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30分劇「お騒がせ法廷」

裁判所。下手側に裁判官と検察官、上手側に信雄が項垂れた様子で立っている。

裁判官 被告人は、弁論をどうぞ。
信雄  はい。

信雄がゆっくり舞台の中心に歩み寄り、客席に向かう。

信雄  傍聴席の皆さん、こんにちは。俺は鈴木信雄。19歳。真面目なごく普通の大学生…でした。幼馴染の康介を殺害しようとした疑いで捕まるまでは。
確かに、俺は事件の直前まであいつと2人でしたし、あいつとは昔から犬猿の仲だったことも事実です。何度も殴り合いの喧嘩をしました。口論がエスカレートしてあいつに死ねと言ってしまったことだってあります。でも、そんな事、誰だって1度や2度はあるでしょう!?いくら仲が悪くたって、本気で幼なじみの死を望んだりしませんよ!俺はあいつを殺害したりなんかしません!俺は、俺は無罪なんです!

信雄、席に戻る
裁判官が木槌を叩く

裁判官 静粛に!判決を言い渡す。鈴木信雄、有罪。
信雄  ヒョエ!?もう有罪!?展開早すぎやしませんか!?
裁判官 3ヶ月前に丸山康介を三角コーンの先端で刺した殺人未遂の罪。被害者は未だ意識不明の重体。容疑を否認しており、反省の色も伺えない。よって、懲役10年の実刑判決とする。
信雄  そんな…ちょっと待っ
康介  ちょっと待ったあああ!

扉から康介が駆け込んでくる。

検察官 何者だ!侵入罪にあたるぞ!
康介  うるさい!知ったこっちゃないよ!
信雄  こ、康介!?お前、なんで!
康介  よう、久しぶりだな。
検察官 丸山康介…!?意識不明の重体で入院しているのではなかったか?
康介  ああ、俺な、幽霊なんだよ。
信検裁 ……は?
信雄  どういうことだよ、康介?
康介  数時間間、俺は病院で意識を取り戻し、ベッドから体を起こした。すると俺は先程まで自分が寝ていた場所で誰かが眠っていることに気がついたんだ。そいつを見てみると、自分自身だったんだ。どうやら今の俺は、幽霊になっているみたいだ。
信雄  何言ってんだこいつ、頭打ってアホに磨きがかかったのか?
康介  お前、信じてくれないのか!?折角俺が来てやったのに!
信雄  信じるわけないだろ!?こんなうるさい幽霊なんて!すみません、こんな奴ほっといて大丈夫です。
検察官 ええ。
裁判官 え、本当に大丈夫なんですか。ゆ、幽霊って
検察官 大丈夫ですよ。幽霊な訳ないじゃないですか。きっと病院で意識を取り戻し、寝ぼけて出てきてしまったのでしょう。ご家族や病院の方々が探しているはずです。取り敢えずご家族に連絡を
康介  検察官め、お前、そんなこと言って誤魔化そうったって無駄だぞ!それより!こんなふざけた判決、納得出来るか!

康介、裁判官から木槌を奪い取り、叩く

康介   異議あり!異議ありィ〜!
信検裁 …はぁ?
康介  えっ、知らないの!?異議ありって言ってんだよ!
裁判官 いや、ちょっ、それ返せや!

裁判官、キレ気味に康介から木槌を奪い返す

裁判官 ゴホン。えっと、つまり貴方は彼の罪をもっと重くして欲しいと?
康介  違うよ!そうじゃなくて、あいつは無罪だ、って言ってるんだ!
信雄   康介!
検察官 はっ、そうか、本人に意識が戻ったのなら、直接話を聞かない手はない!それで、事件当日何があった?鈴木が犯人ではないと言うのか!?
康介  だから、意識が戻ったって言うか、俺は幽霊なんだけど。まあいい
か。
そう、それは3ヶ月前の事だった。その日も俺達は、バイト帰りにいつものようにくだらないことで喧嘩しながら夜の商店街を歩いていたんだ。こんな感じで…

康介、信雄を無理矢理引っ張って再現を始める。
端からゆっくり歩きながら棒読みで話す。

康介  ばーかばーか、主根と側根がある植物の方が勝ち組に決まってるだ
ろ〜!信雄ばーかばーか!
信雄  え、えっと、なっ、なんだとぉ!?ひげ根のダンディ具合を舐める
なよ!?康介のあほ!…こんな会話したっけ?
康介  んもぅ、信雄なんて大嫌い!俺の最終奥義デコピンでやっつけてや
るう!
信雄  お、俺だって最終奥義のフラダンスで地獄を見せてやるよ!

