君が好き



「ヒョンジナ、ふざけてる?」

リノは焦っていた。
メインダンサーの動きがぎこちない。
流れるような芸術的なあの所作はどこ行った。
教えても教えても、ひょこひょことヒョンジンらしくない動きで今日中に仕上がるのかいよいよ怪しくなってきた。

わざと?
俺は仕掛けられているのか?

思わずドッキリかと思いカメラを探したが、そうでも無いらしい。
本人も至って真剣なんだけど、理解と体が全く違う動きをしているように見える。

「まーまー、そんな事もあるって。明日までに仕上げたら問題ないし、俺も帰ってから練習に付き合うし」

ヒョンジナの彼氏がひょこっと現れてたしなめる。
今日までが納期の課題なんだから、なんとしても今日中に終わらせる。
多少の体調不良でも這ってでもやることをやってきた結果が今なのだ。

「体調不良か?過去いちヤバイ」

「ごめん、ちゃんと仕上げる」

ヒョンジナ自身は汗だくで表情だって真剣そのものだから、何か原因があるのではないかと観察する。

何かがおかしい。
腹の調子が悪い?
筋肉に異常がある?
精神的に集中できない出来事でもあったか?

いろんな可能性を考えてみたけれども、なんとなく下半身の重心が取れてないような。
あぁ、そうだ。
不安定だから、ふらついて見えたりぎこちない動きになるんだ。

「ヒョンジナ、怪我でもした?」

「してない」

「重心が取れてないから動きが定まらないんだ。しっかり安定させて」

腰を後ろからトントンと叩いて意識する事を促す。

「うぅっ…!」

「えっ!?」

崩れ落ちるように床にへたり込んだヒョンジンにメンバー全員が驚いて動きを止めた。

もしかして腰やってたか!?

「おい!大丈夫か!」

医務室に連れていかないと。
焦るリノの間に入ってきたのはチャンビン。

「ヒョンジナ、大丈夫?端っこの方で休もう」

ヒョンジンの背中に腕を回して支えながらスタジオの端に移動してゆっくりと横たえる。

湿布はいるか、水は飲むか、確認をしてチャンビンはバンチャンのところに行く。

「休憩で大丈夫だって。医務室はいらない」

「え、辛そうだけど…筋肉と神経に異常があるといけないから連れていくよ」

スタジオの端を見れば辛そうなヒョンジンが体勢を俯きに変えたところだった。
バンチャンがヒョンジンの元に向かおうとしたらチャンビンが「大丈夫だから」と頑なに止めた。

「なんで止めるの。なにかあって後手にまわると後遺症になるかもしれないから早めに連れていくべきだ。」

体を壊して退社していった仲間達を数多く見てきた。
ここにいるメンバー達は事務所の仲間という枠を超えて、今では家族のような扱いをしているつもりだ。
大切にしたい。

「事情があって。そんな大事にする内容じゃないというか、大事にしたくないんだ」

バンチャンにだけ聞こえるような小さな声でいったチャンビンに「なぜ?」という表情をしたバンチャン。
バンチャンの無言の圧に説明をしなくてはならなくなったチャンビンはメンバーがいないスタジオの隅にバンチャンを連れていって小さな声で話した。

「実は……早朝…ヒョンジナと致しまして…」

「何を致したの?」

そこは察してくれという願いも虚しく、本気で疑問に思っているバンチャンにちゃんと説明するしかなく。

「…セックス…その…ヒョンジナ、初めてであんな感じに…」

「………えっ…!」

一瞬ポカーンとしたバンチャンが気まずそうに「ん″ん″っ」と咳払いをした。

「…それはしょうが…ないのか?いや大丈夫なのか?」

「ヒョンジナはそういってる…そっち側の経験が無いからヒョンジナの言葉が全てなんだけど…」

「あー…わかった」

バンチャンはスタジオの中央に戻りレッスンの再開を促した。

「医務室は!?」

リノがヒョンジンを見て、今度はバンチャンにそれで良いのか確認した。
どう見ても大丈夫そうじゃない。

「ヒョンジナが大丈夫だと言っているから大丈夫だろ。練習続けよう!」

急に真逆の態度を取りだしたバンチャンに首を傾げたリノ。

バンチャンが言うなら、そうしよう。
腑に落ちないけど。

再び練習が再開されて、ダンスをしながらもリノの頭の片隅に

「チャニヒョンの急変した態度」についての考察は終わらなかった。

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