太郎太刀さんは知ってる ※男主
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暫く、お互いを見つめ合ったまま立っていた。
先に口を開いたのは俺だった。
「太郎太刀、もしかして、俺のこと見えて……」
「え、ええ。しかし、主、なぜ、どうして」
「俺にも分からないんだ。気づいたらこうなってた。お前らともっと一緒に居れなかったことが、未練になってるのかもな」
はは、と笑ってみるが、太郎太刀の顔は依然曇ったままだ。
「私は、これを、喜んでも良いのでしょうか」
「どうして?」
「あなたに再び会えたことは、この上なく喜ばしいことです。しかし、あなたがここにいるということはあなたの人生が満足のいくものではなかったということ。それを、手放しに喜ぶことなど、とても……」
触れられない手で、太郎太刀の頭を撫でる。感触は無いし、もちろん太郎太刀にも伝わっていない。しかし、視覚的にそれに気づいた太郎は、困ったような顔でこちらを見つめてきた。
「あるじ、私は」
「いいんだ。喜んでくれ。俺も、お前に見つけてもらえて嬉しいんだ」
「あるじ」
ポロポロと、切れ長の目から透明な液体が流れ落ちる。それは、初めて見る太郎太刀の涙だった。
どうしたんだ、何があったんだ、と慌てふためき、オロオロと視線を彷徨わせていると、太郎太刀はついに座りこんでしまった。
「こんなこと、本当にあるのでしょうか。全て私が作り出した幻想かもしれません。しかし、たとえ幻だったとしても、もう一度、会いたかった」
「幻なんかじゃない。俺は確かにここにいる」
「主、私は、あなたを守れなかった。あなたの死に立ち会うことすら、私にはできなかった。私はあなたの刀であったのに」
ここに来た奴らも、口々にそれを言っていたな、と思い出した。立場が逆だったら俺もそう思うだろうから、気持ちはすごく分かる。でも、俺としてはもう気にして欲しくないことだった。
審神者になった時点で、戦場に身を置くことの意味は理解していた。いつ死んでもおかしくない状況だったのだ。それがあの日だっただけ。簡単には割り切れないが、そう思っていると少しは気持ちが楽だ。
「気にしないでくれ、太郎太刀。俺はもう気にしてないぞ。そういう運命だったんだ。いやむしろ、これだけ長く審神者をやれたことすら儲けだと思う。それに、こうしてまた会えたじゃないか。ああ、でも、やっぱり体がないと嫌か?」
太郎太刀が「いいえ」と答えるのを知っていて、そう質問する俺は駄目な審神者だろう。しかしその「いいえ」という受け答えすらを欲するほどに、俺は会話に飢えていた。
誰かと話せるって、素晴らしい。
「いいえ、主よ。あなたの体はこの下に眠っている。私にはそれで十分です。人はいつか死ぬもの。私達もいつかは朽ちるもの。巻きもどりはしないのです。巻き戻っては、いけないのです」
目元を擦り、涙を拭くと、太郎太刀はその場に正座した。
「ああ、主よ。臣下として努められなかった私を、どうか許さずにいてください。そして、もう一度傍に居させてください」
すがりつくような声でそう言われては、拒否などできまい。まあするつもりもなかったけど。
「……ああ。俺が成仏するまで、よろしくな」
太郎太刀は儚げに、にこりと微笑んだ。