康介、信雄の耳元で何が囁く

信雄  あ、そうだった。

再現に戻る

信雄  じ、地獄を見せてやるよ!でも今日は見たいアニメがあるからもう
帰るね、アホの康介!
康介  なんだ、じゃあ今日のところはこのくらいにしといてやる!あば
よ、馬鹿な信雄!
信康   ふん!

2人は思い切り顔を逸らして、逆方向に歩いていく。
康介、真顔で客席を向く

康介  で、ここからの記憶が無い。
信雄  1番大事なとこ!!
検察官 なるほど、事件の前に信雄さんと別れたから、自分を刺したのは信
雄さんではないと言いたい訳だな。
康介  そういうことだ!
信雄  そういうことなんです!
検察官 しかし、別れた振りをして背後に潜み、犯行に及ぶ、というのはよ
くある手段だ。
信雄  そんな訳ないじゃないですか!なぁ康介!
康介  そうなのか!?
信雄  えぇ!?おまっ、お前勘弁してくれよ!何か俺が無罪だって証明で
きるものがあるんじゃないのかよ!?
康介  証明?うーん、それは特にないな…。
信雄   はあ!?だったらなんのために来たんだ!
康介  なんのためって、そりゃあ…まあ、そんなことどうでもいいだろ?
信雄  良くないよ!この大雑把野郎!!そうだ、そもそもお前が居なけり
ゃ俺はこんな目に会うこともなかったんだ!くそっ、昔からお前は
俺に迷惑ばっかりかけて…!
康介   何い!?俺がいつお前に迷惑かけたって言うんだよ!?
裁判官 せ、静粛に!静粛に!!
信雄  す、すみません。
検察官 ほ〜う、昔から迷惑をかけられていた、と。
信雄  そうなんですよ!こいつとは小学校からの付き合いになりますが、
寝てる間に勝手に俺の前髪切ったり、俺の名を騙って上級生の教室
に爆竹投げ込んだり、俺の靴の中でハムスター飼ったり、とにかく
いつもやりたい放題で!本っ当に迷惑してたんです!
裁判官 うわぁ、可哀想
康介  お前がいつでも真面目すぎるから、俺がちょっとしたお茶目心でお前の平凡な日々に彩りを添えてやってるだけだろ!?それにお前靴の中のハムの助めっちゃ可愛がってたじゃん!
信雄  余計なお世話だよ!ハムの助はかわいかったけど余計なお世話だよ!!俺の平凡な日々を返せよ!
検察官 それはそれは。さぞかし恨みも募っていることだろう。
信雄  そうなんですよお
検察官 だから、ついに耐えられなくなって今回の犯行に及んだ。そういうことだな。
信雄  そうなんで、って違います!本当に俺はやってないんですって!
康介   そうだそうだ!!
信雄  お前は黙ってろこの役立たず!
康介  なんだとぉ!?やんのかゴラァ!
信雄  上等だゴラァ!!

お互いに殴りかかろうとする。

裁判官 ちょっと、2人とも暴力は…
検察官 そうだ、暴力はやめなさい。
信雄  すみません
康介  へっ、ビビってやんの。
信雄  あぁ!?

信雄、下ろしかけた拳を再度挙げる

検察官 だから…。あぁ、成程。やっぱり相当仲が悪いんだな。これならふとした瞬間に殺意を持ってもおかしくない。
信雄  えっ!?い、いやいや違うんですよ!ほら!僕らとっても仲良しです〜!ね、康介くん!

信雄、康介と肩を組む。康介振り払う。

康介  なんだお前。気持ち悪っ。
信雄  お前なぁ!俺の無罪を証明する気あるのか!?
康介   なんだよ、偉そうに!
裁判官 あーあーあーあーあーー!!!!

