隣の伊達さん
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今日は待ちに待った休日だ。まだ足りない家具があるので、それを買うために近くのミトリというインテリア用品を多く取り扱う店に来ていた。シンプルだけど良いものを置いていて、全国展開しているだけありお値段もかなりいい感じなので、実家にいた頃からお世話になっている。
正直、私の引っ越しが簡単に終わったのは家具をほとんど持ち込んでいないからである。そのため家の中に大きな家具はなく、冷蔵庫ですらホテルに備え付けてありそうなごく小さなもので何とか一ヶ月過ごしていた。
仕事の方もようやく落ち着いて、仕事を家に持ち帰らずに済むようになったので、そろそろ頃合いかと思い家具の購入に来たのだ。
私も暇なわけではないしひとり暮らしなので食材は買いだめしておきたいが、冷蔵庫があの大きさでは話にならない。そういうわけで今日は家電用品店にも行かないといけない。大忙しである。
冷蔵庫も欲しいところではあるが、私が今一番欲しいものはベッドだ。
ベッドは実家に置いてきてしまったため、私はこの一ヶ月とちょっとの間、睡眠を床に敷いた布団で取っていた。
しかし慣れない環境で寝たため、思ったよりも疲れが取れないのだ。人間にとって体は資本。自分の健康状態を上手くコントロールしなければならない訳だが、中でも睡眠は私の健康にとって最重要な項目だった。
昔から寝れば悪いことは大抵解決する体だったので、心身の不調の際には即睡眠を取っていた。そもそも寝ることが好きなので、不調が無くても惰眠を貪ることが多くあった。
それは引っ越してからも変わらなかったが、この頃布団越しになんとなく床の硬さが伝わってくることに不快感を覚え、ついに今日、その感覚から解き放たれようとベッドを探しにきたのだ。
大きさはシングルで十分だが、収納がついているものが欲しい。私は整理整頓がそこまで得意ではないが、せっかく一戸建てでひとり暮らしなのだから、メインの部屋くらいスッキリ見せたい。
今日は土曜日なので、客足もそこそこあるようだった。
ベッドのコーナーは店の奥のほうだったので、その途中で机や椅子、本棚、収納など、いろいろな家具のコーナーを通ることになる。
テーブルのコーナーを通り過ぎようとしたとき、ふと見覚えのあるシルエットを見つけた。まばらにいる人の中でも分かりやすい長身。
そこにいたのは、お隣さんこと伊達光忠さんだった。
いいお家に住んで、いい車に乗って、いい服を来ていたから、こんな場所で会うとは思わず、驚いて、声をかけに行ってしまった。
「光忠さん、ですよね……?」
そう後ろから話かけると、こちらを振り返った後、驚いたような顔をした。
「こんにちは、ナマエさん。こんなところで会うなんて奇遇だね」
「ええ、驚きました。光忠さんもこういったところに来るんですね。何だか、アンティークや洗練された家具を使っているイメージがありました」
そう言うと光忠さんは苦笑した後、遠い目をして口を開いた。
「あはは、僕としても、厳選したものを使いたいところなんだけどね。うちには問題児がいるからそうもいかなくって」
問題児というと、もしかしてお子さんだろうか。それを問おうとしたが、光忠さんが私の後ろを見てため息をついたので、釣られてそちらを見てしまい、声にはならなかった。
私の後方、光忠さんがげんなりした顔で見た先では、彼に負けず劣らず整った容姿をお持ちの方が二人、こちらに向かって歩いてきていた。
一人は色素の薄すぎる美しい髪をもち、輝くような金の瞳をしていた。体の線は細く、肌の色がとても白いので女性かと思ったが、首や服装は男性のそれだったので。あれはきっと男性だろう。
もう一人はこげ茶色の髪に、これまた金色の目、褐色の肌が特徴的な大人と子供の中間位の歳の男性だった。
私に気づいた白い方の人が楽しそうな目をして話しかけて来た。
