隣の伊達さん
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広光くん成人済み事件の翌日、私はいつも通り出勤し、与えられた仕事をこなしていた。
今日のお昼は昨日話題になっていたカフェに行ってみるつもりだが、流石に一人では行きたくない。お昼は誰かと食べたいのだ。
「ねえ、ミョウジさん、昨日近くのカフェがテレビで紹介されてたの知ってる? 一緒に行ってみない?」
そう声をかけてくれたのは、私の近くに座っている先輩だった。
なんとまあ、図ったかのようなタイミングで声をかけてくれたことだろう。この先輩は新しいものや流行りのものに目がないから、まあ当然と言えば当然か。いやしかしタイミングが良い。是非一緒に行かせてもらおう。
「私もちょうど行こうと思っていたところなんです。是非ご一緒させてください」
私達が、楽しみだ、と盛り上がっていると、「ミョウジさん」と後ろから声がかかった。
振り返ると、書類の束を持った長谷部さんが立っていた。その後ろには彼と同じ営業部の左文宗三さんがいる。
「長谷部さん、どうしたんですか」
「これ、再来週までにお願いしたいのですが大丈夫ですか」
「はい、大丈夫ですよ」
私が書類を受け取ったとき、先輩が唐突に声をあげた。
「国重くん! お昼ご飯、どこかで食べる予定ってある?」
「昼食ですか? いえ、これから決めようと思っていましたが」
「本当? じゃあ、私達と食べに行こうよ」
「どちらへ行かれるんですか?」
「オサフネっていうカフェなんだけど…」
「ああ、昨日紹介されていた所ですね。さすが、行動が早くていらっしゃる。宗三、どうする?」
「僕はどこでも良いですよ。長谷部についていきます」
「それではご一緒させていただきます」
「このメンバーで昼食なんて、なんだか不思議な組み合わせですね」
「ミョウジさんも行くんですか? 珍しいですね」
「ええ、この間友人に勧められたれたものですから」
「そうでしたか。それじゃあ、俺達もご一緒させていただきます」
昨日テレビで特集されていただけあって、そこはいつもに増して混雑していた。
「すごい人ですねー」
「ええ。メディアの影響力とは凄いものですね」
と、そこに注文したものが運ばれてきた。
「お待たせいたしました。ご注文いただいたホットサンドになります」
見間違いかと思った。思わず二度見してしまった。
だって、そこに立っていたのは紛れもなく、スタイリッシュでイケメンでなんでもそつなくこなす、料理が上手なお隣さんだったから。
「光忠さん!? その制服、えっ、どうして」
「黙っててごめんね。僕、ここのオーナーなんだ」
驚かせたくてね。そう言ってクスリとわらうその姿に、周囲の女性のハートが射抜かれた音が聞こえた気がした。イケメンってすごい。
すると、長谷部さんが驚いたようにこちらを見ていることに気づいた。
「こいつと、お知り合いなんですか?」
「え、ええ。まあその、お隣さんなので。長谷部さんも、ご存知だったんですか?」
「はい。俺とこいつは同じ高校に通っていましてね。こんなところで会うとは思ってもいませんでしたが」
「うんうん、そうだね。長谷部くんにも秘密にしてたからね。二人とも驚いてくれたようで何よりだよ」
「かなり国永色に染められているようだな」
「あはは、確かに。国永さんも驚かせるの好きですよね」
「あの人はもう一種病気みたいなものさ。一緒にしないでよ」
そう三人で談笑していると、光忠さんの背後から可愛らしい女子高生2人が近付いてきた。
「あのっ、ここのオーナーの光忠さんですか?」
「ええ、そうですよ」
「やっぱり! イケメン! あの、写真一緒に撮ってもいいですか?」
「ああ、構わないよ」
キャッキャとはしゃぐ女子高生二人を眺めながら、「いいなぁ、若いって」と漏らすと、横にいた長谷部さんが、そうですか? と、理解できないような目で見てきた。
「だって、あのくらいの年齢のときって何でもできるような気がするじゃないですか。もうこの年になると昔みたいに無茶できなくって」
「確かにそうですね。ナマエさんの高校時代って、どんな感じだったんですか」
「うーん、特にこれと言って何があるわけじゃなかったので、まあ、まさに平凡でしたね。ただ、ちょっとだけ、不思議なものが見えてました。今は見えないんですけどね」
「不思議なもの?」