一同、驚いて裁判官の方に注目する。

検察官 さ、裁判官?
裁判官 あ〜やだやだ。やってらんねえよもう。折角今日の仕事終わったと思ったのにさァ、いきなり変な奴乱入してくるとかほんとにありえないんですけど。
康介  えっ、俺?
検察官 ですが、一応この方はこの事件の被害者で
裁判官 知らん知らん。どうでもいいよー…。はやくお家に帰りたい。ね〜ガべ子ちゃん。

裁判官、木槌を撫でる。

信雄  が、ガべ子ちゃん?
康介   どうしたんだろうこの人急に。さっきまでめっちゃおとなしかったのに。
裁判官 大体さぁ、現代人は働きすぎなんだよ。お仕事大好きか。まあ、私だって幼い頃から裁判官に憧れてた訳だから、最初はこの仕事に誇りを持ってやっていたよ?最初の3ヶ月だけね?
康介   短っ
検察官 お黙りっ
裁判官 だけどさ、気づいちゃったんだよ。どんなに頑張っても無駄なんだ。この世はこんなにも犯罪で溢れているんだよ?悪い人ばっかりなんだよ?なのに、何も悪いことをしないで真面目に働いてる私が、どうして生まれてこのかた友人も恋人もできたことがないんだろう。もう正直正義なんてどうでも良くなっちゃった。どんな善人が無実の罪で捕まろうが知ったこっちゃないよ。はぁ、なんで私裁判官になったんだっけ。というかなんで私なんかが裁判官になれたんだろ。
検察官 それは私もよく疑問に思いますが。
裁判官 言うねえ。そうだよ、どーせ私なんかゴミ人間だよ。みんな私の事嫌いなんだ。だから今日の裁判だって裁判官が私1人だけなんだよ。みんな逃げちゃったんだ。ううう。
康介   ほんとだ、よく考えたらこの裁判異様に人が少ない。
信雄  だよなぁ。それ突っ込んでいいのか迷ってたんだよ。
検察官 はぁ。そうですね、確かに貴方はゴミ人間かもしれないし、全人類に嫌われているかもしれませんが、それとこの裁判に裁判官とか弁護人とかその他諸々足りないうえにそもそも設定がガバガバなのは無関係です。元気だしてください。
裁判官 君、わざとか?わざとなのか?
検察官 ほら、お喋りはやめて、さっさと裁判の続きを始めますよ。
裁判官 嫌だ。もう君のせいでやる気なくした。それに、私はもう帰るからな。もうすぐおバアさんといっしょが始まる時間だもん。
康介  え、まだおバアさんといっしょなんて見てるの?信雄でさえ中1で卒業したのに。
信雄  お、おい、それは秘密だって言ったろ!?
裁判官 なんだ少年。いい歳しておバアさんといっしょを見ることの何が悪い。私はガチ勢だぞ。推しは音楽の国の妖精、うーさん。同担他担歓迎だ。
信雄   聞いてないです
裁判官 あぁぁぁぁうーさん不足で禁断症状が。ふわわわわわわ
信雄  うわ、こんな裁判官前代未聞だよ。
康介  この人やばい人じゃん。
検察官 紹介が遅れてすまない。この人はやばい人だ。
裁判官 私泣いていいかな?
検察官 勘弁してください。鬱陶しいんで。
信雄  あの、それで俺の裁判は
検察官 無論しっかりと行う。すまなかった。
裁判官 しょうがないなぁ…あとちょっとだけだぞ…
検察官 それで、丸山康介。何故記憶が無いのに鈴木信雄が犯人ではないと思うんだ?
康介  何故、って言われてもなあ…。10年以上一緒にいるとな、なんとなく分かるんだよ。相棒の勘ってやつだ。へへっ。
信雄  誰が相棒だよ。
検察官 うん、それでは証拠がないので困るな。
康介  だろうな。テヘッ
信雄  お前、ふざけてんのか?俺はなぁ、この事件のせいで、友達も恋人も失ったんだよ!お前にこの気持ちがわかるか!?
裁判官 へ、トモダチ?コイビト?それって、都市伝説じゃなかったの?