「おや光坊、こちらの方は誰なんだい?」
「ああ、そういえば二人は初対面だったね。先月隣に引っ越してきた、ミョウジナマエさんだよ」
「おお! 君がミョウジさんか。光坊から話は聞いているぞ。俺は伊達国永という。隣人どうし、よろしくな」
白い方の人は見た目に反してかなり明るい方のようで、気さくな感じがした。
「ほら広光も」
そう光忠さんに促されると、褐色の青年が口を開いた。
「…伊達広光だ」
こちらは無口なタイプのようで、自分の名前を名乗ると口を閉じてしまった。しかし、鋭い金色の目で私を観察しているようで少し居心地が悪い。
そういえば、今この二人は「伊達」と言った。ということは、もしかして
「紹介がだいぶ遅くなっちゃったけど僕の兄と弟だよ。今、この二人と一緒に住んでるんだ」
「えっ、そうだったんですか。私てっきり、ご両親か奥様がいるものだとばかり思ってました」
この3人、目が金色と言うところ以外は全く似ていないが、家庭には家庭の事情があると思うので深入りはしない。
「いやぁそれにしても、隣に住んでいたのに一ヶ月も顔を合わせることが無かったなんてなぁ。驚きだぜ」
そう言った国永さんに、今までの仕事の事情を話す。
「実は、仕事が忙しい時期に入ってしまって、なかなか家に帰ってこれなかったんです。帰ってきても深夜だったので、そのせいですかね」
「そいつは大変だったな。光坊が時々きみの話をするから、どんな人か気になっていたんだ。ようやく会えて嬉しいぜ」
アップルパイの時以来光忠さんとは会ってこそいなかったが、LIMEは続いていた。
顔の見れないLIMEだが、光忠さんはスタンプや記号を駆使して楽しい会話を提供してくれた。お互いを名前で呼び合うようになったのも、LIMEでの出来事だった。
そしてその中で、彼の職業を知ることができた。見た目から、夜のお仕事をしているのかと思っていたがそうではなかったようで、飲食店で働いているとのことだった。裏方なのか、接客をしているのかは分からないが、どちらにいても目立つだろうな、と思った。
詳細は教えてくれなかったが、「健全なお店だよ」と言っていた。もしかして私の勘違いがバレていたのだろうか。
「兄さん、LIMEを見せてくれってうるさいんだ。人の会話を見ようだなんて、悪趣味だよね。ああ、もちろん見せてないよ。安心してね」
そう呆れたように語る光忠さんから、疲れの色が見て取れた。きっと大変だったんだろう。見られて困るような会話はしていないが、やはり第三者に見られるとなると恥ずかしい。
「悪趣味だなんて酷い言い方だ。好奇心旺盛といってほしいね。そうだ、きみ、俺ともLIMEを交換しよう。俺にも驚きを提供してくれ」
私は別に驚きなど提供したことはないので国永さんのご期待に添えるかは分からないが、近所付き合いは大切なので国永さんとも交換する。
「おい、光忠。もう買い物は済んだのか? こいつのお守りはもう懲り懲りだぞ」
褐色のイケメン、広光くんが痺れを切らしたように言った。先ほど会ったばかりだが、儚そうな見た目をしているのに、おそらくこの中の誰よりも元気であろう国永さんはそれを聞いて「お前たち、俺に厳しくないかい?」とぼやいている。
「元はといえば、兄さんのせいだからね。全く、これで何回目だと思ってるの。おかげでうちのダイニングテーブルは、ろくに使われないままゴミになるんだよ。もうちょっと落ち着いてほしいね」
そう光忠さんは国永さんに返した。何をしたんだこの人。そう言いたいところをぐっと抑えようとしたが、どうやら顔に出ていたようで、光忠さんが説明してくれた。
「兄さんがね、ダイニングテーブルの脚に深いヒビをいれたんだ。しかもこれが初めてじゃなくてね。とうとう買い替えになったって訳さ。ダイニングテーブルを買い替えるのはもう3回目だよ」
本当に何をしたんだあの人。どうしたらダイニングテーブルの脚に深いヒビが入るんだろう。見た目とのギャップが凄すぎる。
