隣の伊達さん
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冷蔵庫の事件から2週間が経った日曜日。私はお隣さんの家の中にいた。
光忠さんに都合の良い日を連絡した結果、今日の夕方が良いとのことだったので、私は冷蔵庫の代金を持ち、伊達家の門を叩いた。
出迎えてくれた光忠さんは、私を広いリビングに通すと、すぐに何処かへ行ってしまった。私は自分の家とはあまりにクオリティの違う素敵なリビングに置かれた黒いソファの上で、どうしていいか分からずにぽつんと座っていた。そして数十秒後、光忠さんと入れ替わるようにしてリビングへ入ってきたのは、何故か鼻眼鏡を掛けた国永さんだった。
一瞬自分が何を見ているのか分からず、真顔で国永さんを見つめてしまったが、それが何であるかを認識した途端に、吹き出してしまった。
それを見た国永さんは、鼻眼鏡を外し、その端正な顔を輝かせて笑った。
「最高の反応をありがとう。さて、ようこそ我が家へ。今日は思いっきり驚いて行ってくれ!」
いやもう既にお腹いっぱいです。とは言えずに、あはは、と曖昧な反応を返す。と、その後ろから近づいてくる広光くんが見えた。
広光くんは国永さんの背後を取ると、ポン、と国永さんの肩に手を置いた。その手のおかげで広光くんをやっと認識した国永さんは、ギギギ、と油の足りない人形のような動作で後ろを振り向いた。
「……、光忠に言いつけるぞ」
「待ってくれ広光、誤解だ。俺は彼女に楽しんでもらおうとして」
「そうか、それなら光忠の手伝いでもしてきたらどうだ」
「…………ハイ」
どうやらこの家の力関係は、光忠さん>広光くん>国永さん、のようだ。頑張れ、国永さん。
「あんたも大変だな。まあ、何かあったら光忠に言え。大抵のことは解決する」
それだけ言うと、国永さんを追うように奥の部屋へ消えていった。
国永さんが奥の部屋へ消えて数分後、お茶を持った光忠さんがやってきた。
「お待たせしてごめんね。緑茶で大丈夫かい?」
「大丈夫です。ありがとうございます」
薫りの良い緑茶を私の前に置くと、光忠さんは私の正面に座った。
「今日は時間を作ってくれてありがとう。ああ、兄さんに変なことされてないかい?何かあったら言ってね。そうだ、この間アップルパイが好きだって言ってただろう。だから、今日も焼いてみたんだ。帰るときに持っていってね」
「ええっ、ありがとうございます!光忠さんのアップルパイ美味しかったから、嬉しいです」
「ありがとう。そうやって感想を貰えるのが嬉しくてね、つい作っちゃったよ。そうだ、今日はこの間のリクエスト通り、ビーフシチューにしようと思ってるんだ」
この間、というのは、一週間前、私が空いている日を連絡した日だ。そのときに何が食べたいかと聞かれ、迷っていた私に、「ビーフシチューなんてどうかな」と光忠さんが提案してくれたのだ。ビーフシチューはアップルパイと同じく私の好物だった。そのことに興奮しつつ、是非、とお願いしたのだ。
「やった! 光忠さんが作るなら、きっととても美味しいんでしょうね。私、楽しみにしてたんです。あ、何か手伝えることありますか?」
「ありがとう。でと、手伝いは大丈夫。お客さんなんだから寛いでていいんだよ。まあ、昨日から仕込んでいるからあまりやることがないだけなんだけどね。うーん、夕食にはまだ早いかな。何をしようか」
テレビでも見る?と言って、光忠さんはテレビの電源を付けた。
どうやら、ニュース番組でカフェの特集をしているようだ。リポーターがお洒落なカフェの前でその外装を褒めている。
というか、私はこの建物を見たことがある気がする。
「あ、これ、会社の近くにこの間できたカフェだ」
「そうなのかい? 行ったことは?」
「ないです。いつもお昼は社内で食べるので……。明日、昼休みに行ってみようかな」
「ここはホットサンドがおすすめだよ。行ったら食べてみてね」
「光忠さん行ったことあるんですか?」
「うん、何回か。新しいものに目がなくてね」
