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30分劇「人間教師・平山先生」

教室。平山先生が数学の授業をしている。生徒の田中がつまらなそうに椅子に座っている。

田中  平山先生ー、また計算ミスしてますよー。
平山  え!どこ!?
田中  そこですよ。7×8が53になってます
平山  ああ本当だ!ごめんごめん。あはは

黒板消しで消して書き直す。

田中  はぁ〜。先生、今日計算ミスするのそれで何回目ですか。
平山  う、何回目だったかな。いやぁ、毎回田中さんが気づいてくれるよね!さすが数学が得意な田中さんだ!
田中  いや、そんな計算、小学生だって間違えませんよ。私達、今年受験生なんですからね?先生のせいで数学ができなかったら、どうしてくれるんですか。
平山  うっ...すみませんでした...
田中  よりによって、高3で担任が平山先生なんてなあ。

平山授業に戻ろうとする。が、田中がまた話し始める。

田中  そういえば先生、今日、一限に授業に遅刻したんでしょ?2組の友達に聞きました。
平山  ばれたか
田中  ばれたかじゃないですよ。先生が授業に遅刻するなんて。まさか寝坊ですかぁ?
平山  ち、違うんだよ。実はね、通勤中に、すっごくムキムキな切り干し大根におそわれたんだ!私は、この世界を救わなくちゃいけなくて!そう、こんな風に

照明変化 回想が始まる
黒板から離れ、通勤中を再現するように歩く。
切り干し大根が反対側から歩いてくる。

大根  あーっはっはっはぁ!おはようございます!突然だがこの世界を征服してやるぞ!もう俺様はみじめに切り干されるのはゴメンだぜ!
平山  なにぃ!?そんなことさせるか、私が相手になってやる!
大根  馬鹿め!人間如きが俺様に適うと思ってるのか?俺様は今まで、数々の人間に食べられ、屈辱を味わってきた。そう、人間が切り干し大根を味わっている間、俺様は屈辱を味わっていた。んふふっ、ちょっとこれうまくない?俺様めっちゃ面白くない?
平山  うん、ゴミほども面白くないね!
大根  ……。堆肥ビーム!
平山  ごゎっはァ!

平山、後ろにふっ飛ばされるように倒れる

平山  ちょっと、いきなりこれはずるいだろう!試合の前は挨拶と握手って決まってるのに!
大根  うるせえ!試合じゃねんだよ!俺様は世界征服するんだって言ってんだろ!

平山立ち上がろうとするも、堆肥に埋まっていて立てない。

平山  くっ、どうして?私は、こんな所で大根のように土に埋まって一生を過ごすのか!?
大根  ふっ、ざまあねえな。お前みたいなド田舎出身のやつにこの世界は救えないってことさ。
平山  お、お前なんて畑出身のくせに。くそう、こんな所で諦めていいのか私!やらなきゃいけない事があったろう?さあ思い出せ、私の、私の使命は……生徒に数学を教えることだー!

平山、あっさり飛び起きる。

平山  やっべ忘れてた!早く学校行かなきゃ!

平山、慌てて走り出す。切り干し大根にぶつかる。

大根  キャッ!

切り干し大根、ぶっ飛ばされて倒れる。先生、走り去る。

大根  こうして、世界の平和は守られたのだった。

切り干し大根はける。先生黒板に戻る。

田中  いや、うっそだあ!
平山  という夢を見てね。
田中  夢かよ
平山  気づいたら時計の針は9時をさしていた。
田中  つまり、寝坊したんですね。
平山  まあ、そうとも言うかな?
田中  だったら最初から寝坊したって言ってくださいよ!何だったんですか今の無駄に長い時間は!一瞬なんの演劇だったか忘れちゃったじゃないですか!
平山  え、演劇?
田中  もういいです。先生にはもううんざりですよ。Siriに数学教えて貰ったほうがましですわ。そういえば先生、最近は病院など様々な場所で人工知能が使われているんです。この間、ドライバーという職業が完全に人工知能に切り替わりましたよね。教師という職業も、近いうちに無くなるかもしれないと言われているって知ってましたか?
平山  ええ、うん、テレビで聞いたことくらいはあるけど
田中  私、AIが先生になるなんてなんか嫌だなって思っていたんです。でも、先生みたいなへっぽこ教師なら、AIのほうが全然ましですね。AIなら寝坊も計算ミスもしないですし。
平山  そ、そんなこと言わないでよ。寝坊も計算ミスも、次からは気をつけるからさあ。
田中  それだけじゃないです。先生、私知ってるんですよ?
平山  えっ?
田中  先生、そのズボン、パジャマですよね?その変な鶏肉柄のやつ。いくら寝坊したからって、職場にパジャマで来るなんて。社会人として恥ずかしくないんですか?
平山  うっ!