「それは……あの……お疲れ様です」
それしか言葉が出てこなかった。お隣さんの個性が強すぎて、初対面なのに謎の危機感を抱いてしまった。このお隣さん、ヤバい。
正直、私の引っ越しが簡単に終わったのは家具をほとんど持ち込んでいないからである。そのため家の中に大きな家具はなく、冷蔵庫ですらホテルに備え付けてありそうなごく小さなもので何とか一ヶ月過ごしていた。
仕事の方もようやく落ち着いて、仕事を家に持ち帰らずに済むようになったので、そろそろ頃合いかと思い家具の購入に来たのだ。
私も暇なわけではないしひとり暮らしなので食材は買いだめしておきたいが、冷蔵庫があの大きさでは話にならない。そういうわけで今日は家電用品店にも行かないといけない。大忙しである。
冷蔵庫も欲しいところではあるが、私が今一番欲しいものはベッドだ。
ベッドは実家に置いてきてしまったため、私はこの一ヶ月とちょっとの間、睡眠を床に敷いた布団で取っていた。
しかし慣れない環境で寝たため、思ったよりも疲れが取れないのだ。人間にとって体は資本。自分の健康状態を上手くコントロールしなければならない訳だが、中でも睡眠は私の健康にとって最重要な項目だった。
昔から寝れば悪いことは大抵解決する体だったので、心身の不調の際には即睡眠を取っていた。そもそも寝ることが好きなので、不調が無くても惰眠を貪ることが多くあった。
それは引っ越してからも変わらなかったが、この頃布団越しになんとなく床の硬さが伝わってくることに不快感を覚え、ついに今日、その感覚から解き放たれようとベッドを探しにきたのだ。
大きさはシングルで十分だが、収納がついているものが欲しい。私は整理整頓がそこまで得意ではないが、せっかく一戸建てでひとり暮らしなのだから、メインの部屋くらいスッキリ見せたい。
今日は土曜日なので、客足もそこそこあるようだった。
ベッドのコーナーは店の奥のほうだったので、その途中で机や椅子、本棚、収納など、いろいろな家具のコーナーを通ることになる。
テーブルのコーナーを通り過ぎようとしたとき、ふと見覚えのあるシルエットを見つけた。まばらにいる人の中でも分かりやすい長身。
そこにいたのは、お隣さんこと伊達光忠さんだった。
いいお家に住んで、いい車に乗って、いい服を来ていたから、こんな場所で会うとは思わず、驚いて、声をかけに行ってしまった。
「光忠さん、ですよね……?」
そう後ろから話かけると、こちらを振り返った後、驚いたような顔をした。
「こんにちは、ナマエさん。こんなところで会うなんて奇遇だね」
「ええ、驚きました。光忠さんもこういったところに来るんですね。何だか、アンティークや洗練された家具を使っているイメージがありました」
そう言うと光忠さんは苦笑した後、遠い目をして口を開いた。
「あはは、僕としても、厳選したものを使いたいところなんだけどね。うちには問題児がいるからそうもいかなくって」
問題児というと、もしかしてお子さんだろうか。それを問おうとしたが、光忠さんが私の後ろを見てため息をついたので、釣られてそちらを見てしまい、声にはならなかった。
私の後方、光忠さんがげんなりした顔で見た先では、彼に負けず劣らず整った容姿をお持ちの方が二人、こちらに向かって歩いてきていた。
一人は色素の薄すぎる美しい髪をもち、輝くような金の瞳をしていた。体の線は細く、肌の色がとても白いので女性かと思ったが、首や服装は男性のそれだったので。あれはきっと男性だろう。
もう一人はこげ茶色の髪に、これまた金色の目、褐色の肌が特徴的な大人と子供の中間位の歳の男性だった。
私に気づいた白い方の人が楽しそうな目をして話しかけて来た。
「おや光坊、こちらの方は誰なんだい?」
「ああ、そういえば二人は初対面だったね。先月隣に引っ越してきた、ミョウジナマエさんだよ」
