君が好き



記念すべき初めての夜からけっこう経った。
実はあの日から一度も無い。
ヒョンジンはため息をついた。
あの日から3日かけてようやく痛みから回復したから、今はもうなんともないしいつでも大丈夫なんだけどな。
ヒョンからの誘いは全くないし、こっちからの誘いも避けられている。

最初はまさか自分が抱かれる側になるなんて信じられなかったけれど、いざその立場になるとどっちでも良い事に気付いた。
好き同士なら些細なことかなって。
気持ちよかったかと聞かれると全然良くなかったが正直な感想で、肌を合わせられる事に安堵感があるって感じだった。
だから気持が良いからまたしたい、という事ではなくヒョンに触れたいからまたしたいと思う。

なのにあれからヒョンは1度も誘ってこないし、俺からなん回も誘ったのに体よく断られている。

『疲れてるから、また今度』
『明日早いから(11時昼前集合なのに)』
『眠い』

本当にそうなのかもしれないけど、正直そうなる事を避けられている気がする。

あの時、あんまり良くなかったから?
俺が泣いて暴れたのに引いた?
それとも思ってたのと違ってた?
女とする方が良いってあらためて気付いた?

どの可能性も考えられる。
どの可能性を口頭で面と向かって言われると傷つくんだけれども。
次を誘う自信も無くなってきたし、また断られたらプライドも保てない。



「ヒョンジナー、どした、話聞こか?」

ウザい男風に話しかけてきたのはハン。
なぜここにハンがいるのかって?
それは打ち合わせに会議室に来ているから。
なんとなくヒョンを避けて早めに家を出たら会議室に俺1人だったところに、他の打ち合わせで前乗りしていたハンがやってきて2人になったところ。

「……」

「なになに?話しにくい内容?」

ハンが荷物を床に置いてヒョンジンの横の椅子に座ると「乾燥してんのかな、喉渇くわ」とペットボトルをあおった。

「セックスの頻度はどんくらい?」

「ぶはっ!」

想定外の内容にハンが口から水を吹き出した。
俺は肩肘をついてハンの方を見た。
こんな話、ハンにしかできない。

「おたくのとこ順調?」

「何の話かと思えば…俺、誰とも付き合ってないんだけど…」

置いてあったトイレットペーパーをグルグル巻いてちぎってテーブルや服にこぼれた水をふく。

「知ってるから大丈夫、リノヒョンでしょ。こないだデートしてたのに今更」

「メンバーとカフェくらい行くやろ」

「隠さなくてもバレてるって。あんな収録の合間にイチャイチャしてたら誰でも気づくわ。そんなことよりなんかさ、ヒョンが全然相手にしてくんないの」

「えぇー…」

「何回誘っても断られんの」

「本当のはなし?意外なんだけど」

「なんでだろ」

「なんでかは俺にはわかんないんだけど…」

原因はチャンビ二ヒョン本人じゃないとわからないし、ましてや色気の塊のヒョンジンを拒絶できるなんて忍耐強いか心底したくないかだと思う。

「それが全てじゃないのは、わかってるんだけどさー…ヘコむじゃん。俺だけ必死になってるみたいで自分が滑稽でもあるしさ。温度差があるんよ…行為が無い事が嫌なんじゃなくて俺への興味が失われている事が問題っていうか…」

「んー」

「そりゃ長年の付き合いの倦怠期でレスるのはあるじゃん。でも1回してからそっから拒否ってもう…俺に原因があるとしか思えないしさぁ」

「俺のとこはまだそういう事無いからアドバイスはできないんだけど…」

ハンが少し考えて言った。

「1回目から2回目までの期間は少しだけ長かった」

それでも暫く放置は無かったし、こっちが誘う前にリノからの誘いがあったから問題にはならなかったけど。

「へぇ」

「リノが言うには2回目を誘うのは緊張したらしい」

「1回目の方が緊張するだろ」

「1回目で相手を満足させられたかの結果次第で2回目の反応が変わるからドキドキするんだって。テストの成績を返される感じと似てるって」

「自信たっぷりありそうなのに、そんな事思ってんの」

「3回目からはそんな感じでもないんだけど。リノのパターンからするとチャンビニヒョンももしかしたら思うところ、あるんじゃない?わかんないけどさ」

「思うところ…なんだろ」

やっぱ俺とでは満足出来なかったのかな。
で事前に『やり捨てするな』とか色々重い事言ったから別れたくても別れられない呪縛にとらわれてる?

「その辺は本人同士で会話しないと解決しないっていうか、月並みの事しか言えないんだけど辛いんだったら素直に言うしかないと思うんだよね」

「…どうせ『眠い』とか『明日忙しい』ではぐらかされるし。頑なに嫌がるんだから」

次誘ったところでお断りだろうし、そんなヒョンと話し合いなんてできるんだろうか。
話せばちゃんと対応してくれるだろうけど、思うところの図星を指されてたらショックで立ち直れないかも。

やば、吐きそうかも。
心臓がぎゅんとなるね。

「ハンちゃん、ありがとね」

なんかもういったん忘れよう。
しんどいわ…

「なんか、ごめん。あんまり相談にならなくて」

気にしないで、とハンの肩を軽く叩いていたらメンバーが次々に入ってきたからそこでお仕舞いになった。

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