光忠さんらしいな、と思いながらテレビを再度見ると、場面はもう次のカフェへと移っていた。
その後、ぼーっとテレビを見ていると、光忠さんに「できたよ。こっちに来てくれるかい」と声をかけられ、ダイニングルームへ移動する。
ダイニングルームの扉を開けたとたん、ビーフシチューのいい匂いがした。絶対これは美味しい。サラダも色鮮やかにバランス良く盛り付けられていて、流石光忠さんだな、と思った。
そんなテーブルの上に、何故か1つだけ毛色の違うものが乗っている。
それは、小さめのさらに盛り付けられた肉じゃがだった。何故肉じゃが?と思い、光忠さんに聞こうとしたが、「ここに座ってね」と促されてしまい、聞けなかった。
いただきます、と言って、まずは一口、ビーフシチューを食べてみた。予想はしていたが、それのさらに上を行く美味しさだった。素材の味を引き出しつつ、主張を激しくしない。調和の取れた味だった。口に入れるとほろほろと崩れる牛肉に、甘みのある人参。昨日から仕込んでいたと言っていたが、一日掛ければこんなに美味しくなるものなのか。いや、ならないだろう。これはきっと光忠さんが作ったからこその味だ。
「美味しいです。美味しすぎます。すごいです光忠さん」
「そう?よかった。そうだ、これも食べてみてよ。材料が余っちゃってさ。どうも異色な感じになっちゃったけど、味見してくれないかな」
差し出された肉じゃがを食べると、私の口に合う味付けがされていて、とても美味しかった。
「何か、こんなこと言うのは変なんですけど、懐かしい味がしますね。もちろんおいしいです。私、この味付け好みです」
「お口に合ったようで何よりだよ」
そう言った光忠さんは、今まで見た中で一番優しい笑顔だった。
出された料理を食べ終えると、国永さんが、キラキラした目でこちらを見てきたので、今日自分が何をしに来たのかを思い出した。
そそっ、と国永さんの近くにより、国永さま、と声をかける。
それを光忠さんと広光くんが不思議そうに見ているが気にしない。
私は用意しておいたものをテーブルの上に置き、すっ、と国永さんの前に移動させる。
「こちら、黄金色の菓子にございます」
私がそういうと、国永さんは悪い笑顔でそれを受け取った。
「ミョウジ屋、お主も悪よのう」
二人でふっふっふ、と笑い会う。
そして私は真顔に戻る。
「……こんな感じで良いんですか、国永さん」
「おう! 一度やってみたかったんだ。ありがとう」
国永さんは心底楽しそうに笑っていた。
光忠さんが「またそうやって変なことさせて……明日は兄さんが嫌いなレーズンパンを買ってこよう」と呟いていた。本人には聞こえていなかったようなので、まあ、知らぬが仏、というやつである。
そもそもこのお芝居のようなものは、先日国永さんから指示があったものである。
「どうしてもお礼がしたいというなら、俺の遊びに付き合ってくれ」とLIMEで言われ、もちろんです、と快諾したはいいが、まさかこんなことをさせられるとは思っていなかった。賄賂に憧れていたらしい。ちなみに中に入っているのは冷蔵庫の代金である。
と、ここまでの経緯を振り返っていると、光忠さんがキッチンに消えていき、ワインを手に戻ってきた。
「ワインでも飲もうよ。つまみも作るからさ」
そう言って光忠さんはグラスを4個出した。
そこで私は、あれ、と思った。この場にいるのは4人で、うち一人はまだ高校生と思われる人物である。そう思い、広光くんの方を見ると、「何だ」と短く問われた。
「えっと、失礼ですが、もしかして成人済み……ですか?」
それを聞いた国永さんは、弾けたように笑いだした。光忠さんもクスクスと笑っている。
「広光! お前! あっははははっ! そうだ、未成年は酒を飲んじゃだめだよなぁ!」
「ふふっ、あははっ、広光っ、やめとく?」
そう笑う2人に困惑しながら広光くんの方をもう一度見ると、静かに起こっているのがなんとなく分かった。
「悪かったな、幼く見えて。俺はとうに成人している。今年で23だ。」
「えっ、にじゅうさんって、えっ」
