隣の伊達さん
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ひょんなことから弟が家へ泊まることになったわけだが、幸いなことに我が家には以前使っていた布団がある。
仕方ない、私は今日は布団で寝よう。寝心地の良い寝具を弟に譲る私はなんて出来た姉なんだろうか。ベストオブシスター賞をもらえるレベルだろうな。まったく虚しい自画自賛である。
「正国、ベッド使っていいよ。私今日床で寝るから」
正国が今後も定期的に来るつもりなら、掛け布団やら枕やらも買っておいたほうが良いのだろうか。
というか、私はベッド派なので、できれば次からは正国に布団で寝て頂きたい。
「あ? あんたが使えよ。布団わざわざ引っ張り出して来るのも大変だろ。てか、掛け布団は予備あんのかよ」
あっ、無いです。今日は何も被らなくても良いかなーって思ってました。ほら、ちょっと厚着すれば大丈夫だよ、多分。
「はあ、そんな事だろうと思ったぜ。おい、こっち来いよ。俺は床で寝る」
「それは身体痛めるから駄目。ほら、布団敷くから手伝って」
収納から布団を引っ張り出させる。嫌そうな顔をされたが、無言でやってくれたので良しとしよう。こちらは寝床を提供するんだから、働けるところで働いてもらわなくては。
「何でこのサイズのベッド買ったんだ?こっちに来たばっかりの頃は無かったよな。何だ、彼氏でもできたのかよ」
「そんな訳ないでしょ。ただ何となく、ちょっと贅沢しようと思っただけ」
「だよな。お前みたいなガサツなやつじゃ無理だよな」
「光忠とかどうだ? あいつ彼女いないぜ」
嘘つけよ。光忠さんみたいな格好いい男性に彼女がいない訳がないでしょうよ。というかそれ光忠さんに直接聞いたんだよね? 失礼か。
「マジだって。言ってたし。すっげえ長いこと片思いしてるって」
「えー、以外。光忠さんが押せば簡単に落ちると思うけどなー。そっかぁ、イケメンでも片思いってするものなんだ。で、そういう正国はどうなのよ。いないの?好きな子」
「いるよ。いるけど全く相手にされねえよ。年上が好きなんだと」
ふうん、高校生なのに年上好きか。いやでもちょっと分かる。
私も理想の男性は年上で包容力がある人だし、あとは経済力があって、家事ができて、優しい人だったらもう最高。注文が多いって?知ったこっちゃない。理想は理想だ。夢見るだけならいくらでもやっていいだろう。
「現実見ろよ」
「やだ、最近の高校生って皆こんな感じなの……?」
むしろもっと夢見るお年頃だろう。何歳に結婚して、何歳に子供を産んで、とかとか。あるだろう、到底実現不可能な理想が! もっと夢見なよ! 私が高校生の頃はもっと夢見てたぞ! まあもちろんその理想は叶わなかったけど!
「そういえば、あの子は元気? ええっと、なんだっけ、ほらあの」
「ぎねのことか?」
「そう! ぎねくん!」
ぎねくん。懐かしいなぁ、とその名前を口の中で転がす。
最初に会ったのは彼がまだ小学生の頃だった。御手杵くんは正国が初めて家に連れてきた友達で、とても印象に残ってる。
二人で宿題の算数プリントを解いていて、それを覗き込んだときに初めて名前を知ったんだっけ。御手杵くん。読めなかったけど。
「おてくん?っていうの?」
そう問いかけると、彼はからからと笑ったあと「みて、だよ」と言った。
「みて きおと っていうんだ。皆俺のこと、ぎね、って呼ぶから、そう呼んでいいぜ」
ぎねくん。なんだか親しみやすい名前だ。
「うん、よろしくね。私の名前は……」
「知ってるよ。ナマエ、だよな」
正国がいつも話してる、と続けた彼に、思わず「えっ」と声が漏れた。
「おい馬鹿、余計なこと言うんじゃねえよ」
おろおろと慌て始めた正国が、とてもかわいらしかった。
普段つっけんどんな態度を取っている正国も、友達の前では普通にお喋りする。そのことが姉心的にとても嬉しかった。
「これからも、正国のことよろしくね」
おう、と元気よく答えた彼は、その後正国と同じクラスになり続け、それは中学へ上がってからも変わらなかった。そして高校も同じ所へ進学し、またもや同じクラスになった。腐れ縁どころではないのでは、と思うほど、ぎねくんは正国と一緒にいた。学校でもニコイチ扱いされているらしい。片方だけでいると小さな騒ぎになる様で、もう付き合ってんじゃねえかレベルである。
「で、どうなの?ぎねくん、彼女できたりした?」
少し間を置いて、苦虫を噛み潰したような声がした。
「できた、らしい」
めでたいじゃないか。写真とかあれば見たいなぁ。彼はどんな子を選んだんだろう。
