願いを叶えてみて
あれから2週間、全然連絡が来ない。
もしかしてアパート外から侵入してきたのかな。
俺はこのフェレットが気になるからあまり出歩かなくなった。
自宅でする事といえばフェレットに餌をやったり遊んでやったり。
おかげさまで、すっかり懐いてきた様子だ。
「やー、君の飼い主は君がいなくなった事に気づいているのかね」
猫じゃらしで遊びながら、次はSNSにあげるべきかなと考えた。
「もしくは捨てフェレット?」
猫じゃらしの先の魚目がけてびょんびょん跳ね回るフェレットを愛でながらちょっと愛着が湧いてきたのに気づく。
動物も飼ってみるといいもんだなぁ…
このフェレットが去ったらなんか飼おうかな。
なーんて考えていたら…
もう1か月が経過した。
SNSに写真をあげたし、警察にも届けは出してある。
なのになんの反応もない。
「ジニレット、放牧の時間や」
仕事から帰ってケージから出すとそこらじゅうを走り回るジニレット…。
そう、ケージや寝床や餌を完備し、名前までつけてしまう事態になった。
そんなつもりは無かった。
名前なんてつけたら愛着が湧くし、飼い主が現れた時に別れが寂しくなる。
でもいつまでもお前呼ばわりするのもなんだかなぁと思い、ある日ベランダの桟に座って焼酎を舐めながら月見をしている時に名前をつけてしまった。
『なぁ、お前の飼い主全然連絡ないんだけど』
俺の横にちょんと座るフェレットに話しかけると不思議と目があった。
人間の言葉が理解できているのだろうか。
『お前呼ばわりもあれだなぁー』
ふとポテチの筒に入ってもがいていたこいつを思い出す。
『今日から君の名前はジニレットだ』
魔法のランプから出てきたジーニー。
願いを3つ叶えてくれる凄いやつ。
こいつは先輩にポテチの筒から引っこ抜かれたわけなんだけど。
『ジーニーとフェレットを合わせてジニレット。どう?センス良くない?』
ジニレットは黙ってあくびをした。
うむ、気に入ったに違いない。
そう信じて決定した。
という成り行きを経て、今ではベランダといわず部屋中を走り回る。
走る、走る、走る、たまにじゃれてくる。
フェレットって動きが激しい生き物だったのだと知った。
動きは激しくとも友好的で噛みついたりはしないから飼いやすいという感想だ。
果物を食べていたら物欲しそうに見てきたけれど腸に良くないらしいからお預けにしたら残念そうにしていた。
「ジニや、君がいなくなったらなんか飼う事にするわ」
金曜日の夜、焼酎とつまみを前に月見をした。
ジニレットの前にはペレット。
仕事が終わって帰宅したら自分を待ってる存在がいるって心躍る。
彼女を作ればいいけれど、出会う機会がなかなか無いし、友達はいてもいつでも会えるわけではないからペットがいいかな、と思う。
ジニが胡座をかく俺の太股に小さな手を置いて見つめてくる。
かわよ。
細長い背中を撫でると気持ちよさそうに伸びたジニレットをケージに戻して、簡単に飲食の址を片付け、寝る準備にとりかかる。
ふとなんとなく窓越しに空を見ると…
「あっ!流れ星!願い事っ…!」
…って心の中で願いを唱えている最中に消えてしまった流れ星。
いけた?
いけてたらいいな!
まぁ、急に願いを込めるなんて普通無理だよな。
「ジニや、流れ星に願い事をすると叶うらしい。ジニの願いはなに?家に帰る事かな?」
ケージの中からじっとこちらを見つめてくるジニはこちらの言葉を理解していないだろうな、と思い俺の願いを話す。
話すと叶わないというけど、たぶん間に合わなかったのだからいい。
「俺は一緒に住む家族が欲しい」
恥ずかしながら、寂しがりなんだよね。
実家から独立したとはいえ、家族が大好きで留学を拒否した事すらある。
男の独り暮らしは人肌恋しいものがある。
眠るときの定位置に移動を始めたジニも早く家族の元に帰りたいだろうに。
「ジニや、おやすみ」
ケージの中のハンモックに揺れながらこっちを見ているジニレットに声をかけて部屋の電灯を消した。
