物と人
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大切なものを失う悲しみを知った。張り裂けそう胸の痛みは、今まで受けてきたどんな傷よりも酷かった。
「薬研は、何だか夜みたい。黒い髪は空で、白い肌は月と星だね」
そう言って笑う大将に、「随分明るい夜だな」と言って一緒に笑ったときのことを、今でも鮮明に覚えている。
信頼されるという感覚を与えてくれたのは大将だった。元々はただの鉄の塊でしかなかった自分が、この世で最も心地よいと思った感覚だった。
自分は元々、人に使われる「物」だった。それがいつの間にか、物に憑く「神」になり、そして自身を使う「人」になった。
かつては無かった五感というものが備わっている人の身が、楽しくて仕方がなかった。最も好きだったのは、聞くことだった。ことに、大将の声を聞くのが好きだった。色づいた唇から出る声が好きだった。それを聞いていると、不思議と安心できた。
「薬研なら、大丈夫だよ」
初めて夜戦に行くときに、部隊長に任命された自分にそう声をかけてくれた。その言葉から伝わる期待と信頼が、この上なく好ましかった。
主が死んでしまうと分かってからは、もう二度とその声を聞けなくなるのだと絶望さえした。
だから、最期にお願いをしたのだ。
大将の声を、俺っちにくれないか。
大将は困ったように笑った。声は形にならないものだから、あげられないよ。眉尻をさげて言う大将に、俺っちはそれでも食い下がった。
どうしても欲しいのだ。大将の声が、その音が。せめて記憶にだけでも、焼き付けてはくれないか。
そしてついに、大将は声をくれた。俺っちだけに向けられた、正真正銘、俺っちのためだけの声だった。周りの音に耳を塞いで、未だに記憶に焼き付いている大将の声だけを、ただひたすら聴いている。
「薬研は、何だか夜みたい。黒い髪は空で、白い肌は月と星だね」
そう言って笑う大将に、「随分明るい夜だな」と言って一緒に笑ったときのことを、今でも鮮明に覚えている。
信頼されるという感覚を与えてくれたのは大将だった。元々はただの鉄の塊でしかなかった自分が、この世で最も心地よいと思った感覚だった。
自分は元々、人に使われる「物」だった。それがいつの間にか、物に憑く「神」になり、そして自身を使う「人」になった。
かつては無かった五感というものが備わっている人の身が、楽しくて仕方がなかった。最も好きだったのは、聞くことだった。ことに、大将の声を聞くのが好きだった。色づいた唇から出る声が好きだった。それを聞いていると、不思議と安心できた。
「薬研なら、大丈夫だよ」
初めて夜戦に行くときに、部隊長に任命された自分にそう声をかけてくれた。その言葉から伝わる期待と信頼が、この上なく好ましかった。
主が死んでしまうと分かってからは、もう二度とその声を聞けなくなるのだと絶望さえした。
だから、最期にお願いをしたのだ。
大将の声を、俺っちにくれないか。
大将は困ったように笑った。声は形にならないものだから、あげられないよ。眉尻をさげて言う大将に、俺っちはそれでも食い下がった。
どうしても欲しいのだ。大将の声が、その音が。せめて記憶にだけでも、焼き付けてはくれないか。
そしてついに、大将は声をくれた。俺っちだけに向けられた、正真正銘、俺っちのためだけの声だった。周りの音に耳を塞いで、未だに記憶に焼き付いている大将の声だけを、ただひたすら聴いている。