「はい。なんかこう、小さい子供から青年まで。人間みたいなものが。当時は普通の人間だと思っていて、特に気にかけていなかったんですけどね。それどころか一緒に遊んだりしてましたし。相談とかも乗ってくれて。でも最近はめっきりですね」
「幽霊、ですか」
「うーん、どうなんでしょう。ただ、悪いものではないんと思います。友好的でしたから」
「そうなんですか。本当にいるんですね」
「あはは、もしかしたら私の夢かもしれません。証拠なんてどこにもないし、私自身、本当にいたのか曖昧になってきていて」
「もしまた見かけたら、今度俺にも紹介してくださいね」
「ふふ、そうですね」
そこで、女子高生に捕まっていた光忠さんが戻ってきた。
「ああっ、長谷部くん! 僕を差し置いて何を楽しそうにしてるのさ。僕も混ざりたいよ」
「黙れ。お前は今仕事中だろう。俺達は仕事中ではないのでな」
「うわぁ、長谷部くんは相変わらずだね」
「何とでも言え」
「お二人は仲が良いんですね」
そういうと、長谷部さんと光忠さんはお互い顔を見合わせて、複雑そうな顔をした。
「よく言われます」
「まあ、仲が良いと言えば、良いのかな?」
俺は非常に不本意だがな、とぶっきらぼうに長谷部さんは答えるが、どう見ても中が良いですバレバレです。
「ふふ、楽しそうですね」
「楽しくなんてありませんよ。こいつは特に」
「ええっ、僕は楽しいよ」
「黙れ」
「もう、長谷部くんは本当に昔から素直に喜ばないよね」
「ふん」
「そうだ、今度家に来てよ。行光くんにお菓子でも作ってあげるからさ」
「そうか。それはあいつも喜ぶだろう」
行光君って誰だろう。何だかどこかで聞いたことがあるようなないような気がするのだが、よく思い出せない。
暫しの逡巡の後、ようやく脳内検索がヒットした。
「行光くんって、もしかしてこの間交通事故にあった長谷部さんの弟さんですか」
「はい、そうです。よく分かりましたね」
「ええ。よく宗三さんと話しているのが聞こえてくるので」
そうか、やっぱり弟さんだったか。
きっと長谷部さんに似てかっこいいんだろうな。
目の色だとか髪の色を妄想していると、長谷部さんがスマートフォンを少し操作し、すっと画面をこちらに向けた。
汚れ一つないその画面には、長谷部さんより濃い藤色の目をした、黒髪の美少年がこちらにピースサインを向け、ブスくれた顔をしながら立っていた。
「弟の行光です。今は小学六年生ですね」
そう言いながら次々に写真をスライドしていく。中には不意打ちをしたものもあるようで、心底驚いた顔の行光くんがいる。
「わぁ、可愛い! ふふ、長谷部さんがお兄ちゃんをしている姿が全く浮かんで来ないんですが、この写真の量なら、相当可愛がってますね」
そう言うと、光忠さんはクスクスと笑って、長谷部さんのことを教えてくれた。
「そうそう。長谷部くんは行光くんが大好きだからね。この間の事故のとき、僕も彼の御見舞に行ったんだけど、長谷部くん、行光くんの傍から離れようとしなかったからね。ただの掠り傷だから大丈夫だって言われてるのに」
「おい、人のことをペラペラと話すんじゃない。そういうお前だって、貞宗に関しては過保護になるくせに」
「貞ちゃんは特別だよ。ああ、あとで写真送るね。たまに家に来るから、そのうち会えるんじゃないかな。そうだ、ナマエさんは兄弟はいるのかい?」
「弟がいますよ。でも、最近会ってないですね。反抗期だし…」
小さいときはあんなに可愛かったのに、反抗期に入ってからと言うもの、なかなか口を聞いてくれなくなった。寂しいものだ。まあそのうち落ち着くだろうから、今はそっとしておいてあげようと思う。下手に刺激しない方が良いのだ。きっと。
「へえ、気になるなぁ。ああでも、僕そろそろ行かなくちゃ。ナマエさん、後で教えてね!」
店員さんからお呼びがかかった光忠さんは、すぐにどこかへ行ってしまった。
「全くあいつは、仕事中だというのに」
「あはは、忙しいのにわざわざ来てくれたみたいですね」
まめな人なんだろう。
わたしもその気遣いや心配りを見習いたいものだ。
「そうだ、はやくこれ食べないと。冷めちゃいますよ」
「そうですね、ではいただきましょう」
ホットサンドは少し冷めてしまっていたが、とても美味しかった。あとで感想を送っておこう。
ちなみにずっと先輩と宗三さんを放置してしまった訳だが、どうやら二人は二人で楽しくお話していたようだ。良かった。