一同、沈黙。

信雄   そうだったーやべー俺よりやばい人がいたー
検察官 だから言っただろう。あの人はやばい人だ。
裁判官 えっ?なんのこと??え??
検察官 話を戻そう。
裁判官 無視か。泣くよ?本当に。いいの?泣いたらちゃんとあやしてよ?私なかなか泣き止まないぞ?
検察官 そうだな。このままだと、やはり先程判決があったように実刑判決になるのだが。
信雄  そんな!ちょっと待ってくださいよ!
こ、康介、なんとか言えよ…
康介  俺にどうしろっていうんだ!
検察官 何か新たな情報が無い限り、どうしようもないな。何も進展がないなら、我々も無駄な時間を過ごしている暇はない。あそこで居眠りしているアンポンタンもいるしな。

一同、裁判官の方を向く。
裁判官は机に突っ伏して寝ている。

裁判官 ぐこー…ぐこー…
検察官 起きなさいアンポンタン!
裁判官 ふぁいっ!!

裁判官、寝ぼけて木槌で手を叩く

裁判官 いってえええ!!もうやだこんな人生!
信雄  だ、大丈夫ですか?
裁判官 大丈夫じゃないよ!もう帰ってやる!
信雄  えぇ!?それは困ります!
検察官 まだ裁判は終わっていませんよ!
康介  こら、待て!
裁判官 うるさーい!!みんな大嫌い!

出ていこうとする裁判官をみんなで追いかける
裁判官、扉を開けようとするも、開かない

裁判官 あ、あれ、開かない。おい検察官!私が帰らないように鍵をかけたな!?
検察官 そんな訳ないでしょう。鍵なんてかけていませんよ。…あれ、本当に開かない。
康介  俺が入ってきた時は普通に開いたぞ?お前ら非力だなあ。ぐぬぬぬぬ!あ、開かない!なんでだ!?
裁判官 と、閉じ込められたのか!?みみみみみんなおちついて!せせせせせせせせいしゅくに!あばばばばば!
検察官 お前が落ち着け。しかし、一体どうやって。
信雄  あの、なんか扉の上に紙が貼られてませんか?
検察官 紙?ああこれか。
信雄  なんて書いてます?

検察官、扉に貼ってある紙を外して広げる

検察官 「○○○○り」しないと出られない部屋
裁判官 どういうこと…?
検察官 さあ。こんなこと、一体誰の仕業なんでしょうか…。
康介  暗号か?脱出ゲーム!?なんか、ミステリーっぽくてわくわくしてきた!
信雄  わくわくしてる場合じゃないだろうが。
検察官 とにかく、この部屋から出られないことには困ります。ここは一旦この紙に書かれていることに従ってみましょう。
裁判官 うわあああ面倒臭い。最悪だよお
信雄  5文字で、最後がりで終わるもの。
康介  うーん…あっ。

康介、信雄の前で両手を広げる

康介  行き止まり〜!
信雄  はぁ?
康介  だから、行、き、止、ま、り!

SE 不正解の音
検察官、扉が開かないことを確認

検察官 では、ないようですね。
裁判官 なんだぁ。
康介  でも、この調子でどんどん試していこうぜ!
信雄  わ、わかった!
裁判官 じゃあ…これ

裁判官、木槌を愛でる

裁判官 お気に入り〜!木槌のガベ子ちゃんだよ!

SE 不正解の音
検察官、扉が開かないことを確認

検察官 だめですね。お気に入り、でもない。
裁判官 えー!?ガべ子ちゃんこんなに可愛いのに〜。

検察官 じゃあ、夕飯に食べようと思っていたのだが…仕方がないな。

検察官、おにぎりを取り出す
裁判官、瞬時におにぎりを奪って食べる

検察官 ハッ!?
裁判官 むぐむぐ、あっ、これはコシヒカリ!
検察官 貴様あああ!
裁判官 えぇっ!?どうしたの急に。怖っ

SE
康介、扉が開かないことを確認

康介  ぶっぶー!コシヒカリでもありませーん!
検察官 何してくれてんだおバカ!!
裁判官 す、すみません…
検察官 お前のような怠け者が私のコシヒカリおにぎりをタダで食っていいわけが無いだろうが!金を払え!5000円だ!
裁判官 5000円!?ぼったくりだよ!

