隣の伊達さん
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光忠さんが見たいのは電子レンジ、私が見たいのは冷蔵庫だったので、光忠さんと別れ、一人冷蔵庫エリアに向かう。
どれにしようか、と、メーカーやスペック、開け心地を確認していると、後ろから声をかけられた。
「そこのお嬢さん。良かったら俺と遊ばない?」
こんなところでナンパとは何事だと後ろを振り返ると、そこには儚そうな美女、もといイケメンが……伊達国永さんが立っていた。私が驚いて固まっていると、国永さんは嬉しそうに笑いだした。
「あっはっはっは、きみ今、いかにも驚きました、って顔してるぜ」
「そりゃあそうですよ、急に何するんですか。もう、こんなところでナンパするおかしな人間がいるのかと思って驚きました」
「いやあ、やはりこういった新鮮な反応は良いもんだ。きみ、なかなか良い線いってるぞ」
何なんだ急に現れて。もしかしてこんなことを日常的にやっているのか。というかあなたは電子レンジを見に行くべきじゃないのか。
「実は光忠に追い払われてしまってな。『兄さんは他のところみててよ』だそうだ。だから君に驚きをもらいにいこうと思ったんだ」
光忠さんあの野郎。いや光忠さんは悪くない。私のところに来たのは国永さんの判断だ。
「それで、きみは今日これを買いに来たのかい?」
「ええ、冷蔵庫が無い生活というのは、なかなか不便でしたから」
「良さげなものは見つかったかい?」
「はい、これを買おうと思っているんです。」
「それか……それじゃあ」
そう国永さんが何か言いかけたとき、国永さんの背後から近づいて来ていた広光くんが、国永さんの背中をべしっと叩いた。何だ何だ、と振り返り文句を言う国永さんに広光さんは鬼の形相で言い返していた。
「少しは落ち着いてもらわないと、俺が困る。光忠が呼んでいたぞ。行け」
短いからこそ、迫力のある言葉だった。国永さんが歩き出したのを確認すると、私の方に向き直った。
「取り込み中悪かったな」
そう言ってクールに去る彼からは、何故か苦労人のオーラを感じた気がした。
冷蔵庫の購入を済ませてしまおうと店員を探したが、なかなか捕まらない。休日のためか、いつもより混雑しており、話しかけようと思うと直前で他のお客さんが話しかけてしまう。結局話しかけられずに、どうしよう、と冷蔵庫の前で立っているとにいると、また後ろから声をかけられた。
「ああ、いたいた。きみ、探したぜ」
振り向くと、本日二度目の国永さんが立っていた。何故か傍らに店員さんがいる。
「なあきみ、まだ購入手続きは済ませてないだろう?」
私がはい、と答えると、国永さんはさらに、私の前にある冷蔵庫を指差して
「これでいいんだよな?」
と聞いてきた。
私がさらにはい、と答えると、国永さんは店員さんの方を向き、喋りだした。
「それじゃあ、これも買おう。これでどうだ?」
何をしているのか分からずにいると、光忠さんたちが来たので、疑問をぶつける。
「光忠さん、もしかして国永さんって冷蔵庫も壊していたんですか?」
そう聞くと、光忠さんはおかしそうに笑った後、答えてくれた。
「ははっ、いや、違うよ。兄さんが買おうとしているのは君の冷蔵庫さ。電子レンジと冷蔵庫を買えば、値引きの交渉ができるんじゃないか、って考えたみたい。兄さんそういう才能あるから。買い物は兄さんに任せると、結構上手くいくよ。」
ああなるほど、そういうことか。私はそういった駆引きは苦手だが、鶴丸さんは本当に得意なようで、楽しそうに値引きさせている。そしてそのまま店員さんと何処かへ行ってしまった。
ほくほく顔で帰ってきた国永さんの右側には、電子レンジが抱えられていて、左手には、値引きに値引きされ尽くしたような、そんな領収書が握られていた。目を剥く私に、国永さんは嬉しそうにしていた。
「どうだ、驚いたろう? 俺にかかればこんなもの朝飯前さ」
「えっ、ええ、凄いです。凄すぎます。って、お会計しちゃったんですか!? すみません、すぐにお金、お渡ししますね」
私がそういうと、何故か国永さんはそれを拒んだ。
「いや、それは今度でいい。そうだな、今度うちに来るんだろう?その時でいいさ。だから、必ず来てくれよ。光忠も、楽しみにしているようだったから」
後から光忠さんの「ちょっと、兄さんっ」という慌てたような声が聞こえた気がした。
「そうですか、それじゃあ、そのときに。なんだかすみません。私、お世話になってばかりで。何かお礼をしたいんですけど……」
「そんなに深く考えなくていいさ。そうだな、でも、どうしてもっていうなら、ひとつ、俺の頼みを聞いてもらおうか」
後でLIMEする、と言われ、分かりました、と答えたが、頼みとは何だろう。私とはかなり価値観や金銭感覚が違いそうな人だったけど、とんでもない頼みごとをされたらどうしよう。こわいな。
そんなに考えごとをしていたが、光忠さんの声がしたのですぐに意識を切り替えた。
「今日はありがとう。何だか楽しかったよ。そうだ、LIMEよろしくね」
「私のほうこそ、ありがとうございました。LIME忘れないようにします」
「それじゃあ、またね」
「はい。また今度」
そう言って歩き出した光忠さんの後に、じゃあな、という国永さんと、軽く頭を下げる広光さんが背を向けたのを見て、私も自分の車へ向かう。
