君が好き
「おはよ」
「………」
スタジオに直入りしたヒョンジンがメンバーに挨拶をしてテーブルにアメリカーノを置いて今日の衣装を確認する。
たまに想像を超えた衣装があるから前もってチェックを入れる。
例えば二重ベルトとか。
流行っているとはいえ、あれは窒息しそうだったからステージ上で1本抜いたけど。
「ヒョンジナー」
「おん?」
「なんかいいことあった?」
フィリックスがケータリングを物色しながらヒョンジンに話しかけた。
「…なんで?」
「梅雨の時期のカエルくらい肌艶潤ってるから」
ヒョンジンの脳内に雨に打たれてツヤツヤのカエルがゲコゲコ喉を鳴らしている絵が浮かんだ。
カエル…
良いことといえば昨夜チャンビニヒョンと仲直りした事。
それを目の前の純粋な天使に言うべきか。
悪気は無いけれどキャピキャピされるとなんとなくこの場に居辛いというか… メンバーにチャンビニヒョンとの関係がバレていたとしても気恥ずかしい気もする。
「まぁ、色々」
「チャンビナと仲直りしたって素直に言いなさーい」
リノが通り過ぎざまにヒョンジンの背後から尻をスパーンと叩いてソファにどかりと沈んだ。
「いってぇな」
振り返るとニヤニヤしたリノがスマホを取り出した所だった。
今からリラックスタイムといったところか。
「あれ?今日は絶叫しないんだ」
「はっ!?別にそんな毎回そんな痛いとかじゃなくて、あん時は初めてだったから」
「あ、昨日やったんだ?そりゃ潤うわ」
「なっ!」
「俺は絶叫しないのか聞いただけー。仲直りはペアリング見ただけー」
「くっ」
屁理屈野郎が!
まんまと乗せられた自分が悔しい。
言ってやりたいけど、世話になった以上あまり強くも出れない。
「つき合うのは勝手だけど生々しいのは勘弁してくれー」
いつからいたのかメイク鏡の前でスタンバイのスンミンが鏡越しにヒョンジンを牽制した。
「なんだ破局しなかったのかー。たかだか一粒のアメ玉のために1袋を購入せずに済みましたー」
めでたし、めでたしと通り過ぎざまに言ったアイエン。
「うまくまとまって良かったわ。やけ酒につき合うつもりは今後一切ないからそのつもりでー」
部屋の片隅で動画鑑賞をしていたハンがチラッと視線をヒョンジンにおくると再び動画鑑賞に浸った。
「君たちアメ玉とかやけ酒とかなんの話?ヒョンがいつも見守ってるのになんで俺は何も知らないの?」
ふらふらとやってきたバンチャン。
「いや、逆にそんだけ見守ってて色恋沙汰に関して気づけないのなんで」
スンミンがぼそりと呟く。
「はよーっす」
チャンビンが部屋に入ってきてヒョンジンと目が合いニッと微笑む。
つられてヒョンジンも照れ笑いをする。
「やめろー、やめろー!いちゃつくなー!」
チャンビンとヒョンジンの間に入りこみ体を使って笑いながら妨害するアイエン。
「いいじゃん、みんな知ってるんだし」
チャンビンが妨害のアイエンの横顔をぐいと押し出すと愛しいヒョンジンの傍に立つ。
「おはよ」
「おはよ」
今朝同じ部屋から出てきたんだけどね、とつい可笑しくなって笑う。
「見えます、見えます」
さっきまでケータリングに手をつけていたフィリックスいつの間にかが2人の前に立ちはだかり両手をかざす。
「やっとチャンビナに捕まったね」
2人だけに聞こえるように小さな声で囁くとニッコリ笑って手を振った。
「「?」」
フィリックスの言い回しになんの話かと2人は顔を見合わせたが皆目見当がつかず再びフィリックスを見る。
『本番10分前です』
番組スタッフから合図があったから慌てて2人は衣装を抱えて着替え始める。
「ヒョン!今日終わったら映画行こ!」
「無理!今日はジム」
「…ヒョン、絶対に映画行こ、死んでも行こ」
辛辣な表情をしたヒョンジンがチャンビンを見据えるとビクリと動揺したチャンビンがいた。
「うん、映画ね。いいと思う。死なない程度に行こう」
せかせか着替えてメンバー全員部屋を出る。
「わー、すごい。ヒョンジナ強く出るようになって…」
バンチャンが最後尾から思わず呟く。
「いい事でしょ、このくらい。ていうか本当は気づいてるよね」
リノなバンチャンの横を歩きながらチラッと横目で見た。
「なにが?」
「なにがって、恋愛事情。わかってないわけないでしょ」
「…だって嫌でしょ、把握されるの。もっと拗れたら2人を呼び出すとこだった。リノもうまいことしてね、呼び出したくないから」
バンチャンのニコッと含みのある言い方に思わず苦笑しながら「はいよ」と返事をする。
ステージの袖にスタンバイし円陣を組む。
「今日はカムバック初めてのステージ!楽しくやりましょう!」
バンチャンのかけ声でみんな気合いを入れる。
そしてステージの光の中に吸い込まれていった。
-終-
▶ちなみにヒョンジンさんのエプロンは1年後まで忘れ去られ、なにかの機会に発掘されたエプロンはチャンビンさんが着用してヒョンジンさんをワクワクさせたそうです。