SE
康介、扉が開かないことを確認

康介  残念、ぼったくりも違います〜!
検察官 お黙んなさいよ!!今のは違うだろ!さっきからうるさいんだよお前!
信雄  そうだぞ康介。ちょっと大人しくしてろよ!いつもいつも、お前は出しゃばりすぎるんだよ!!

SE
裁判官、扉が開かないことを確認

裁判官 あー、出しゃばりも違うみたいだ。
信雄 あ、いえ、今のは別に。
康介 お前だってなぁ、自分はなんにもしないくせにいつも否定ばっかり!へそ曲がりなんだよ!

裁判官、扉が開かないことを確認

裁判官 へそ曲がりも違うみたい…はぁ…
康介  いや、今のは違うよ!
信雄  うるさいなぁ!はぁ、お前っていつからこんなにぶっ飛んじゃったんだっけ。小学生の頃はもうちょっと大人しかったのに。
康介  お前だって、小学生の頃は可愛かったぞ?俺のことこうちゃんって呼んでたもんなあ。
信雄  や、やめろよそんな話!恥ずかしいだろ!?
康介  こうちゃーん!(裏声)
信雄  うるせ、…待てよ?そう言えば、お前だって小学生の頃俺のこと漆黒の畑より召喚されし泥大根野郎って呼んでたよな!?
康介  やっ、やめろよォ!恥ずかしいだろ!!
信雄   恥ずかしいのは俺だよ!!主に俺だよ!!
康介   だからお前あの頃俺と外歩くの頑なに拒否してたんだな。…なんか、ごめんな。
信雄  は?え、あぁ。なんだよ、やけに素直だな?
康介  あははっ。いや、お前の顔見てたら、昔のこと色々思い出しちゃってさ。懐かしいな〜って。
信雄  康介?
裁判官 わかるわかる〜、私も赤ん坊の頃から人生やり直したいよ。
検察官 空気って読んだことあります?
康介   覚えてる?小学生の時、学校帰りに、いつも八百屋に寄って大根を買い食いしてたこと。
信雄   記憶にねえよ。
康介  1本の大根を2人で割り勘して半分こしてさぁ。どっちが甘味の多い上の部分を食べるかいつも喧嘩してたなぁ…
信雄  だから記憶にねえよ。
康介  なんだよ。じゃあ、学校の裏裏庭に2人で秘密基地作ってゲームした
ことは?
信雄  それは…、覚えてる。
康介  高校生の時、マッスルボディを手に入れる為に部活終わりに2人で大根おろしのお湯割りを飲んでたことは?
信雄  うん、それは無い。
康介  なんだろう…。俺、お前とは喧嘩ばかりしていがみ合ってたと思っていたんだけど、楽しかった思い出を振り返ると、そこにいつもお前がいる気がする。
信雄  な、なんだよ急に。昔の話なんて、お前らしくないなあ。お前、高校生の時、俺は未来だけを見つめて生きていくんだ!とか言って世界史の教科書解体してタイムマシン作ろうとしてたくせに。
康介  そうだったな。あの後、先生に呼び出されてタイムマシンは多分紙製ではないってことを5時間に渡って教えられた。ははは、馬鹿だよな、俺。
信雄  本当にな。…まあ、俺はおまえのそういうとこ、嫌いじゃなかったけど。
裁判官 可哀想な先生…
検察官 シッ、今いい雰囲気でしょうが!
康介  ああ、そうか…これが、走馬灯ってやつかな?

沈黙が流れる。

信雄  だから…。何馬鹿なこと言ってるんだよ。幽霊だってか?そんなこと、信じられるわけないだろ?
康介  本当なんだ。俺だって信じられないけど。
信雄  じゃあ、教えてくれよ。お前は、どうして記憶がないのに俺を信じてこんな所まで来てくれたんだ…?
康介   決まってんだろ。お前は俺の親友だからな。
信雄   康介
康介  結局、お前の無罪を証明してやれなくてごめん。でも、俺は最後にお前と仲直りがしたかったんだ。いつもお前を振り回して、喧嘩ばっかりして。自分が悪いって分かってても、意地張って謝ることも出来なかった。でも今なら言えるよ。今までごめんな、信雄。
信雄  あのな、康介。俺、本当はお前が羨ましかったよ。明るくて、怖いもの知らずで。迷惑かけられたことも沢山あったけど、もしお前がいなかったら俺の人生はもっと味気ないものになっていたと思うんだ。だから、お前が幽霊だなんて信じてないけど、もしこれが最後だったとしても、最後の言葉がごめんなんてやめてくれよ。
康介  信雄。ありがとう。
信雄  あぁ。こちらこそ、ありがとう。

SE 正解の音、鍵が開く後

信雄  扉が開いた。
検察官 仲直り、だったんだな。
康介  うん。じゃあ、俺はもう行くよ。
信雄  康介、また会おうな。
康介  おう!