「なんでそんなに嫌そうなの」
何か言い難い理由があるのか、正国はやたらと言い淀む。そんな態度を取られては余計に気になるので、視線で問い詰める。
「う、なんだよ。あいつに彼女ができたことは別に嫌だなんて思ってねえよ。ただちょっと、その女に問題があるだけで」
「えっ、なになに、教えなよ」
女という生き物は、そういった類の話が大好きだ。もちろん私も。
「あー、なんつーの? ほら」
曰く、ぎねくんと付き合えばついでに正国もついてくることを目当てにしているだとか、ぎねくん以外にもお付き合いしている男性がいるだとか、そんな噂がまことしやかに囁かれているらしい。
でも、そんな子ををぎねくんが選ぶとは思えないし、見抜けないはずがない。あの子はのほほんとしているように見えて意外と周りを見ている。友達も多いし、悪い噂があれば真っ先に耳に入るはず。もしくは、その女の子が相当猫かぶるのが上手いかだ。
「ねえ、写真とかないの。気になるじゃん」
「ある」
見せろ見せろと急かすと、うるせえなと言いつつも、スマホのロックを解除し、ぎねくんのSNSのページを開いて見せてくれた。
「へえ、この子かぁ」
そこにいたのは、まあなんとも普通で、どこにでもいそうな清楚系の女の子だった。セミロングの黒髪に、流してある前髪。平凡だが、優しそうな顔立ちの子だ。ぎねくんと並んで、楽しそうに笑っている。
飛び抜けて容姿が整っているわけでもない、悪い噂など飛び交うことがなさそうな子。こんな子に異性に関しての黒い噂があるなんて。人は見かけによらないものだ。
「悪い子には、見えないんだけどなぁ」
言っちゃ何だが、容姿は中の中。頑張っても中の上。男をコロコロ転がして遊べるようには見えない。
かと言って夜に遊び歩いているようにも見えず、ただただ『普通』という感想だけが出てくる。
「だよな。人は見かけによらねえんだな」
まあ好みは人それぞれなので、あまり突っ込んだ話はやめておこう。その後も中身のない話をして、買い物の予定を立てた。
荷物持ちなどでこき使ってやろう。そう思いながら、電気を消して目を閉じた。
仕方ない、私は今日は布団で寝よう。寝心地の良い寝具を弟に譲る私はなんて出来た姉なんだろうか。ベストオブシスター賞をもらえるレベルだろうな。まったく虚しい自画自賛である。
「正国、ベッド使っていいよ。私今日床で寝るから」
正国が今後も定期的に来るつもりなら、掛け布団やら枕やらも買っておいたほうが良いのだろうか。
というか、私はベッド派なので、できれば次からは正国に布団で寝て頂きたい。
「あ? あんたが使えよ。布団わざわざ引っ張り出して来るのも大変だろ。てか、掛け布団は予備あんのかよ」
あっ、無いです。今日は何も被らなくても良いかなーって思ってました。ほら、ちょっと厚着すれば大丈夫だよ、多分。
「はあ、そんな事だろうと思ったぜ。おい、こっち来いよ。俺は床で寝る」
「それは身体痛めるから駄目。ほら、布団敷くから手伝って」
収納から布団を引っ張り出させる。嫌そうな顔をされたが、無言でやってくれたので良しとしよう。こちらは寝床を提供するんだから、働けるところで働いてもらわなくては。
「何でこのサイズのベッド買ったんだ?こっちに来たばっかりの頃は無かったよな。何だ、彼氏でもできたのかよ」
「そんな訳ないでしょ。ただ何となく、ちょっと贅沢しようと思っただけ」
「だよな。お前みたいなガサツなやつじゃ無理だよな」
「光忠とかどうだ? あいつ彼女いないぜ」
嘘つけよ。光忠さんみたいな格好いい男性に彼女がいない訳がないでしょうよ。というかそれ光忠さんに直接聞いたんだよね? 失礼か。
「マジだって。言ってたし。すっげえ長いこと片思いしてるって」
「えー、以外。光忠さんが押せば簡単に落ちると思うけどなー。そっかぁ、イケメンでも片思いってするものなんだ。で、そういう正国はどうなのよ。いないの?好きな子」
「いるよ。いるけど全く相手にされねえよ。年上が好きなんだと」
ふうん、高校生なのに年上好きか。いやでもちょっと分かる。
私も理想の男性は年上で包容力がある人だし、あとは経済力があって、家事ができて、優しい人だったらもう最高。注文が多いって?知ったこっちゃない。理想は理想だ。夢見るだけならいくらでもやっていいだろう。
「現実見ろよ」
「やだ、最近の高校生って皆こんな感じなの……?」
むしろもっと夢見るお年頃だろう。何歳に結婚して、何歳に子供を産んで、とかとか。あるだろう、到底実現不可能な理想が! もっと夢見なよ! 私が高校生の頃はもっと夢見てたぞ! まあもちろんその理想は叶わなかったけど!
