願いを叶えてみて




「まずは君がジニだったとして、いつどうやってこの家に入った」

夕飯が終わり、ついでに風呂の世話までするハメになり、ようやく話を聞くタイミングを確保できた。

「前いたとこから逃げてきて、追いかけられててとっさに置いてあったカバンに避難したらここに来たよ」

道に置いてあったカバン…。
もしかして唯一心当たりがあるのが仕事帰りかな。
電車待ちで荷物が多い時に脚に挟んで直置きする事もあるからそれかも。

「それで?」

「ご主人がいる間は部屋の隅に隠れっぱなしだったんだけど、いなくなったら部屋に出てご主人が帰ってきたら隠れてた」

「いつから」

「3回朝日は見た」

なるほど。
俺が思いがけず部屋に入れてしまったと。
侵入経路は俺のカバン。
電車待ちで、ということは自称ジニの飼い主はこのアパートの住人ではないということだ。

「君はどこから来たの?」

「えっと…」

思い出すかのように空を見上げると次第に視線を斜めに泳がし始めた。

「忘れた…かなぁ?」

「おい」

「な、なに」

わかりやすくビクッと肩を跳ねさせた自称ジニをジト目で見る。

「本当は覚えてるやろ」

「あ…えっ…と…えっと…」

怪しいやろ、その目つき。
とりあえず元の飼い主に回収願いたいんだけど、人になったとはいえ。

「正直に言わないやつとはこの先やっていけな…「いや、あの…どっか遠いとこ!よくわかんないけど、そういうこと!」

急に詰め寄りがちに言った自称ジニが少し面白かった。

「どこの駅かはわからない、と」

上下にコクコクと首を振って本当にわからないとアピールした。
カバンを地面に直置きしたという事は会社の最寄り駅か、自宅の最寄り駅かということになる。

「元の飼い主は男?女?」

「女!」

「…綺麗?」

「うーん…」

そこ重要なとこ。
元の飼い主を探す意欲になるから。
これが出会いで彼女が出来るかも、なんて期待した。

「嘘でも美人って言った方が俺のモチベーションあがるんだけど。頑張って探してあげるよ」

「…イグアナみたいな…そんな感じ」

自称ジニがポツリと言った。
相変わらず目が泳いで、いよいよ目が合わなくなってきた。

「よし、お前がジニである事は認めてやろう。そしてイグアナ女…でもいっか。探しに行こう」

しらを切り続けるつもりらしい自称ジニに半ば呆れて話を切り上げた。

「いやややや!!帰りたくない!ここに置いて!」

慌ててしがみついてきたジニを引き剥がして…そしてまたジニがしがみついて…また引き剥がしての繰り返しを経る。

「元の飼い主が探してるだろうから帰れよ」

「あんな怖いとこ帰りたくない!」

「怖いって…殴られるんか?」

ジニが唇を尖らせながらふるふると首を横に振った。

「…繁殖させられんの」

「繁殖?」

「発情期のお姉さんに迫られるのが怖くて…」

俺はゴクリと息を飲んだ。
お姉さんに…迫られる?
イグアナのお姉さん?
フェレット相手に何してんの?

「あっ、お姉さんってフェレットのね。先住フェレット」

「あぁ…」

びっくりした。
色んな種類の人がいるもんな、今どき。

「この時期だから毎日のように誰かが発情してんの。そんで同じケージに入れられてずっとお姉さんに迫られるのが怖くて…何もしなければ今度は飼い主から駄目男扱いされるしで…」

ツライ!怖い!ケージからも出して貰えないからストレス!

で逃げてきたそうな。
このままうやむやに飼う気はないけど、同情はするわ。
ちなみにイグアナは嘘だとジニがバツが悪そうに白状した。

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