少し長谷部さんと仲良くなれた気がして嬉しかった。午後の仕事も頑張ろうと思う。
今日のお昼は昨日話題になっていたカフェに行ってみるつもりだが、流石に一人では行きたくない。お昼は誰かと食べたいのだ。
「ねえ、ミョウジさん、昨日近くのカフェがテレビで紹介されてたの知ってる? 一緒に行ってみない?」
そう声をかけてくれたのは、私の近くに座っている先輩だった。
なんとまあ、図ったかのようなタイミングで声をかけてくれたことだろう。この先輩は新しいものや流行りのものに目がないから、まあ当然と言えば当然か。いやしかしタイミングが良い。是非一緒に行かせてもらおう。
「私もちょうど行こうと思っていたところなんです。是非ご一緒させてください」
私達が、楽しみだ、と盛り上がっていると、「ミョウジさん」と後ろから声がかかった。
振り返ると、書類の束を持った長谷部さんが立っていた。その後ろには彼と同じ営業部の左文宗三さんがいる。
「長谷部さん、どうしたんですか」
「これ、再来週までにお願いしたいのですが大丈夫ですか」
「はい、大丈夫ですよ」
私が書類を受け取ったとき、先輩が唐突に声をあげた。
「国重くん! お昼ご飯、どこかで食べる予定ってある?」
「昼食ですか? いえ、これから決めようと思っていましたが」
「本当? じゃあ、私達と食べに行こうよ」
「どちらへ行かれるんですか?」
「オサフネっていうカフェなんだけど…」
「ああ、昨日紹介されていた所ですね。さすが、行動が早くていらっしゃる。宗三、どうする?」
「僕はどこでも良いですよ。長谷部についていきます」
「それではご一緒させていただきます」
「このメンバーで昼食なんて、なんだか不思議な組み合わせですね」
「ミョウジさんも行くんですか? 珍しいですね」
「ええ、この間友人に勧められたれたものですから」
「そうでしたか。それじゃあ、俺達もご一緒させていただきます」
昨日テレビで特集されていただけあって、そこはいつもに増して混雑していた。
「すごい人ですねー」
「ええ。メディアの影響力とは凄いものですね」
と、そこに注文したものが運ばれてきた。
「お待たせいたしました。ご注文いただいたホットサンドになります」
見間違いかと思った。思わず二度見してしまった。
だって、そこに立っていたのは紛れもなく、スタイリッシュでイケメンでなんでもそつなくこなす、料理が上手なお隣さんだったから。
「光忠さん!? その制服、えっ、どうして」
「黙っててごめんね。僕、ここのオーナーなんだ」
驚かせたくてね。そう言ってクスリとわらうその姿に、周囲の女性のハートが射抜かれた音が聞こえた気がした。イケメンってすごい。
すると、長谷部さんが驚いたようにこちらを見ていることに気づいた。
「こいつと、お知り合いなんですか?」
「え、ええ。まあその、お隣さんなので。長谷部さんも、ご存知だったんですか?」
「はい。俺とこいつは同じ高校に通っていましてね。こんなところで会うとは思ってもいませんでしたが」
「うんうん、そうだね。長谷部くんにも秘密にしてたからね。二人とも驚いてくれたようで何よりだよ」
「かなり国永色に染められているようだな」
「あはは、確かに。国永さんも驚かせるの好きですよね」
「あの人はもう一種病気みたいなものさ。一緒にしないでよ」
そう三人で談笑していると、光忠さんの背後から可愛らしい女子高生2人が近付いてきた。
「あのっ、ここのオーナーの光忠さんですか?」
「ええ、そうですよ」
「やっぱり! イケメン! あの、写真一緒に撮ってもいいですか?」
「ああ、構わないよ」
キャッキャとはしゃぐ女子高生二人を眺めながら、「いいなぁ、若いって」と漏らすと、横にいた長谷部さんが、そうですか? と、理解できないような目で見てきた。
「だって、あのくらいの年齢のときって何でもできるような気がするじゃないですか。もうこの年になると昔みたいに無茶できなくって」
「確かにそうですね。ナマエさんの高校時代って、どんな感じだったんですか」
「うーん、特にこれと言って何があるわけじゃなかったので、まあ、まさに平凡でしたね。ただ、ちょっとだけ、不思議なものが見えてました。今は見えないんですけどね」
「不思議なもの?」
