すごく短いのとか没とか
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最近我が本丸にお越しになった刀、千子村正。こいつはなんとも厄介で、癖のありすぎるお刀様だった。
「あるじ、呼びましたか?」
現にこうして呼んでもいないのに勝手に執務室に入ってくる。
「呼んでません」
「おや、そうでしたか。ではあるいは、ワタシのことを考えた?」
一瞬動きが止まってしまったが、こいつはこういう刀だ。どうせかまをかけて遊んでいるんだろう。
「考えてません。早く持ち場に戻ってください」
突っぱねるようにそう言って、書類に目を戻す。
しかし去ろうとする様子を一切見せず、その場に居座り続けている彼に一言物申してやろうと、ばっと後ろを振り返った。
ひゅっ、っと喉がなった。端正な顔が、思ったよりも近くで、何を考えているのかよく分からない表情で微笑んでいたから。
「っ、いい加減にしてください。蜻蛉切を呼びますよ」
そう言うと、すっと一歩分後ろに下がり、肩を竦めておどけて見せた。
「おお怖い。それはやめてほしいデス」
ではさっさと持ち場に戻れと視線で訴えるが、一向に動こうとしない。
「何がしたいんですか」
痺れを切らしてそう問えば、「特にありませんが」と帰ってくる。
何なんだこの刀は。
「しいて言うなら、そうデスね、主をたぶらかしに、デスね」
は?、とつい心の声が漏れてしまった。
おや、嫌そうな顔デスね、と千子村正は続ける。
「私は妖刀デスからね」
意味が分からずに、じっと見つめていると、ふふ、とあの気に入らない声で笑った。
「主。ワタシは妖刀だなんだと言われていマスが、なぜそう呼ばれるのか、ご存知ですか。ああ、徳川の将軍を切ったから、なんて、つまらない答えはやめてくだサイね。そう、分からないでショウ?そうなんです。本当のところは誰にも分からない。でもね、ワタシは一つだけ、答えを見つけています」
楽しそうに長々と語ってくれているが、なんだか雰囲気が怪しくなってきたのでそろそろ蜻蛉切を呼びたい。切実に。
逃げ道を必死に探していると、ずい、と迫られ、頬に手を添えられた。
「ワタシは、人を魅了する」
早く逃げて、保護者担当の刀を呼ばないと。そう思っているのに、体が動かない。怪しげな雰囲気に呑まれ、視線を反らすことができない。先程まで穏やかに時が流れていたはずの執務室が、今は何処か恐ろしい別の場所のように思われた。
「ふふ、良い顔デスね。そう、あなたが今正にその身を以って体験しているそれこそ、私が妖刀たる由縁。ねえ主、ワタシはあなたを気に入りました。このままワタシの魅力に溺れて、死んでしまってはいかがですか」
いまだに動けず、本当に死んでしまうのではないかという恐怖で背筋が凍る。
それでも怯えていることだけは伝わったのか、村正はぱっと手を離すと、にたりと笑んだ。
「冗談デス」
ひらりとその身を翻し、するりと扉の向こうに消えて行った。
最後の言葉は、嘘か誠か。
「あるじ、呼びましたか?」
現にこうして呼んでもいないのに勝手に執務室に入ってくる。
「呼んでません」
「おや、そうでしたか。ではあるいは、ワタシのことを考えた?」
一瞬動きが止まってしまったが、こいつはこういう刀だ。どうせかまをかけて遊んでいるんだろう。
「考えてません。早く持ち場に戻ってください」
突っぱねるようにそう言って、書類に目を戻す。
しかし去ろうとする様子を一切見せず、その場に居座り続けている彼に一言物申してやろうと、ばっと後ろを振り返った。
ひゅっ、っと喉がなった。端正な顔が、思ったよりも近くで、何を考えているのかよく分からない表情で微笑んでいたから。
「っ、いい加減にしてください。蜻蛉切を呼びますよ」
そう言うと、すっと一歩分後ろに下がり、肩を竦めておどけて見せた。
「おお怖い。それはやめてほしいデス」
ではさっさと持ち場に戻れと視線で訴えるが、一向に動こうとしない。
「何がしたいんですか」
痺れを切らしてそう問えば、「特にありませんが」と帰ってくる。
何なんだこの刀は。
「しいて言うなら、そうデスね、主をたぶらかしに、デスね」
は?、とつい心の声が漏れてしまった。
おや、嫌そうな顔デスね、と千子村正は続ける。
「私は妖刀デスからね」
意味が分からずに、じっと見つめていると、ふふ、とあの気に入らない声で笑った。
「主。ワタシは妖刀だなんだと言われていマスが、なぜそう呼ばれるのか、ご存知ですか。ああ、徳川の将軍を切ったから、なんて、つまらない答えはやめてくだサイね。そう、分からないでショウ?そうなんです。本当のところは誰にも分からない。でもね、ワタシは一つだけ、答えを見つけています」
楽しそうに長々と語ってくれているが、なんだか雰囲気が怪しくなってきたのでそろそろ蜻蛉切を呼びたい。切実に。
逃げ道を必死に探していると、ずい、と迫られ、頬に手を添えられた。
「ワタシは、人を魅了する」
早く逃げて、保護者担当の刀を呼ばないと。そう思っているのに、体が動かない。怪しげな雰囲気に呑まれ、視線を反らすことができない。先程まで穏やかに時が流れていたはずの執務室が、今は何処か恐ろしい別の場所のように思われた。
「ふふ、良い顔デスね。そう、あなたが今正にその身を以って体験しているそれこそ、私が妖刀たる由縁。ねえ主、ワタシはあなたを気に入りました。このままワタシの魅力に溺れて、死んでしまってはいかがですか」
いまだに動けず、本当に死んでしまうのではないかという恐怖で背筋が凍る。
それでも怯えていることだけは伝わったのか、村正はぱっと手を離すと、にたりと笑んだ。
「冗談デス」
ひらりとその身を翻し、するりと扉の向こうに消えて行った。
最後の言葉は、嘘か誠か。