ノボリ
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目を覚ますと、知らない電車に揺られていた。
乗客は一人もおらず、外の景色も見えない。時折無人のホームを通り過ぎはするが、決して止まることはない。
よく周りを見渡してみると、どうやら私が乗っているのは電車の一番最後の車両のようだった。
誰かいないものかと、先頭車両に向けて足を動かす。
一体何両進んだのだろう。とうに20は超えたはず。長すぎやしないか。こんなに車両が連結している電車があるなんて聞いたことがない。
そしてまた何両も超え、ついに先頭車両にたどり着いたとき。
「ようこそいらっしゃいました」
黒いコートを羽織った男性が一人、そこに立っていた。
「え」
私はその男性に見覚えがあった。何年も前にやっていたゲームのキャラクター。夢中になった施設のボス。
「わたくし、サブウェイマスターのノボリと申します。最も、すでにご存じかもしれませんが。しかし、こうして会うのは初めてのことでございますね」
「なんで…?」
意味が分からず、呆然と尋ねる私にノボリさんは淡々と聞き返す。
「なんで、と申しますと」
「だって、ノボリさんはゲームの中の…」
そうか、これは夢か。疲れ切った私の脳みそが見せた、都合の良い夢だ。それにしてはあまりにも意識がはっきりしているが、きっとこれが明晰夢というやつだろう。
「ここは現実でございますよ」
最も、ワタクシにとっては、ですが。黒い車掌は、表情を変えもせずそう付け加える。
「あなた様にとっては仮想の世界でも、ワタクシたちにとっては紛れもなく現実でございます。こんな話、受け入れろという方が難しいかもしれませんが、どうぞご理解くださいまし」
ノボリさんはその能面のような顔に、ようやく哀愁を漂わせた。
「ナマエ様が来なくとも、時は進みます。しかし季節は廻らない。強い挑戦者も現れない。ナマエ様のいない世界など、ワタクシにとっては何の意味も持たぬのです」
どうして、私の名前を知っているのだろう。その疑問を口にだす暇も与えずに、彼は続ける。
「もう五年になりますか。ナマエ様のおられない世界は、酷く退屈でございました。四季が無い、というのは斯様に味気のないものなのですね。どうも時間の感覚が狂ってしまう。しかし、ナマエ様がいなくなったのが春で大変助かりました。夏や冬ですと、過ごしにくいですからね」
一歩、彼は言葉と共に足を踏み出した。
「もちろん、ワタクシは信じておりました。ナマエ様はいつかお帰りになるだろうと」
また一歩。
「クダリにも相談したのですよ。あなた様にお戻りいただくためにはどうしたら良いものかと。しかしどうにも良い案は浮かびませんでした。古い文献に時空を超えた人間の話はございましたが、再現するには情報があまりにも足りなかった」
ですから、と彼は付け加える。
「こうしてお待ち申し上げていたのです。何日も、何か月も、何年も。そして今日、ついに願いは叶いました。最近シンオウ地方が何やら騒がしいと聞きますが、何か関係があるのでしょうか。そういえば、一時シンオウチャンピオンの座についていた方がイッシュに来ていると聞きます。もしかすると…いえ、考えすぎですね。そんなことは今はどうでもいい」
そう言ってまた一歩足を踏み出す彼に気圧されて、私は後退った。
「…怖がらせたいわけではないのです。ただ、ワタクシの気持ちを理解して、受け止めていただきたいだけで」
能面のような顔を歪ませて、苦しさと嬉しさを同居させたままで、それでも彼はまだ続ける。
「やはりナマエ様のいる世界が恋しいのです。変化する季節が、進む時が、沈む太陽が、そのすべてをナマエ様とご一緒出来たら。ああ、ワタクシは、きっとナマエ様に恋をしていたのです。今の今まで気づかぬとは、なんと愚かな」
彼はこちらに手を差し伸べる。
「ナマエ様がこのままここにいてくださったら、どれだけ幸福か。ええ、ええ、もちろん無理強いは致しません。返りたいとおっしゃるのなら、共にその手段を探しましょう。しかし、こちらの世界も悪くはないと思うのですよ。生活のサポートはワタクシが全力でいたしましょう。行きたい場所があれば、どこへなりとお連れしましょう」
ですから、どうかあちらの世界を捨ててはくださいませんか。