康介、出ていく。

検察官 ちょっとまだ理解が追いついていないのだが…
裁判官 なんかしんみりしちゃったな…。
検察官 結局、この密室は誰の仕業だったんでしょうね。
裁判官 きっと、これは神様からのプレゼントだよ。幽霊になった康介くんが最期に信夫くんと仲直りできるようにって、神様がこの密室を作ってくれたんだ。友情パワーだね。
検察官 だから、幽霊だとか神様だとかある訳ないでしょう。またそんなメルヘンなことを。まあいい、じゃあ、裁判を続けるか?
信雄  はい…

電話が鳴る

検察官 ちょっと失礼。…はい、はい。えっ!?調査の結果、丸山康介に三角コーンを刺したのは野良アライグマだったことがわかった!?
信裁  ええっ!?
検察官 はい、はいわかりました。…ということで、鈴木信雄は無罪だ。お疲れ、帰っていいぞ。
裁判官 おおっとすごい急展開だ!
信雄  ちょちょちょ、ちょっと待ってくださいそんなあっさり!?

再び電話が鳴る

信雄  今度は何すか!?
検察官 丸山康介のお母様からだ。
信雄  あっ
裁判官 …もしかして康介君、ほんとに死んじゃったのかな。
検察官 はい。えっ?数時間前に目を覚ました!?
信雄  はいぃ!?
検察官 そして病院を飛び出してしまったと!?
信雄  やっぱり幽霊だなんて嘘じゃねえか!あいつ!

扉が開く

康介  ただいま信雄おぉぉぉぉ!!
信雄  ドワァ!
康介  ごめん、俺さぁ、やっぱり生きてたわ!
信雄  おおおおいお前、お前心配かけさせやがって!最後の方、ちょっとだけ幽霊だって信じちゃったじゃねえか!
康介  それなんだが、よくよく思い返してみたら、意識が戻った時に俺のベッドで寝てたの、俺の肉体じゃなくてお見舞い中にうたた寝してた父ちゃんだったんだよ。いやー俺も親父に似てきたなぁ。
信雄  そんなことある!?
康介  いやぁ、早とちりだったよ。友情パワーって凄いなぁ。
信雄  何が友情パワーだふざけんなこのおさわがせたくあん野郎が!
康介  ヒエー!

2人、騒ぎつつ追いかけっこしながら出ていく

検察官 ハッ…!わかったぞ。これは夢だ。絶っ対に夢だ。だっておかしいだろう、こんなめちゃくちゃな展開、きっとド素人が書いた演劇の脚本でしか起こらないぞ?
裁判官 現実逃避かい?それなら私の得意分野さ!君も一緒にうーさん推そうよ。
検察官 夢だ。隣にいる裁判官(仮)が前代未聞のアンポンタンなのも全部夢だ。夢だ夢だ夢だ
裁判官 (仮)とか言うなよ!一応裁判官なんだよ!自分でもほんとに意味わかんないけど!

ガシャーン

康介  うわっ!なんだ?この、蛍光色のしゃれこうべが描かれたくそださいコップ。
検察官 ……ふふふっ。私のお気に入りのマグカップ割りやがったのは誰かなあぁぁぁ!?

検察官、2人を探すために飛び出す。

信雄  わあああ!!逃げろおお!!
裁判官 あーあ、行っちゃった。……やっぱり、私は今回の件は神様のいたずらだったんじゃないかと思うよ。友達って、いいなあ。
…ハッ!やばい、おバアさんといっしょ終わっちゃう!!

裁判官、慌てて立ち上がる

裁判官 というわけで、今日の裁判はこれにてお終い!うーさああん!

裁判官、出ていく
終わり
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