先生、言葉がグサッと刺さった感じで後ずさる。

田中  それに、先生好き嫌いが激しくて、毎日お弁当にメンマとマスカットしか入れて来ないから、よく学年主任の先生に叱られてるとか。まるで小学生ですね。
平山  ぐはっ!言葉の矢が!
田中  さらにさらに、先生、この間1年生の授業中に板書しながら居眠りして、起こしてくれた生徒を寝ぼけて『ママ』って呼んだんでしょう?生徒はみんな居眠りせずに授業を受けていたのに、まさか先生が居眠りするなんて!
平山  うああ
田中  しかもこの年になって母親のことをママと呼んでいるなんて!

田中、矢を構えて打つ動作をする。

平山  グフっ

平山、腹のあたりを押さえながら今までよりも大きく飛びずさる。

平山  まてまてまて、お前今どさくさに紛れてマジで矢打ったろ!
田中  百均のなんで大丈夫ですよ。先は吸盤です。
平山  そういう問題じゃなーい!演劇だからってなんでもしていいと思うなよ!
田中  え、演劇?
平山  どおりゃっ

先生、矢を取って勢いよく地面に捨てる動作をする。田中、後ろをむいて上坂と喋っている。

田中  ね?やっぱり、AIが先生のほうがいいよ。上坂もそう思うよね。
上坂  あはは
平山  ううううう、お前ら、いい加減にしなさい!先生怒るぞ!
田中  怒るのもいいですけど先生、板書にもう1箇所間違ってるとこがありますよ。
平山  えっマジで
田中  マジです。5+7が桶狭間の戦いになってます。
平山  そんな間違いありえる!?どこよ!
田中  あー、もうちょっと右ですかね。先生そっち左です。そうそう、もっと右もっと右。
平山  いや、そんなのどこにもないけど
田中  ありますよ。だからもっと右です。もうちょい!あと3歩!おまけであと5歩!大サービスであと9歩!

平山、そのまま右に進み続けて退場。田中、後ろを振り返る。

田中  よし!みんな、今日は自習にしよー!

暗転


明転

朝。教室。田中が入ってくる。

田中  おはよ〜
上坂  おはよ

田中、席に着く。
チャイムが鳴る。数井先生が入ってくる。

数井  おはようございます
田中  えっ、誰?
数井  私は今日から皆さんの担任、数学の教科担当になる、人工知能教師ロボットの数井です。
田中  え、人工知能?まさか、ほんとに教師がAIになっちゃうの!?
数井  ええ、そういう時代ですからね
田中  そんな、急に。平山先生はどこに行ったんですか?
数井  平山先生は私が来たためもう必要ありません。解雇になりました。私は平山先生よりも遥かに仕事ができます。何も問題ありません。
田中  は、はあ。
数井  では、数学の授業を始めましょう。

先生、黒板に向かう

数井  なんたらかんたらふんふふふん
田中  うぉぉ、数井先生の授業、すっごいわかりやすい!
数井  ほにゃららほにゃららはにょはにょへ
田中  黒板も綺麗で見やすいし、計算ミスもない
数井  うんたらかんたら
田中  パジャマ着てないし、居眠りもしない!

上坂、うとうとし始める。

数井  上坂さん、起きてください。

数井が近づいて肩をぽんとする。
S E 電流の音

上坂  うわあっ!今、電流が!すごい、こんな機能もあるんだ。一瞬で目が覚めたよ!

授業を続ける。

数井  では教科書の例題を解いてください
田中  うーん、この問題難しいな。先生、質問

手を挙げかけるが、途中で止めて辺りを見渡す。

田中  えっ、上坂も質問?お前も?あっ、お前も?あーじゃあ私後でいいで
数井  田中さん、そこは連立方程式を使えばいいんですよ。佐藤さん、最初のほうで計算ミスをしていますね。答えは綺麗な数字になりますよ。もう一度丁寧にやってみてください。鈴木さん、そうですそのxに代入してください。上坂くん、トイレットペーパーはおやつに入りません。
田中  え、何も言ってないのに質問が先生に伝わってる!しかも全員同時に答えられるなんて!最高だよ数井先生!
数井  こんなことも出来ますよ。
田中  ワーオ頭から大根が生えた!
数井  ムシャア
田中  生で食べるなんて健康的!メンマとマスカットと肉汁とレモン汁しか食べない平山先生とは大違いだ!

