かヨンボクの父から勅令の辞令だった。
留年続きの息子になんとか卒業してもらいたい親心なのだろう。
指導と監視の意味合いも込められているのかもしれない。
そこまでしても卒業の気配が無い息子に苛立ちを隠しきれないヨンボクの父は留年が確定する度にスンミンにチクリと小言を漏らす。
いくら閻魔とて自分の息子の出来が悪ければどこかに愚痴を漏らしたいものである。
閻魔が愚痴を漏らす度にすかさず間に入って庇ってくれる出来た長男がいるからなんとかなっている。

「スンミナには悪いとは思ってるよ」

不貞腐れたような表情のヨンボクにジョンインがバインダーからプリントを1枚手渡す。

「最終確認のチェックリストです。やり忘れた事が無いかちゃんと確認してください」

100回目の配布になるプリントを一読する。
もう散々見たはずだから抜かりは無いはず。
耳にタコじゃないけど嫌ほど見てきた。

「……!」

嫌々に半目になりながら一読している途中でヨンボクの目がカッと開いた。

「どうしました」

「あっ……や、やらかした…かも?」

真っ青な顔をしてプリントで目から下を隠して蚊の鳴くような声で怖怖とジョンインを見た。

「…何したんですか?」

ジョンインは表情を引きつらせた。
いったい今更何を間違えるのか。
もう100回目の確認作業だ。

「……願いは叶えた。2つも」

「ええ」

「……でも見返り貰うの忘れた…見返りっていうか契約しそこねたっていうか…」

ビクビクしながらの衝撃の告白。

「は!?」

「どうしよ」

ジョンインが信じられないものを見るように目を見開きブルブルと肩を震わせる。
呆れと怒りが入り混じった殺意。


「………このっ、馬鹿息子ーーー!!!」


ジョンインの怒声が大学の廊下に響いた。

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