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すごく短いのとか没とか

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「ねえ、知ってるかい、歌に出てくる『花』というのは、大抵が桜のことなんだよ。雅だろう」
 文系なのかゴリラ系なのかよく分からないうちの初期刀は、縁側でお茶を飲んでいた私に向かって唐突にそう言ってきた。どう返して良いの分からず「ふうん、そうなんだ」と言うと、「うん。だからね、この本丸の庭にも桜を植えないかい」と続けてきた。なるほどそういう魂胆か。
 よその本丸でもよく見られる現象だが、歌仙兼定という刀は雅なものや高価なものを欲しがる傾向にある。名前の元が三十六歌仙というだけあり、そう言った文化的なことに関してはこの本丸の誰よりも敏感だ。彼とは長く一緒にいるのでそんなことはとうの昔に知っていたし、叶えられる願なら聞いてあげたいとも思う。しかし我が本丸には、どうしてもそれを実現できない理由があるのだ。
「分かってるでしょう歌仙。今この本丸にはそんなスペースないのよ」
 そう、金銭云々ではなく、単純に、土地がない。新しい刀剣男士を迎え入れ続け、それに合わせて建物を増築していった結果、ここ数年でこの本丸の敷地面積は四分の三以上が建物に持って行かれてしまった。残りの場所でどうにかしてあげたいのは山々だが、たくさんの刀剣男士の腹を満たすための食物を育てる畑や、出陣に必須の馬を世話する厩を潰す訳にも行かない。
「景趣で我慢してくれない?」
「嫌だね。あんな、いつまで経っても散らない、成長しない桜なんて桜とは呼べないね。僕は本物の桜で歌を詠みたいんだ」
 どうしてそんなに本物の桜にこだわるのか、と問うと、「うるさい。どうして分からないんだ」と言って何処かへ行ってしまった。意味が分からない。
 歌仙と懇意にしている燭台切り光忠にそのことを伝えると、ため息をつかれた。
「はあ、まったく歌仙君は」
「何々、もしかして何か知ってるの」
何故か彼は言い淀んだが、困ったように眉を下げながら教えてくれた。
「桜ってね、恋の歌にもよく詠まれるんだよ」
 それだけ告げると、そそくさと厨を出ていってしまった。
 自分の頬が赤くなるのを感じつつ、私の頭はなんとかして桜を植えるスペースを確保しようと考えていた。まったく都合の良い審神者である。
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