君が好き
ヒョンジナの葬式モードは自宅に着いても継続していた。
反省すべきは反省して、もうそろそろいいんじゃないか?
シャワーを済ませてディナータイムになっても悲しい表情で食パンに齧り付く…あ…食ってる時はいつでもそんな表情か。
「なぁ、もうそろそろさぁ…」
落ちこむのをやめていつも通りに過ごそうぜ。
なんて、手を出した側の俺が言うのも忍びなくて強くは言えない。
「ほんと何やってたんだろ…」
咀嚼途中の食パンを口に含んだまま、じーっと遠い目をしているヒョンジナ。
食パンを齧る、咀嚼、哀愁を延々と繰り返していて…ディナーが全然終わらない。
「ヒョンジナー、俺が悪かったからさ、もうしないから。いったん忘れよ」
負のループは考え始めたらきりがないから。
寝て起きたら頭を切り替える事ができるから。
「…もうしないの?」
じと目で悲しそうな表情のヒョンジナに慌てて訂正する。
「えっ!するけど!外ではしないって意味で」
「うん…」
はぁーっとまたため息をつくヒョンジン。
「リノもさ、簡単に触れ回る奴じゃないしセーフだよ。無かった事にはしないけど、今日のところは無かった事にしてご飯食べて早く寝よ!」
自分でも何を言っているのか意味不明な部分もあるけれど、要するにこれ以上引きずるな、と言いたい。
「そうだね、うん、そうだね」
自分に言い聞かせるように繰り返した言葉を飲み込んで、手に持っていた食パンをもぐもぐと齧り出す。
取り敢えずはこれで良し。
食って寝たら翌朝には葬式モードはマシになるだろう。
「ヒョン」
「んー?」
「外では何もしちゃいけないのかな」
「まぁ、そうだな」
「今まで通りに過ごすだけだよね」
そういう事になるな。
外では全くそういう素振りを見せないヒョンジナが最近ようやくガードが緩くなってきたところだけど、人目がある所ではやっぱり控えるべきだなってリノから言われた事で気が引き締まった。
俺を襲うヤツなどいないと思うが、ヒョンジナは魅力的だから隙を与えてはいけない。
「外は仕方が無いにしても、自宅では仲良くすればいいじゃん、な?」
人前に出る仕事をしているのだから仕方がないじゃん、と戯けながら言うと「うーん…」と小さく呟いた。
芸能人で匂わせ行為をする事やデートをパパラッチされたりして批判される事が結構あるけど、今なら気持ちが良くわかる。
退勤後くらい好きにさせてくれよ!
プライベートはイチャイチャしたいのは人類皆同じ事だろー!!
…と叫びたい。
トイレの件は休憩中で退勤してなかったし、公共の場で良くない事だったけどさ…。
とはいえ人気商売はそうも言ってられない。
付き合う事で悶々としたり、悲しくなったりするなら…今から恋人関係解消する?
その方がヒョンジナにとっても良いかな。
女子と公開恋愛した方がまだマシというか…穏やかに過ごせるんじゃないかな。
後ろ向きな事を考え始めた時…
「よし、寝よ」
残りのパンを口に詰め込んでムシャムシャと食べきったヒョンジンはその後水を一気飲みする。
「食パンだけって味気なくない?なんか塗ろうぜ」
「小麦の匂いと味が感じられていいけど」
「ささみ食って一緒に筋肉育てようぜ」
「考えとく」
一緒に洗面所に行って歯を磨く。
至って普通の日常。
ロマンもなにも無いけれど、恋人同士となると特別感がある。
歯を磨き終わったら互いに夜の挨拶をしてそれぞれの部屋に引っ込む。
はずだったが…
「ヒョン」
「ん?」
「一緒に寝よ」
「…い、一緒に?」
俺の戸惑いを隠せない返事にヒョンジナが頷く。
一緒にって、同じベッドで寝るって事か?
それとも同じ部屋に布団を持ち込んで別々に寝るって事か?
どちらにしても大歓迎なんだけど、いいんですか?
おそらくこの場合、同じベッドで寝るって可能性の方が高そうだけどここでがっついてる感じを出してはいけない。
冷静に、下心は全くない素振りをしないとヒョンジナにドン引きされたら嫌だ。
「布団、運んでくるから待ってて」
敷き布団は無いから掛け布団を敷き布団代わりにする事になるけど、雑魚寝くらい平気だから気にならない。
「枕だけでいいでしょ。一緒に寝るんだから」
「……」
やはり前者でしたか!神様ありがとう!
そういう感じだと思っていたけどヒョンジナから誘われるなんてドキドキが止まらない。
「お、おう」
ヒョンジナに誘われるままに部屋に入り一緒にベッドに入る。
ドキドキワクワクの一夜の幕開けか。
そういえばベッドサイドの収納に避妊具が入ってるはず…
2人で向かい合って横になって部屋を薄暗くして。
「おやすみ」
「おやすみ」
にっこり微笑んだヒョンジナにドキリとしたけれど、ほんとそれっきりでヒョンジナは即寝し始めたから、期待が膨らみすぎた俺はちょっとがっくりした。
そうですよねー…
