願いを叶えてみて
「んー…っ、合わない」
キーボードをカタカタ鳴らしていたハンがそのままキーボードに突っ伏した。
「どしたー?」
ハンのデスクの隣に座るリノがディスクトップから視線をそらしてハンをちらりと見る。
「合わないのよ…寿命の総数が」
ぴえん、と泣き真似をする。
人間界に公務員があるように、それ以外の世界にも公務員のようなものが存在する。
リノやハンを人は総称して天界の天使という。
天使みたいな聖人ではなくて生き物の死後の世界の管理をしている人達といったところで天国とか地獄の概念が無い。
人生の結果を振り分ける作業をするところに過ぎない。
「昨日上がってきたデータも反映させた?」
「させたよ、何年リノの営業事務してると思ってんの」
「100年くらい?」
人が想像するあの世の仕事はほとんど人間界と変わらなくて、管理するものの違いがあるくらいか。
リノとハンが所属するのはソウル特別区、およびその周辺の人間の管理。
他にもメンバーはいるけど忙しさでほとんど顔を合わせる事がない。
パートナーである営業と事務の組み合わせで動くから、こちらはほぼ毎日のように顔を合わせるけれど。
「申告漏れがあるのかなぁー…」
管理部に確認案件かな、とハンがため息をついてマグカップを持って給湯室から備品のティーパックに湯を注いで戻ってくる。
「今から外回りだから行ってくるわ」
黒い皮の手袋をはめて席をたつ。
「その格好やめなよー、命を奪いに来た死神にしか見えないよ。魂がビビり散らかして抵抗するからやめなって」
年中、頭のてっぺんから足の爪先まで真っ黒なコーデのリノ。
よく悪魔か死神に間違えられるのは事実。
「終わった魂の回収だから奪いに行くんじゃない。奪うのは違う部署だろ」
そう言ってさっさと行ってしまった。
「爽やかに行けば追いかけずに済むのに…」
あの目が笑わない顔面がニヤッとしながら近づいてくる…俺だって怖いわ。
リノを見送りハンは受話器を耳に当て内線ボタンを押す。
「あっ、お疲れ様ですー。ソウル特別区人間課、事務のハンです。確認したい事が…」
人間界もその他の世界もやってる事は大体同じって事で。