「おお! 君がミョウジさんか。光坊から話は聞いているぞ。俺は伊達国永という。隣人どうし、よろしくな」
白い方の人は見た目に反してかなり明るい方のようで、気さくな感じがした。
「ほら広光も」
そう光忠さんに促されると、褐色の青年が口を開いた。
「…伊達広光だ」
こちらは無口なタイプのようで、自分の名前を名乗ると口を閉じてしまった。しかし、鋭い金色の目で私を観察しているようで少し居心地が悪い。
そういえば、今この二人は「伊達」と言った。ということは、もしかして
「紹介がだいぶ遅くなっちゃったけど僕の兄と弟だよ。今、この二人と一緒に住んでるんだ」
「えっ、そうだったんですか。私てっきり、ご両親か奥様がいるものだとばかり思ってました」
この3人、目が金色と言うところ以外は全く似ていないが、家庭には家庭の事情があると思うので深入りはしない。
「いやぁそれにしても、隣に住んでいたのに一ヶ月も顔を合わせることが無かったなんてなぁ。驚きだぜ」
そう言った国永さんに、今までの仕事の事情を話す。
「実は、仕事が忙しい時期に入ってしまって、なかなか家に帰ってこれなかったんです。帰ってきても深夜だったので、そのせいですかね」
「そいつは大変だったな。光坊が時々きみの話をするから、どんな人か気になっていたんだ。ようやく会えて嬉しいぜ」
アップルパイの時以来光忠さんとは会ってこそいなかったが、LIMEは続いていた。
顔の見れないLIMEだが、光忠さんはスタンプや記号を駆使して楽しい会話を提供してくれた。お互いを名前で呼び合うようになったのも、LIMEでの出来事だった。
そしてその中で、彼の職業を知ることができた。見た目から、夜のお仕事をしているのかと思っていたがそうではなかったようで、飲食店で働いているとのことだった。裏方なのか、接客をしているのかは分からないが、どちらにいても目立つだろうな、と思った。
詳細は教えてくれなかったが、「健全なお店だよ」と言っていた。もしかして私の勘違いがバレていたのだろうか。
「兄さん、LIMEを見せてくれってうるさいんだ。人の会話を見ようだなんて、悪趣味だよね。ああ、もちろん見せてないよ。安心してね」
そう呆れたように語る光忠さんから、疲れの色が見て取れた。きっと大変だったんだろう。見られて困るような会話はしていないが、やはり第三者に見られるとなると恥ずかしい。
「悪趣味だなんて酷い言い方だ。好奇心旺盛といってほしいね。そうだ、きみ、俺ともLIMEを交換しよう。俺にも驚きを提供してくれ」
私は別に驚きなど提供したことはないので国永さんのご期待に添えるかは分からないが、近所付き合いは大切なので国永さんとも交換する。
「おい、光忠。もう買い物は済んだのか? こいつのお守りはもう懲り懲りだぞ」
褐色のイケメン、広光くんが痺れを切らしたように言った。先ほど会ったばかりだが、儚そうな見た目をしているのに、おそらくこの中の誰よりも元気であろう国永さんはそれを聞いて「お前たち、俺に厳しくないかい?」とぼやいている。
「元はといえば、兄さんのせいだからね。全く、これで何回目だと思ってるの。おかげでうちのダイニングテーブルは、ろくに使われないままゴミになるんだよ。もうちょっと落ち着いてほしいね」
そう光忠さんは国永さんに返した。何をしたんだこの人。そう言いたいところをぐっと抑えようとしたが、どうやら顔に出ていたようで、光忠さんが説明してくれた。
「兄さんがね、ダイニングテーブルの脚に深いヒビをいれたんだ。しかもこれが初めてじゃなくてね。とうとう買い替えになったって訳さ。ダイニングテーブルを買い替えるのはもう3回目だよ」
本当に何をしたんだあの人。どうしたらダイニングテーブルの脚に深いヒビが入るんだろう。見た目とのギャップが凄すぎる。
「それは……あの……お疲れ様です」
それしか言葉が出てこなかった。お隣さんの個性が強すぎて、初対面なのに謎の危機感を抱いてしまった。このお隣さん、ヤバい。