確実に男子高校生だと思っていた広光くんは、なんと既に成人していた。童顔って大変だね、と言ったら国永さんが過呼吸になりそうなほど笑いだした。ごめんよ、広光くん。
光忠さんに都合の良い日を連絡した結果、今日の夕方が良いとのことだったので、私は冷蔵庫の代金を持ち、伊達家の門を叩いた。
出迎えてくれた光忠さんは、私を広いリビングに通すと、すぐに何処かへ行ってしまった。私は自分の家とはあまりにクオリティの違う素敵なリビングに置かれた黒いソファの上で、どうしていいか分からずにぽつんと座っていた。そして数十秒後、光忠さんと入れ替わるようにしてリビングへ入ってきたのは、何故か鼻眼鏡を掛けた国永さんだった。
一瞬自分が何を見ているのか分からず、真顔で国永さんを見つめてしまったが、それが何であるかを認識した途端に、吹き出してしまった。
それを見た国永さんは、鼻眼鏡を外し、その端正な顔を輝かせて笑った。
「最高の反応をありがとう。さて、ようこそ我が家へ。今日は思いっきり驚いて行ってくれ!」
いやもう既にお腹いっぱいです。とは言えずに、あはは、と曖昧な反応を返す。と、その後ろから近づいてくる広光くんが見えた。
広光くんは国永さんの背後を取ると、ポン、と国永さんの肩に手を置いた。その手のおかげで広光くんをやっと認識した国永さんは、ギギギ、と油の足りない人形のような動作で後ろを振り向いた。
「……、光忠に言いつけるぞ」
「待ってくれ広光、誤解だ。俺は彼女に楽しんでもらおうとして」
「そうか、それなら光忠の手伝いでもしてきたらどうだ」
「…………ハイ」
どうやらこの家の力関係は、光忠さん>広光くん>国永さん、のようだ。頑張れ、国永さん。
「あんたも大変だな。まあ、何かあったら光忠に言え。大抵のことは解決する」
それだけ言うと、国永さんを追うように奥の部屋へ消えていった。
国永さんが奥の部屋へ消えて数分後、お茶を持った光忠さんがやってきた。
「お待たせしてごめんね。緑茶で大丈夫かい?」
「大丈夫です。ありがとうございます」
薫りの良い緑茶を私の前に置くと、光忠さんは私の正面に座った。
「今日は時間を作ってくれてありがとう。ああ、兄さんに変なことされてないかい?何かあったら言ってね。そうだ、この間アップルパイが好きだって言ってただろう。だから、今日も焼いてみたんだ。帰るときに持っていってね」
「ええっ、ありがとうございます!光忠さんのアップルパイ美味しかったから、嬉しいです」
「ありがとう。そうやって感想を貰えるのが嬉しくてね、つい作っちゃったよ。そうだ、今日はこの間のリクエスト通り、ビーフシチューにしようと思ってるんだ」
この間、というのは、一週間前、私が空いている日を連絡した日だ。そのときに何が食べたいかと聞かれ、迷っていた私に、「ビーフシチューなんてどうかな」と光忠さんが提案してくれたのだ。ビーフシチューはアップルパイと同じく私の好物だった。そのことに興奮しつつ、是非、とお願いしたのだ。
「やった! 光忠さんが作るなら、きっととても美味しいんでしょうね。私、楽しみにしてたんです。あ、何か手伝えることありますか?」
「ありがとう。でと、手伝いは大丈夫。お客さんなんだから寛いでていいんだよ。まあ、昨日から仕込んでいるからあまりやることがないだけなんだけどね。うーん、夕食にはまだ早いかな。何をしようか」
テレビでも見る?と言って、光忠さんはテレビの電源を付けた。
どうやら、ニュース番組でカフェの特集をしているようだ。リポーターがお洒落なカフェの前でその外装を褒めている。
というか、私はこの建物を見たことがある気がする。
「あ、これ、会社の近くにこの間できたカフェだ」
「そうなのかい? 行ったことは?」
「ないです。いつもお昼は社内で食べるので……。明日、昼休みに行ってみようかな」
「ここはホットサンドがおすすめだよ。行ったら食べてみてね」
「光忠さん行ったことあるんですか?」
「うん、何回か。新しいものに目がなくてね」
光忠さんらしいな、と思いながらテレビを再度見ると、場面はもう次のカフェへと移っていた。
