君が好き



リノはトイレ前で友人と立ち話をしていた。

立ち話というよりトイレに入らせないようにしていた。

「おつかれ、元気にしてた?」

何事も無い顔をして、たわいのない会話をしていても心情は嵐のように穏やかではなかった。

今、ここに誰も立ち入らせるわけにはいかない。

チャンビナ達の後追いでトイレにやってきたリノは個室から怪しい物音がするのに気が付いた。
ボソボソと小さく聞こえてくる声はチャンビンとヒョンジンのものであり、怪しい事をしているのはすぐにわかった。

すぐに個室のドアを蹴り飛ばしてやろうかと思ったがトイレへの訪問者が来たのですぐにトイレ前に出た。

「じゃまた今度の収録で。またご飯に行こう」

そう言ってトイレに入ろうとした友人を慌てて止めた。

「なんか今、ここ故障中みたいだから他あたった方がいいよ」

「いや、どっか空いてるだろ」

さっきから誰も出入りが無いのだから。
ましてや全ての便器が故障している訳がない。

「全部壊れてるらしいわ」

「は?全部!?」

「そう、全部。」

有無を言わせないリノの射殺しそうな眼差しに信じていなくても納得せざるを得ない。
この鬼気せまる感じ…何か事情があるのだと察する。

他の階のトイレを使うことにした友人を安堵の微笑みで見送った数分後にヒョンジンがトイレから出てきた。

こいつは、まったく何をやってんだ。

呆れと怒りで眼光が鋭くなってしまうのは仕方がない。
誰が誰と付き合おうが知ったことでは無いが噂が立つような行動は控えるべきた。

その場でヒョンジンを車に連行し、出来るだけ感情を安定させながら必要な事だけを淡々と話した。
ヒョンジナはオドオドした様子で狼狽えていた。

しっかり反省して貰おう。
何があっても外で怪しい事はするんじゃない。



先に車を出てから次は差し入れを物色しているチャンビナを捕まえた。

「お前は一体なにをしてたんだ」

「へ?」

チャンビンの横に立って差し入れを物色している風に装いながら警告する。

「ヒョンジナにも注意したけど、外で盛るな」

「あっ、あぁ…」

バレた?

という表情のチャンビンにため息をつきながら小声でボソボソと続ける。

「世の中に公表でもするつもりか?ここにはタレントだけじゃなくてマスコミだっているんだからな。報道されたらヒョンジナの事守れないだろ」

「守るよ」

「……」

「中途半端な気持ちで付き合ってるんじゃない」

チャンビンが真面目な声色で言うものだからリノは再びため息をついた。

脳天気か。
そりゃ四六時中常に共にいるのなら守れるだろう。
例えヒョンジンの隣にチャンビンがいなくてもメンバーがいれば乗り切る事も可能だろう。
基本的にうちはみんながみんなを思いやれる、凄く仲が良いグループだ。
これだけ人数がいたらいがみ合う組合せがいてもおかしくないのに奇跡的な事だ。

「今はいい。これから先のヒョンジナの兵役中はどうやって守る。そういう目で見られるという事は…そういうトラブルにも巻き込まれる可能性があるよな」

男だらけの集団で性のはけ口が無い環境に、同性と付き合っているヒョンジンを放り込んだらどうなるかわかるだろう?

顔が引きつったチャンビンが言葉を失った。
そこまでの想像力が無かったのだろう。

「守るって、現実見てなきゃ守れないと思うけど」

「…気をつける」

自分達の行動がいかに危険行為だった思い知ったようだから説教はここまでにしよう。

「車にヒョンジナ置いてきたから迎えに行ってやりな。今頃葬式みたいに落ちこんでるんじゃないの」

「…そんなキツく言ったの?」

「キツく言わなくても感受性が豊かだから」

前に比べたらだいぶ精神的に強くはなったけれど、この業界で生き抜くにはちょっと弱いところがあるからな。
一般社会だとメンタル強めな部類に入るだろうけど。


リノに言われて車に迎えに行ったならば… シュンとして泣く寸前で耐えてた。
不謹慎だけど心の中で『かわいい!』なんて胸キュンしてしまった。

このかわいい生き物を守らないと。


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