チャイムが鳴る。

数井  終わります。休み時間にしてください。

数井、出ていく。

田中  なあ上坂、数井先生すごいよね!やっぱりAIって有能なんだ。平山先生よりずっといいや。
上坂  うーん、でも、僕は平山先生の方が良かった、かな。
田中  え、まじで言ってんの?物好きだなあ、上坂。あんな先生のどこがよかったんだよ。
上坂  平山先生、今頃どうしてるかな?落ち込んでいないといいんだけど。
田中  大丈夫大丈夫、平山先生なんて今頃きっとまだ切り干し大根の夢見ながら寝てるよ。
上坂  でも、
田中  この話はもうやめにしようぜ。
上坂  わかったよ。そういえばさ、今日の朝ブリッジしたまま自転車を漕ごうとしたらできなくて、転んじゃったんだ。
田中  あははは!バカだなあ上坂。脳みそお豆腐と交換しちゃったの?

チャイムが鳴る。

田中  あっ、次の授業始まるよ。上坂、もうこの間みたいに音読を全て「ダブルドリブル」って読んだりしちゃダメだからね!またバスケットボール咥えたまま廊下に立たされちゃうよ!

田中、前を向く。

田中  約5時間後!

チャイムが鳴る

田中  はぁーやっと学校終わった。上坂、また明日!最近この辺りでよく不良が溜まってるから、寄り道しないで帰るんだよ?じゃあね。

田中、退場
田中、入場

田中  おっはよ〜!あれっ?上坂、今日はまだ来てないんだ。いつもなら誰よりも早く登校して教室で等加速度直線運動してるのに。

チャイムが鳴る。数井、入場

数井  おはようございます。
田中  あっ、先生おはようございます。
数井  授業の前に、一つ連絡があります。今朝、上坂さんが登校中に不良に連れ去られたそうです。
田中  ええ!?あの上坂が、どうして!
数井  ブリッジダッシュしながらダミ声で「上を向いて歩こう」を歌っていたところ、目をつけられたそうで。
田中  そりゃ絡まれるよ!上坂はバカだなあ!
数井  そうですか、大変ですね。では授業を始めましょう。
田中  はあ?先生、授業どころじゃないでしょう!上坂がピンチなんですよ!助けに行かなきゃ!

数井、iPadのようなものを見せる。

数井  どうしてですか?上坂さんはバカです。私のデータによると、上坂さんの過去30回分の模試の結果はこのようになっています。この数字から考えると、上坂さんがこの先どう頑張ったとしても、国公立大学に行ける確率は7.5パーセント、東京六大学に行ける確率は2.23パーセント、東京大学に行ける確率は0.014パーセントです。彼を探すのにかかるであろう時間は約3時間。数学の授業が出来なくなります。貴方達は今は大切な時期のはずです。よって、助けに行く労力と損害、彼を助けることで得られるであろう利益を総合的に判断した結果、上坂さんを助けに行く価値はありません。
田中  何言ってんだよ、お前、それでも教師か!?確かに上坂は国宝レベルのバカだけど、誰よりも優しい奴じゃないか!なのに、どうしてそんな冷たいことを言って突き放すんだ!お前なんて、お前なんて人間じゃない!
数井  私は人間ではありません、最先端技術が搭載された人工知能教師ロボットです。
田中  もういい!私がひとりで上坂を探しに行く!

田中、教室を飛び出す。

数井  この授業を欠席することで、田中さんの次の模試で下がるであろう点数、2.6点。それによって、志望校に受かる確率、-3.1パーセント。田中さんはこのクラスでは数学の成績はトップ。他の教科の成績も考えると、このクラスで最も偏差値の高い大学に行ける可能性が高い。
他の生徒は行けても地方国公立か.....田中さんがいないのなら、この授業をする意味はあまりありませんね。今日は自習にしてください。

数井、退場

田中、走りながら入場。疲れた様子で床に座り込む。

田中  はあはあ、くそっ、上坂、一体どこにいるんだよ!ああ、こんな時、平山先生なら!そうだ、平山先生はへっぽこ教師だけど、生徒のことを大切にして思いやる気持ちはどの先生にも負けなかった。私みたいな生意気な奴にも、上坂みたいなバカにも笑顔で接してくれた。こんな時だって、一生懸命上坂を探してくれたはずだ。計算ミスをしたって、遅刻したって、なんだって言うんだよ。人間なんだから、失敗くらいあるじゃないか。それよりも大切なことは、人を思いやる気持ちだ。やっぱり、私達の担任は平山先生じゃなきゃ嫌だ!