その後、ぼーっとテレビを見ていると、光忠さんに「できたよ。こっちに来てくれるかい」と声をかけられ、ダイニングルームへ移動する。
ダイニングルームの扉を開けたとたん、ビーフシチューのいい匂いがした。絶対これは美味しい。サラダも色鮮やかにバランス良く盛り付けられていて、流石光忠さんだな、と思った。
そんなテーブルの上に、何故か1つだけ毛色の違うものが乗っている。
それは、小さめのさらに盛り付けられた肉じゃがだった。何故肉じゃが?と思い、光忠さんに聞こうとしたが、「ここに座ってね」と促されてしまい、聞けなかった。
いただきます、と言って、まずは一口、ビーフシチューを食べてみた。予想はしていたが、それのさらに上を行く美味しさだった。素材の味を引き出しつつ、主張を激しくしない。調和の取れた味だった。口に入れるとほろほろと崩れる牛肉に、甘みのある人参。昨日から仕込んでいたと言っていたが、一日掛ければこんなに美味しくなるものなのか。いや、ならないだろう。これはきっと光忠さんが作ったからこその味だ。
「美味しいです。美味しすぎます。すごいです光忠さん」
「そう?よかった。そうだ、これも食べてみてよ。材料が余っちゃってさ。どうも異色な感じになっちゃったけど、味見してくれないかな」
差し出された肉じゃがを食べると、私の口に合う味付けがされていて、とても美味しかった。
「何か、こんなこと言うのは変なんですけど、懐かしい味がしますね。もちろんおいしいです。私、この味付け好みです」
「お口に合ったようで何よりだよ」
そう言った光忠さんは、今まで見た中で一番優しい笑顔だった。
出された料理を食べ終えると、国永さんが、キラキラした目でこちらを見てきたので、今日自分が何をしに来たのかを思い出した。
そそっ、と国永さんの近くにより、国永さま、と声をかける。
それを光忠さんと広光くんが不思議そうに見ているが気にしない。
私は用意しておいたものをテーブルの上に置き、すっ、と国永さんの前に移動させる。
「こちら、黄金色の菓子にございます」
私がそういうと、国永さんは悪い笑顔でそれを受け取った。
「ミョウジ屋、お主も悪よのう」
二人でふっふっふ、と笑い会う。
そして私は真顔に戻る。
「……こんな感じで良いんですか、国永さん」
「おう! 一度やってみたかったんだ。ありがとう」
国永さんは心底楽しそうに笑っていた。
光忠さんが「またそうやって変なことさせて……明日は兄さんが嫌いなレーズンパンを買ってこよう」と呟いていた。本人には聞こえていなかったようなので、まあ、知らぬが仏、というやつである。
そもそもこのお芝居のようなものは、先日国永さんから指示があったものである。
「どうしてもお礼がしたいというなら、俺の遊びに付き合ってくれ」とLIMEで言われ、もちろんです、と快諾したはいいが、まさかこんなことをさせられるとは思っていなかった。賄賂に憧れていたらしい。ちなみに中に入っているのは冷蔵庫の代金である。
と、ここまでの経緯を振り返っていると、光忠さんがキッチンに消えていき、ワインを手に戻ってきた。
「ワインでも飲もうよ。つまみも作るからさ」
そう言って光忠さんはグラスを4個出した。
そこで私は、あれ、と思った。この場にいるのは4人で、うち一人はまだ高校生と思われる人物である。そう思い、広光くんの方を見ると、「何だ」と短く問われた。
「えっと、失礼ですが、もしかして成人済み……ですか?」
それを聞いた国永さんは、弾けたように笑いだした。光忠さんもクスクスと笑っている。
「広光! お前! あっははははっ! そうだ、未成年は酒を飲んじゃだめだよなぁ!」
「ふふっ、あははっ、広光っ、やめとく?」
そう笑う2人に困惑しながら広光くんの方をもう一度見ると、静かに起こっているのがなんとなく分かった。
「悪かったな、幼く見えて。俺はとうに成人している。今年で23だ。」
「えっ、にじゅうさんって、えっ」
確実に男子高校生だと思っていた広光くんは、なんと既に成人していた。童顔って大変だね、と言ったら国永さんが過呼吸になりそうなほど笑いだした。ごめんよ、広光くん。