まだ半日も一緒にいなかったのに、なんだろう、すこし懐かしいような、そんな温かい気持ちになった。きっと彼らの高い会話スキルによるものだろう。真のイケメンとは、会って間もない人間とでも楽しく会話をしてくれるものだった。
どれにしようか、と、メーカーやスペック、開け心地を確認していると、後ろから声をかけられた。
「そこのお嬢さん。良かったら俺と遊ばない?」
こんなところでナンパとは何事だと後ろを振り返ると、そこには儚そうな美女、もといイケメンが……伊達国永さんが立っていた。私が驚いて固まっていると、国永さんは嬉しそうに笑いだした。
「あっはっはっは、きみ今、いかにも驚きました、って顔してるぜ」
「そりゃあそうですよ、急に何するんですか。もう、こんなところでナンパするおかしな人間がいるのかと思って驚きました」
「いやあ、やはりこういった新鮮な反応は良いもんだ。きみ、なかなか良い線いってるぞ」
何なんだ急に現れて。もしかしてこんなことを日常的にやっているのか。というかあなたは電子レンジを見に行くべきじゃないのか。
「実は光忠に追い払われてしまってな。『兄さんは他のところみててよ』だそうだ。だから君に驚きをもらいにいこうと思ったんだ」
光忠さんあの野郎。いや光忠さんは悪くない。私のところに来たのは国永さんの判断だ。
「それで、きみは今日これを買いに来たのかい?」
「ええ、冷蔵庫が無い生活というのは、なかなか不便でしたから」
「良さげなものは見つかったかい?」
「はい、これを買おうと思っているんです。」
「それか……それじゃあ」
そう国永さんが何か言いかけたとき、国永さんの背後から近づいて来ていた広光くんが、国永さんの背中をべしっと叩いた。何だ何だ、と振り返り文句を言う国永さんに広光さんは鬼の形相で言い返していた。
「少しは落ち着いてもらわないと、俺が困る。光忠が呼んでいたぞ。行け」
短いからこそ、迫力のある言葉だった。国永さんが歩き出したのを確認すると、私の方に向き直った。
「取り込み中悪かったな」
そう言ってクールに去る彼からは、何故か苦労人のオーラを感じた気がした。
冷蔵庫の購入を済ませてしまおうと店員を探したが、なかなか捕まらない。休日のためか、いつもより混雑しており、話しかけようと思うと直前で他のお客さんが話しかけてしまう。結局話しかけられずに、どうしよう、と冷蔵庫の前で立っているとにいると、また後ろから声をかけられた。
「ああ、いたいた。きみ、探したぜ」
振り向くと、本日二度目の国永さんが立っていた。何故か傍らに店員さんがいる。
「なあきみ、まだ購入手続きは済ませてないだろう?」
私がはい、と答えると、国永さんはさらに、私の前にある冷蔵庫を指差して
「これでいいんだよな?」
と聞いてきた。
私がさらにはい、と答えると、国永さんは店員さんの方を向き、喋りだした。
「それじゃあ、これも買おう。これでどうだ?」
何をしているのか分からずにいると、光忠さんたちが来たので、疑問をぶつける。
「光忠さん、もしかして国永さんって冷蔵庫も壊していたんですか?」
そう聞くと、光忠さんはおかしそうに笑った後、答えてくれた。
「ははっ、いや、違うよ。兄さんが買おうとしているのは君の冷蔵庫さ。電子レンジと冷蔵庫を買えば、値引きの交渉ができるんじゃないか、って考えたみたい。兄さんそういう才能あるから。買い物は兄さんに任せると、結構上手くいくよ。」
ああなるほど、そういうことか。私はそういった駆引きは苦手だが、鶴丸さんは本当に得意なようで、楽しそうに値引きさせている。そしてそのまま店員さんと何処かへ行ってしまった。
ほくほく顔で帰ってきた国永さんの右側には、電子レンジが抱えられていて、左手には、値引きに値引きされ尽くしたような、そんな領収書が握られていた。目を剥く私に、国永さんは嬉しそうにしていた。
「どうだ、驚いたろう? 俺にかかればこんなもの朝飯前さ」
「えっ、ええ、凄いです。凄すぎます。って、お会計しちゃったんですか!? すみません、すぐにお金、お渡ししますね」
私がそういうと、何故か国永さんはそれを拒んだ。
「いや、それは今度でいい。そうだな、今度うちに来るんだろう?その時でいいさ。だから、必ず来てくれよ。光忠も、楽しみにしているようだったから」
後から光忠さんの「ちょっと、兄さんっ」という慌てたような声が聞こえた気がした。
「そうですか、それじゃあ、そのときに。なんだかすみません。私、お世話になってばかりで。何かお礼をしたいんですけど……」
「そんなに深く考えなくていいさ。そうだな、でも、どうしてもっていうなら、ひとつ、俺の頼みを聞いてもらおうか」
後でLIMEする、と言われ、分かりました、と答えたが、頼みとは何だろう。私とはかなり価値観や金銭感覚が違いそうな人だったけど、とんでもない頼みごとをされたらどうしよう。こわいな。
そんなに考えごとをしていたが、光忠さんの声がしたのですぐに意識を切り替えた。
「今日はありがとう。何だか楽しかったよ。そうだ、LIMEよろしくね」
「私のほうこそ、ありがとうございました。LIME忘れないようにします」
「それじゃあ、またね」
「はい。また今度」
そう言って歩き出した光忠さんの後に、じゃあな、という国永さんと、軽く頭を下げる広光さんが背を向けたのを見て、私も自分の車へ向かう。
まだ半日も一緒にいなかったのに、なんだろう、すこし懐かしいような、そんな温かい気持ちになった。きっと彼らの高い会話スキルによるものだろう。真のイケメンとは、会って間もない人間とでも楽しく会話をしてくれるものだった。