彼の眼が、言外にそう訴えていた。
乗客は一人もおらず、外の景色も見えない。時折無人のホームを通り過ぎはするが、決して止まることはない。
よく周りを見渡してみると、どうやら私が乗っているのは電車の一番最後の車両のようだった。
誰かいないものかと、先頭車両に向けて足を動かす。
一体何両進んだのだろう。とうに20は超えたはず。長すぎやしないか。こんなに車両が連結している電車があるなんて聞いたことがない。
そしてまた何両も超え、ついに先頭車両にたどり着いたとき。
「ようこそいらっしゃいました」
黒いコートを羽織った男性が一人、そこに立っていた。
「え」
私はその男性に見覚えがあった。何年も前にやっていたゲームのキャラクター。夢中になった施設のボス。
「わたくし、サブウェイマスターのノボリと申します。最も、すでにご存じかもしれませんが。しかし、こうして会うのは初めてのことでございますね」
「なんで…?」
意味が分からず、呆然と尋ねる私にノボリさんは淡々と聞き返す。
「なんで、と申しますと」
「だって、ノボリさんはゲームの中の…」
そうか、これは夢か。疲れ切った私の脳みそが見せた、都合の良い夢だ。それにしてはあまりにも意識がはっきりしているが、きっとこれが明晰夢というやつだろう。
「ここは現実でございますよ」
最も、ワタクシにとっては、ですが。黒い車掌は、表情を変えもせずそう付け加える。
「あなた様にとっては仮想の世界でも、ワタクシたちにとっては紛れもなく現実でございます。こんな話、受け入れろという方が難しいかもしれませんが、どうぞご理解くださいまし」
ノボリさんはその能面のような顔に、ようやく哀愁を漂わせた。
「ナマエ様が来なくとも、時は進みます。しかし季節は廻らない。強い挑戦者も現れない。ナマエ様のいない世界など、ワタクシにとっては何の意味も持たぬのです」
どうして、私の名前を知っているのだろう。その疑問を口にだす暇も与えずに、彼は続ける。
「もう五年になりますか。ナマエ様のおられない世界は、酷く退屈でございました。四季が無い、というのは斯様に味気のないものなのですね。どうも時間の感覚が狂ってしまう。しかし、ナマエ様がいなくなったのが春で大変助かりました。夏や冬ですと、過ごしにくいですからね」
一歩、彼は言葉と共に足を踏み出した。
「もちろん、ワタクシは信じておりました。ナマエ様はいつかお帰りになるだろうと」
また一歩。
「クダリにも相談したのですよ。あなた様にお戻りいただくためにはどうしたら良いものかと。しかしどうにも良い案は浮かびませんでした。古い文献に時空を超えた人間の話はございましたが、再現するには情報があまりにも足りなかった」
ですから、と彼は付け加える。
「こうしてお待ち申し上げていたのです。何日も、何か月も、何年も。そして今日、ついに願いは叶いました。最近シンオウ地方が何やら騒がしいと聞きますが、何か関係があるのでしょうか。そういえば、一時シンオウチャンピオンの座についていた方がイッシュに来ていると聞きます。もしかすると…いえ、考えすぎですね。そんなことは今はどうでもいい」
そう言ってまた一歩足を踏み出す彼に気圧されて、私は後退った。
「…怖がらせたいわけではないのです。ただ、ワタクシの気持ちを理解して、受け止めていただきたいだけで」
能面のような顔を歪ませて、苦しさと嬉しさを同居させたままで、それでも彼はまだ続ける。
「やはりナマエ様のいる世界が恋しいのです。変化する季節が、進む時が、沈む太陽が、そのすべてをナマエ様とご一緒出来たら。ああ、ワタクシは、きっとナマエ様に恋をしていたのです。今の今まで気づかぬとは、なんと愚かな」
彼はこちらに手を差し伸べる。
「ナマエ様がこのままここにいてくださったら、どれだけ幸福か。ええ、ええ、もちろん無理強いは致しません。返りたいとおっしゃるのなら、共にその手段を探しましょう。しかし、こちらの世界も悪くはないと思うのですよ。生活のサポートはワタクシが全力でいたしましょう。行きたい場所があれば、どこへなりとお連れしましょう」
ですから、どうかあちらの世界を捨ててはくださいませんか。
彼の眼が、言外にそう訴えていた。
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