田中、再び立ち上がり、走って退場。

平山先生入場。ゆっくり歩きながら。

平山  はぁ〜、まさか急に解雇にされちゃうなんてなあ。もう嫌になっちゃうよ。やっぱり、私には教師なんて向いてないんだ。大根農家に転職するしかないのかなあ。もう嫌だ、こんな人生。
平山  あれっ?上坂くんじゃない。こんな所で何してるの?学校は?
上坂  俺、登校中に頭にお寿司乗せたヤンキーに連れ去られて。
平山  それ多分お寿司じゃなくてモヒカンだよ。大丈夫だった!?どこもけがしてない?
上坂  はい。和解しようと思ってドブで拾った梅ゼリーをあげたら気味悪がって逃げていきました。
平山  よかったあ。
上坂  ヤンキーって梅が苦手なんですね。
平山  多分そういう問題じゃないけど、上坂君が無事で何よりだよ。
上坂  ありがとうございます。やっぱり平山先生は優しいな。
…あのね、先生。俺、やっぱり平山先生に担任を続けてほしいんです…。
平山  …ごめん。先生はもう君達の担任には戻れないよ。数井先生、すごく優秀だったろ?
上坂  (少し俯いて悲しい顔をする)
平山  そんな悲しい顔したってだめだよ、上坂くん。
上坂  (渾身の変顔)
平山  そんな変顔したってだめだよ。

二人、退場


田中、入場。客席側に向かって、ドアをノックして開ける動作をする。

田中  トントントン、ガチャっ。校長先生、失礼します。3年B組の田中です。お願いです、平山先生に帰ってきて欲しいんです!実は、かくかくしかじかで。はい、はい、失礼します。

田中、扉を閉める仕草をして、退場。

田中、とぼとぼと歩いてくる。席に座る。

田中  昨日、クラス全員で上坂を探したが、結局上坂はみつからなかった。
校長先生に担任を平山先生に戻して欲しいと頼んだ。校長先生は考えておくと言っていたが、平山先生は帰ってきてくれるだろうか。私達一体これからどうなっちゃうんだろう。

チャイムが鳴る。

平山  おはようございま〜す
田中  えっ、平山先生?平山先生ですよね!その寝癖!そのパジャマ!間違いない、平山先生だ!
平山  ふふ、実は昨日いきなり校長先生から連絡があって。田中さん、君が校長先生を説得してくれたんだろう?
田中  い、いやぁ、あれは別に、って、そうだ平山先生、上坂が!
平山  上坂くんは無事だよ、ほら、上坂くん、いつまでも田中さんの机の下に隠れてないの!
田中  えっ?ピギャアアアア!

田中、驚いで椅子から思いっきり立ち上がる。机の下をのぞき込みながら。

田中  上坂、そんな所にいたのかよ!よかったあ!もう、びっくりして心臓どっかに飛んでっちゃったよ〜!
上坂  田中。僕のこと探してくれてありがとう。
田中  よせやい、照れるだろ。親友なんだから当たり前だよ。ふふ、そんな変顔するなよ!
上坂  ひひゃやわせんせえがたすへてふれた
田中  平山先生が助けてくれた?

田中、立ち上がる

田中  平山先生、ありがとうございました。
平山  うん、どういたしまして。こちらこそありがとう、田中さん、上坂くん、みんな!
田中  そ、そんな大声でお礼を言わなくてもいいですよ。
平山  ふふっ。じゃあ、みんな、授業を始めようか。
田中  はーい

田中、席に着く。平山、板書を始める。

平山  じゃあまずはこの問題ね。うんたらかんたら…
田中  先生、また計算ミスしてます。
平山  えぇー!?ほんとだごごごごめんなさいい
田中  いいですよ、別に。間違い探すのも勉強になりますし。
平山  え、今日田中さん何だか優しい。
田中  そうですかね?まあ、人間なんだから誰だって間違いはありますよ。
平山先生、私達ずっと応援してるんで。これからもよろしくお願いします。
平山  うんっ!!先生頑張るよ!えへへ。
田中  あと先生、私達今日の一限数学じゃなくて国語です。
平山  ぴょええ〜〜〜
田中  国語の先生さっきから教室の外で待ってますよ。早く出てってください。
平山  もぉ〜気付いてたなら早く言ってよね〜!それじゃあみんな国語頑張って!

平山先生、慌てて退場しようとする。退場する寸前に、一瞬止まり、真顔で

平山  生徒との絆を深めるプログラム、完了しました
田中  ん?先生、今何か言いました?
平山  ううん!なんでもないよ〜っ!

平山、退場
暗転


明転

どこかの会社。社員がプレゼンしている。

社員  今みなさんがご覧になったVTRのように、私達のチームが開発した人工知能教師ロボット平山は、見た目、動き、喋りともにとても自然である上に、生徒を思いやり親身になる機能もついております。あえて定期的にドジを踏むようにプログラミングすることで人間らしさを出し、生徒達に人工知能であることを気付かせない上に、先生から教わるだけでなく助け合うことで思いやりの心も育むことができます!さらに、万が一生徒達が平山に不満を持った場合は、VTRのように、平山よりもロボットに近い数井を登場させることで、生徒と平山との絆を深めるプログラムも搭載されています!さあ、時代は人工知能の時代です!!是非、教育現場にも人工知能を!

暗転
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