君が好き



結局出勤はリノヒョンのところからする事になった。
朝シャワーを浴びて服はリノヒョンのを借りた。

「嫌味かな」

「はは…」

上はいつも大きめに着ているものを貸してもらったし、下は入るには入った。
七分袖になったけどそういうデザインだと思えば…。

朝食は出勤途中にコンビニで調達したし特に問題は無かった。

さて現地に着いたら、チャンビニヒョンの話を聞かなくちゃ。
いや、聞かなくてもいいのか?
チャンビニヒョンは明るくて人から好かれるいい奴なのに、リノヒョンが駄目男と言い切った。
リノヒョンは多分俺が言った不満だけを捉えて良いところを加味する事を忘れているんだと思う。


「ヒョン、その服リノヒョンのじゃない?泊まったの?」

「うん、朝戻る時間も無かったから借りた」

少し後に出勤したアイエンがズボンの袖の踝を見ながら言った。

「もしもの話なんだけどさ」

「うん」

「性格が良くて、明るくて、人から好かれて、話上手で、才能もあって、優しいところもあって…えーっと…頭が良くてーな人がいて」

「はぁ、朝からなんの話」

スマホを弄りながら時折目線は合わしてくるアイエン。
自分のやりたいことと兄貴分との付き合いを同時にやるスタイル。

「でもそれが故に沢山人が寄ってきて恋人が寂しい思いをするわけ。こういう人っていい人である反面、恋人にとっては良くないじゃん」

「そうですね」

「恋人はどうしたら良い状況になるんだろう」

自分の相談をたとえ話に例えるなんてバレバレなんだろうけど、これからの指針を考えていくのに参考にはしたいかなって。
俺はチャンビニヒョンが好きで、できれば折り合いをつけてうまくやっていきたい。
リノヒョンはチャンビニヒョンは自己中だから付き合う事を良く思っていない。
アイエンはこの状況をどう思うのだろう。

「…僕がその恋人だったらの話ですけど、速攻で別れるかな」

「え?いや、でもいい人なんだよ?」

アイエンも否定的なんだ。
相手を受け入れるとか、改善していくとかではないんだ。

「いい人かもしれないけど、恋人にとってはそうでも無いでしょ。僕は楽しい恋愛をしたいんで別れますね」

「でも好きなんよ?」

「はぁー……」とアイエンが大きくため息をついた。

「いくら好きでも雑に扱われたくないんで」

「雑って…」

「僕は大事にされたいし、相手を大事にできる恋愛が好きなんで。マゾヒストにはいいかもしれないけど…」

俺、マゾヒスト…かな?

「今更性格とか人間性は変えられないし仕方が無いと思う。とりあえず僕だったらまずは話し合いするけどね。何が不満で満たされないのか相手にぶつけてみる。それで駄目だったら見限る」

そうだよな、話し合いだよ。
殆ど俺のタイミング都合でチャンビニヒョンとの話し合いができてない。
早めに話そう。
チャンビニヒョン、話があるって言ってたしな。

「もしもの話の主人公に会ったら、モジモジしてる暇があったらさっさと本音ぶつけて来い。それで破局したら少しだけ優しくしてあげると伝えといて」

「少しだけ優しく?」

「アメ玉1個あげますよ」

「ヨンボガならお菓子焼いてくれるのに雑じゃない?」

「俺にお菓子を作れと?寝言は寝て言ってくださいねー」

「おん…伝えとくわ…」

マンネ様のありがたいお話しで、少し前に進もうかなって勇気が出た。
はじめにヒョンに伝えた通り俺は愛が重い。
だから友人より自分を優先して欲しい。
勿論俺にも至らない所があるはずだから、その辺りも改善していきたい。
だからヒョンから俺に思う事を話して欲しい。
それでどうにもならないなら別れるというのもありだと思う。

そもそもお互いが忙しい中付き合うって、難易度高いよな。
よく芸能人が『互いが多忙の為破局』っていうけど、話し合いの時間すら取れない状況なんだろう。
でも俺達は同じ部屋に住んでいるんだから話し合う時間はあるはずだ。


「ヒョンジン先輩!」

「ん?」

色々考え事をしながら廊下を歩いていると背後から声をかけられた。
先輩呼びしてくるということは練習生の1人かな。

振り向くと見覚えがある練習生がいた。

あぁ、この子は…

「先輩、こんにちは」

「こんにちは」

チャンビニヒョンと付き合う前にソゲッティンをキャンセルした子だ。
当たり前だけど、練習生やってるだけあって安物のジャージー着ててもキラキラしてるなぁ…なんて思っていたら話しかけられた。

「あの…お願いがあるんですけど」

「お願い?」

はて、なんだろう。
後輩のお願いとやらなら聞いてあげたいかもしれない。

「…近いうちに日本に行きますよね」

「うん、行くね」

「世界堂、行きますか?」

「時間があれば行きたいね」

「時間があってもしも行くなら私の絵の具もついでに買ってきて貰えますか?」

お使いを頼まれるとは思いもしなかったから面食らった。
先輩にお使い頼むとか強心臓。

「日本限定色の新色で通販もできるんですけど送料とかで割高だし…ついでがあればでいいんですけど…」

凄い一生懸命に訴えてくるなー。
お使いに行かなきゃいけない気がしてきた。

「時間があればだけど、いいよ」

「ありがとうございます!これ品番書いた封筒でお金も入ってます。忙しいのにすみません!本当に時間があればで結構なので無理はしないでください!」

差し出された封筒を持つ指は取れなかった数種類の絵の具の色で染まっていた。
絵が趣味なのか。
画材って積み重なると高いもんな。
お金が無い練習生ならちょっとでも節約したいのは凄くわかる。

「油絵が趣味なの?」

「油絵がメインですね!水彩やデッサンもしますけど…最近はアクリルにも興味があって…お金も時間も無くて…死にそうです!」

今だから絵を描く余裕があるけど、練習生で趣味も同時進行でやるって、凄い体力だな。

「俺も水彩もやるんだよね。油とはまた違った魅力が…」

「そうなんですよ!油には無い清涼感とか瑞々しさがいいですよね」

「そうそう」

絵について語れるって、楽しい!

まさか事務所で趣味を語れるなんて。
嬉しいのと楽しいので暫く小話をしていた。
趣味界隈の仲間がいなくて1人で黙々とやっていたから話が止まらなくて…めちゃくちゃスッキリした。

今日も楽しく働けそうだ!


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