願いを叶えてみて
とりあえず俺は出勤した。
非現実な出来事があったとしても日常は当立ちどまってはくれない。
家に置いてこざるを得なかった自称ジニには食料や水の場所、トイレの使い方等、俺が働いている間に必要な最低限を教えて出てきた。
なんとなくの食料の場所は把握していたらしいが、湯を沸かしたりする火気系は怖すぎたから出来合いのパンや果物を近所のコンビニで購入して置いてきた。
彼の話を100%信じるとすれば、人間1日目なわけだし何をやらかすか気が気ではない。
今日は定時であがって即帰宅だ。
そして胡散臭い話をもう一度確認しようと思う。
そして仕事が終わり、いつもより足早に帰宅。
玄関のドアを開けると「おかえり、ご主人!」と自称ジニがパッと顔を輝かせていた。
スーツを脱ぎ部屋着に着替えてストックのカップ麺に湯を入れる。
これ食べたらもう一回話を聞かなきゃ…
「ご主人」
「な、なに」
椅子に座ってカップ麺を置いて出来上がるのを待っていたらテーブルの向こう側から自称ジニがニョキッと顔を出した。
「それ食べたい」
「あ、あぁ…」
夕飯がまだだったもんな。
つい習慣で自分の分しか作らなかったし、何から話を聞き直そうか頭の中が気が回らなかった。
つまり人の事を考える余裕が無い。
自称ジニの分も追加で湯を注ぐ。
それをワクワクしながら眺めている自称ジニ。
「箸は自分で持ってきな」
「はーい!」
俺に言われた自称ジニは引き出しから箸を持ってきた。
うむ、箸の位置は把握してる、と。
日頃から見てないと知らない事だよな。
俺はカップ麺の蓋を開けて箸で麺をかき回した。
それを見ていた自称ジニも蓋を開けてカップに顔を突っ込もうとしたら入らなかったらしく手を突っ込んだ。
「ああっつ!」
「おまっ、何してんだ!」
「あっつい!あっつい!」
「箸!箸使え!」
取り急ぎティッシュで自称ジニの手を拭いてからキッチンの水道水で冷やす。
たいした事にならなきゃいいけど。
冷やした手をタオルで拭いて仕切り直す。
俺は少し伸びた麺を啜りながら、目の前の自称ジニに箸を持たせる。
最初は俺の真似をしようと頑張ったが諦めたらしく、箸をぐうの手で握って食べようとしたら熱かったらしく憂鬱な顔をして食べるのをやめてしまった。
「ほら」
仕方がないので皿に麺を移し替えて冷まし、自称ジニの前に出す。
本当に人間1日目だったとしたら難易度が高いのかもしれない。
「ご主人〜」
「ほら食え」
箸で麺を掴んで差し出すとパクリと食べて、目を大きく見開いた。
「おいしい!」
「さいですか」
今どきカップ麺で感動するとか、逆に羨ましいわ。
…しかしクソ面倒くせぇな。
結局全部食べさせるハメになった。
