願いを叶えてみて



まずは衣類を新調して、最低数の食器を少々。
歯ブラシは自宅のストックがあるとして…

会社が休みの土曜日にジニを連れて市場へ買い物に繰り出す。
まだ人間としての所作はまだまだ怪しいが致し方なかった。
まずは生活用品を揃えるのに人手は欲しい。

お上りさんのようにキョロキョロと楽しそうにフラフラするジニを引き連れて必要な物を買い、荷物を持たせる。
衣類は共用にしても良かったが体型がどうも合わない。
縦にひょろ長いんだよな、コイツ。

自宅にいる時はあまり気にならなかったが、外に出すとスタイルの良さが際立つ。
何も手を加えていない顔は眉毛さえ整えれば世間一般的にはイケメンの部類だろう。

「ご主人」

「ん?」

「次は何買うの?」

しゃべればふにゃふにゃしているから、外見とのギャップはある。

あとは布団があれば当面の生活には困らないかな。

「休憩しよ」

近くのカフェに入り席にジニと荷物を置いて注文をしに行った。
俺は珈琲にするとして、ジニはフルーツ系ジュースかな。
なにが飲めるのか未知数だから、自宅でフルーツを食べている事を加味すると無難なフルーツジュースだ。


注文して呼び出しブザーを貰ってジニのところに戻る。

「ご主人、これ貰った」

両手に1枚づつピラピラとしているのは名刺サイズの紙。

「なんだこれ」

ジニの手から紙を受け取って文字を読むと『◯◯エンターテイメント』『△△エンターテイメント』と名だたる大手の名刺だった。

スカウトか。
俺が離れた数分の間に2社とは…やるな。

たぶん意味がわかっていないジニは興味なさそうにしている。
今は食べ物にしか興味無いもんな。

「ところでジニや」

「うん?」

「『ご主人』呼び、やめてくんないかな」

「え?でも飼い主はご主人が相場なんだけど」

不思議そうに首をかしげたジニ。

「今は飼い主とペットじゃなくて同居人なの。同居人にご主人はおかしいし、俺もあんまり好きじゃない、その呼び方」

主従関係が成立してる感じあるし、なにより外でその呼び方をされると気まずい。

「じゃあなんと…」

「ヒョン。これが自然だわ」

「ヒョン…、わかった。ヒョンって呼ぶね」

呼び出しブザーが鳴って俺は注文したドリンクを取りに向かった。
出来上がった珈琲とフルーツジュースを受け取り再び席に戻ると真っ青な顔をしたジニが椅子の上に両足を揃えて固まっていた。

「どした?なんかあった?」

「ヒョ、ヒョン!そこに真っ黒な怖い人が!」

「え?」

ジニが指差す方を見るも壁しかない。

え、なに?人?

「こっち見てる!」

ええっと、動物と赤ちゃんは霊物に敏感だっていうよな…ってことは!

「お化け見えてる!?」

急に背筋がゾッとしてジニの目線を追う。
ジニの目線がゆっくりと店外に向かうドアに向けられ、やがてほっとした安堵の表情を浮かべた。

「いなくなったー」

「ほんと?もういない?」

めちゃくちゃ怖いやん。
見えなくても見えてても怖いよ。

「もう出て行ったよ、びっくりしたー」

俺達はようやく落ち着いて、ドリンクを飲んだ。
珈琲で俺はホッとひと息つき、ジニは美味しいと目を輝かせながら満足そうにしていた。

さて、あとは布団買いますか!

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