「はい。なんかこう、小さい子供から青年まで。人間みたいなものが。当時は普通の人間だと思っていて、特に気にかけていなかったんですけどね。それどころか一緒に遊んだりしてましたし。相談とかも乗ってくれて。でも最近はめっきりですね」
「幽霊、ですか」
「うーん、どうなんでしょう。ただ、悪いものではないんと思います。友好的でしたから」
「そうなんですか。本当にいるんですね」
「あはは、もしかしたら私の夢かもしれません。証拠なんてどこにもないし、私自身、本当にいたのか曖昧になってきていて」
「もしまた見かけたら、今度俺にも紹介してくださいね」
「ふふ、そうですね」
そこで、女子高生に捕まっていた光忠さんが戻ってきた。
「ああっ、長谷部くん! 僕を差し置いて何を楽しそうにしてるのさ。僕も混ざりたいよ」
「黙れ。お前は今仕事中だろう。俺達は仕事中ではないのでな」
「うわぁ、長谷部くんは相変わらずだね」
「何とでも言え」
「お二人は仲が良いんですね」
そういうと、長谷部さんと光忠さんはお互い顔を見合わせて、複雑そうな顔をした。
「よく言われます」
「まあ、仲が良いと言えば、良いのかな?」
俺は非常に不本意だがな、とぶっきらぼうに長谷部さんは答えるが、どう見ても中が良いですバレバレです。
「ふふ、楽しそうですね」
「楽しくなんてありませんよ。こいつは特に」
「ええっ、僕は楽しいよ」
「黙れ」
「もう、長谷部くんは本当に昔から素直に喜ばないよね」
「ふん」
「そうだ、今度家に来てよ。行光くんにお菓子でも作ってあげるからさ」
「そうか。それはあいつも喜ぶだろう」
行光君って誰だろう。何だかどこかで聞いたことがあるようなないような気がするのだが、よく思い出せない。
暫しの逡巡の後、ようやく脳内検索がヒットした。
「行光くんって、もしかしてこの間交通事故にあった長谷部さんの弟さんですか」
「はい、そうです。よく分かりましたね」
「ええ。よく宗三さんと話しているのが聞こえてくるので」
そうか、やっぱり弟さんだったか。
きっと長谷部さんに似てかっこいいんだろうな。
目の色だとか髪の色を妄想していると、長谷部さんがスマートフォンを少し操作し、すっと画面をこちらに向けた。
汚れ一つないその画面には、長谷部さんより濃い藤色の目をした、黒髪の美少年がこちらにピースサインを向け、ブスくれた顔をしながら立っていた。
「弟の行光です。今は小学六年生ですね」
そう言いながら次々に写真をスライドしていく。中には不意打ちをしたものもあるようで、心底驚いた顔の行光くんがいる。
「わぁ、可愛い! ふふ、長谷部さんがお兄ちゃんをしている姿が全く浮かんで来ないんですが、この写真の量なら、相当可愛がってますね」
そう言うと、光忠さんはクスクスと笑って、長谷部さんのことを教えてくれた。
「そうそう。長谷部くんは行光くんが大好きだからね。この間の事故のとき、僕も彼の御見舞に行ったんだけど、長谷部くん、行光くんの傍から離れようとしなかったからね。ただの掠り傷だから大丈夫だって言われてるのに」
「おい、人のことをペラペラと話すんじゃない。そういうお前だって、貞宗に関しては過保護になるくせに」
「貞ちゃんは特別だよ。ああ、あとで写真送るね。たまに家に来るから、そのうち会えるんじゃないかな。そうだ、ナマエさんは兄弟はいるのかい?」
「弟がいますよ。でも、最近会ってないですね。反抗期だし…」
小さいときはあんなに可愛かったのに、反抗期に入ってからと言うもの、なかなか口を聞いてくれなくなった。寂しいものだ。まあそのうち落ち着くだろうから、今はそっとしておいてあげようと思う。下手に刺激しない方が良いのだ。きっと。
「へえ、気になるなぁ。ああでも、僕そろそろ行かなくちゃ。ナマエさん、後で教えてね!」
店員さんからお呼びがかかった光忠さんは、すぐにどこかへ行ってしまった。
「全くあいつは、仕事中だというのに」
「あはは、忙しいのにわざわざ来てくれたみたいですね」
まめな人なんだろう。
わたしもその気遣いや心配りを見習いたいものだ。
「そうだ、はやくこれ食べないと。冷めちゃいますよ」
「そうですね、ではいただきましょう」
ホットサンドは少し冷めてしまっていたが、とても美味しかった。あとで感想を送っておこう。
ちなみにずっと先輩と宗三さんを放置してしまった訳だが、どうやら二人は二人で楽しくお話していたようだ。良かった。
少し長谷部さんと仲良くなれた気がして嬉しかった。午後の仕事も頑張ろうと思う。