隣の伊達さん
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これは誰にも信じてもらえないことだと思うけど、僕には前世の記憶がある。
前世の僕は刀剣という付喪神で、歴史を守るために戦っていた。
僕らを指揮していたのは審神者という存在だった。前線基地である本丸で、僕らを呼び出して、歴史修正主義者に対抗していた。
僕も、とある審神者に呼ばれた分霊の一人だった。いつ終わるかも分からない戦争に投入され、たった一人、その脆くて小さな人の体で僕らを纏め上げていた。
最初の出会いはかなり鮮明に覚えている。
「太刀……。や、やった! 蜂須賀、やったよ! 初めての太刀だ!」
名乗りをあげた僕を見て、その人はとても喜んでいた。初期刀であった蜂須賀虎徹の袖をぎゅっと掴み、キラキラとした嬉しそうな目でこちらを見ていた。
どうやら、僕はその本丸で最初の太刀だったようだった。
「私はあじさい。この本丸で審神者をしている者です。よろしくお願いします」
見た目がとびきり良い訳ではなかった。しかし、その魂はとても健やかで美しかった。
「光忠が来てくれてよかった。これで短刀たちに余裕が出るよ」
初めての太刀だった僕は、最初の方に来たこともあって、たくさんのことを経験した。
少ない人数で本丸を維持するのは大変だった。厩の仕事は短刀たちには難しかったから、必ず一人は脇差以上の人がつくように当番表を調整した。
僕がよく担当したのは食事だった。食事は身体を作る、一番大切なもの。バランスを考え、大量の料理を作った。とても大変だったけど、料理は嫌いじゃなかったし、何より皆が美味しそうに食べている顔を見るのが好きだったから、むしろ楽しかった。
主はアップルパイが好きだったから、おやつの時間に作ってみたこともあった。とても喜んでくれたのを覚えている。
僕らは刀剣であることを忘れてしまいそうになるくらい、人間と同じ生活をした。満たされた毎日だった。
そんな中で、僕は密かに恋をしていた。
この本丸の主が、僕には何より愛おしかった。
だから、最後に願ってしまったんだ。
次は人であれますように。
彼女と共に生きられますように。
もういちど皆と会えますように。
それを思い出したのは中学生のときだった。どうやら願いは叶ったようで、周りにはかつての仲間たちがちらほらいた。鶴さんと伽羅ちゃんとは兄弟になっていた。貞ちゃんは親戚だった。
直接関わっていないにせよ、みんな転生していた。でも記憶を持っているのは僕だけだったようで、少し寂しかった。
皆がいることは嬉しかった。でも、1つだけ、どうしても足りないものがあった。
高校生になっても、大学生になっても、社会人になっても、僕の愛しいあの人は現れない。胸の内にずっと燻っている恋情は、いつしか執着になっていた。絶対に見つけてみせる。そして今世も共にありたい。あの人も記憶を持っていたらいいのにな。
そんなある日、僕はやっと見つけた。27年間探し続けた人を、確かに見つけたんだ。
その人は引っ越しの荷物を整理していた。ひと目見て、すぐに分かった。間違いなく本人だった。僕はつい声をかけてしまった。
どうやら記憶は持っていなかったようだけど、前と変わらない、誰にでも優しいあの人だった。
あの人が挨拶に来る日、アップルパイを焼いた。あの人の好物だったから。
『アップルパイ美味しかったです! 美味しすぎて他のアップルパイに戻れないかもしれません 笑』
僕はその言葉を知っていた。
「光忠のアップルパイは美味しいね。私きっと、他のアップルパイ食べられないよ。舌が肥えちゃった」
そう言って、審神者だった彼女も笑っていた。
だから本当に、僕は、その言葉がただただ嬉しかったんだ。
前世の僕は刀剣という付喪神で、歴史を守るために戦っていた。
僕らを指揮していたのは審神者という存在だった。前線基地である本丸で、僕らを呼び出して、歴史修正主義者に対抗していた。
僕も、とある審神者に呼ばれた分霊の一人だった。いつ終わるかも分からない戦争に投入され、たった一人、その脆くて小さな人の体で僕らを纏め上げていた。
最初の出会いはかなり鮮明に覚えている。
「太刀……。や、やった! 蜂須賀、やったよ! 初めての太刀だ!」
名乗りをあげた僕を見て、その人はとても喜んでいた。初期刀であった蜂須賀虎徹の袖をぎゅっと掴み、キラキラとした嬉しそうな目でこちらを見ていた。
どうやら、僕はその本丸で最初の太刀だったようだった。
「私はあじさい。この本丸で審神者をしている者です。よろしくお願いします」
見た目がとびきり良い訳ではなかった。しかし、その魂はとても健やかで美しかった。
「光忠が来てくれてよかった。これで短刀たちに余裕が出るよ」
初めての太刀だった僕は、最初の方に来たこともあって、たくさんのことを経験した。
少ない人数で本丸を維持するのは大変だった。厩の仕事は短刀たちには難しかったから、必ず一人は脇差以上の人がつくように当番表を調整した。
僕がよく担当したのは食事だった。食事は身体を作る、一番大切なもの。バランスを考え、大量の料理を作った。とても大変だったけど、料理は嫌いじゃなかったし、何より皆が美味しそうに食べている顔を見るのが好きだったから、むしろ楽しかった。
主はアップルパイが好きだったから、おやつの時間に作ってみたこともあった。とても喜んでくれたのを覚えている。
僕らは刀剣であることを忘れてしまいそうになるくらい、人間と同じ生活をした。満たされた毎日だった。
そんな中で、僕は密かに恋をしていた。
この本丸の主が、僕には何より愛おしかった。
だから、最後に願ってしまったんだ。
次は人であれますように。
彼女と共に生きられますように。
もういちど皆と会えますように。
それを思い出したのは中学生のときだった。どうやら願いは叶ったようで、周りにはかつての仲間たちがちらほらいた。鶴さんと伽羅ちゃんとは兄弟になっていた。貞ちゃんは親戚だった。
直接関わっていないにせよ、みんな転生していた。でも記憶を持っているのは僕だけだったようで、少し寂しかった。
皆がいることは嬉しかった。でも、1つだけ、どうしても足りないものがあった。
高校生になっても、大学生になっても、社会人になっても、僕の愛しいあの人は現れない。胸の内にずっと燻っている恋情は、いつしか執着になっていた。絶対に見つけてみせる。そして今世も共にありたい。あの人も記憶を持っていたらいいのにな。
そんなある日、僕はやっと見つけた。27年間探し続けた人を、確かに見つけたんだ。
その人は引っ越しの荷物を整理していた。ひと目見て、すぐに分かった。間違いなく本人だった。僕はつい声をかけてしまった。
どうやら記憶は持っていなかったようだけど、前と変わらない、誰にでも優しいあの人だった。
あの人が挨拶に来る日、アップルパイを焼いた。あの人の好物だったから。
『アップルパイ美味しかったです! 美味しすぎて他のアップルパイに戻れないかもしれません 笑』
僕はその言葉を知っていた。
「光忠のアップルパイは美味しいね。私きっと、他のアップルパイ食べられないよ。舌が肥えちゃった」
そう言って、審神者だった彼女も笑っていた。
だから本当に、僕は、その言葉がただただ嬉しかったんだ。