「そういえば、あの子は元気? ええっと、なんだっけ、ほらあの」
「ぎねのことか?」
「そう! ぎねくん!」
ぎねくん。懐かしいなぁ、とその名前を口の中で転がす。
最初に会ったのは彼がまだ小学生の頃だった。御手杵くんは正国が初めて家に連れてきた友達で、とても印象に残ってる。
二人で宿題の算数プリントを解いていて、それを覗き込んだときに初めて名前を知ったんだっけ。御手杵くん。読めなかったけど。
「おてくん?っていうの?」
そう問いかけると、彼はからからと笑ったあと「みて、だよ」と言った。
「みて きおと っていうんだ。皆俺のこと、ぎね、って呼ぶから、そう呼んでいいぜ」
ぎねくん。なんだか親しみやすい名前だ。
「うん、よろしくね。私の名前は……」
「知ってるよ。ナマエ、だよな」
正国がいつも話してる、と続けた彼に、思わず「えっ」と声が漏れた。
「おい馬鹿、余計なこと言うんじゃねえよ」
おろおろと慌て始めた正国が、とてもかわいらしかった。
普段つっけんどんな態度を取っている正国も、友達の前では普通にお喋りする。そのことが姉心的にとても嬉しかった。
「これからも、正国のことよろしくね」
おう、と元気よく答えた彼は、その後正国と同じクラスになり続け、それは中学へ上がってからも変わらなかった。そして高校も同じ所へ進学し、またもや同じクラスになった。腐れ縁どころではないのでは、と思うほど、ぎねくんは正国と一緒にいた。学校でもニコイチ扱いされているらしい。片方だけでいると小さな騒ぎになる様で、もう付き合ってんじゃねえかレベルである。
「で、どうなの?ぎねくん、彼女できたりした?」
少し間を置いて、苦虫を噛み潰したような声がした。
「できた、らしい」
めでたいじゃないか。写真とかあれば見たいなぁ。彼はどんな子を選んだんだろう。
「なんでそんなに嫌そうなの」
何か言い難い理由があるのか、正国はやたらと言い淀む。そんな態度を取られては余計に気になるので、視線で問い詰める。
「う、なんだよ。あいつに彼女ができたことは別に嫌だなんて思ってねえよ。ただちょっと、その女に問題があるだけで」
「えっ、なになに、教えなよ」
女という生き物は、そういった類の話が大好きだ。もちろん私も。
「あー、なんつーの? ほら」
曰く、ぎねくんと付き合えばついでに正国もついてくることを目当てにしているだとか、ぎねくん以外にもお付き合いしている男性がいるだとか、そんな噂がまことしやかに囁かれているらしい。
でも、そんな子ををぎねくんが選ぶとは思えないし、見抜けないはずがない。あの子はのほほんとしているように見えて意外と周りを見ている。友達も多いし、悪い噂があれば真っ先に耳に入るはず。もしくは、その女の子が相当猫かぶるのが上手いかだ。
「ねえ、写真とかないの。気になるじゃん」
「ある」
見せろ見せろと急かすと、うるせえなと言いつつも、スマホのロックを解除し、ぎねくんのSNSのページを開いて見せてくれた。
「へえ、この子かぁ」
そこにいたのは、まあなんとも普通で、どこにでもいそうな清楚系の女の子だった。セミロングの黒髪に、流してある前髪。平凡だが、優しそうな顔立ちの子だ。ぎねくんと並んで、楽しそうに笑っている。
飛び抜けて容姿が整っているわけでもない、悪い噂など飛び交うことがなさそうな子。こんな子に異性に関しての黒い噂があるなんて。人は見かけによらないものだ。
「悪い子には、見えないんだけどなぁ」
言っちゃ何だが、容姿は中の中。頑張っても中の上。男をコロコロ転がして遊べるようには見えない。
かと言って夜に遊び歩いているようにも見えず、ただただ『普通』という感想だけが出てくる。
「だよな。人は見かけによらねえんだな」
まあ好みは人それぞれなので、あまり突っ込んだ話はやめておこう。その後も中身のない話をして、買い物の予定を立てた。
荷物持ちなどでこき使ってやろう。そう思いながら、電気を消して目を閉じた。