太郎太刀さんは知ってる ※男主
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空に浮かぶ満月が柔く夜を照らす中、カラコロと一本下駄の歯を鳴らして、小さな天狗はやってきた。今日はいつも一緒にいる大きな薙刀は一緒ではないようだ。
その様子は、どこかおかしいように思えた。何がとは正確に言えないし、気のせいかもしれないが、それでも、ぼんやりとした違和感は拭えなかった。
月光のせいか、その顔は少し、悲しそうに見えて。
「このごろ、ずっと、かんがえていることがあります」
いつもは飄々としていて、掴みどころのない短刀が、そう言った。ちなみに三条は全体的に心の内側を見せてくれない。核心に触れさせてくれない。のらりくらりと躱されるのだ。さすが年長者が多いだけある。
「どうして、へし切長谷部だったのでしょう」
「どうしてぼくは、あなたのさいごにごいっしょできなかったのでしょう」
よしつねこうのときは、いっしょだったのに。
ああ、今剣は寂しがっているのだ。
三条派の刀は新米の審神者からすれば皆レア度が高く、なかなか集まらなかった。周りの皆は着々と兄弟が集まっていく中、今剣はいつも寂しさを抱え、一人で過ごしていた。そうしていつしか寂しさは不安になった。不安は時折ひどく大きくなり、それが爆発するのは大抵夜だった。暗闇は不安を大きくするものだ。夜中にしくしくと泣きながら俺の部屋の扉の前に来るも、変に遠慮したらしく、自らノックすることはなかった。しかし、今剣が来ていることはセコム役であるこんのすけに知らせてもらえたため、どうしたんだ、とすぐに扉を開けて中に招き入れた。
「さびしいんです」
恐る恐るといったふうに告げられた。
おおかた、粟田口や来派の部屋の賑やかな声でも聞こえてきたんだろう。それで寂しさが爆発したという訳だ。
じゃあ、今日は一緒に寝よう。そう提案すれば、申し訳無さと嬉しさが入り混じったような顔でコクリと頷いた。
同じようなことがその後も何度かあった。
そういうときはいつも、ホットミルクを用意して、楽しい話をして、一緒の布団で寝たものだ。
その半年後、なんとか岩融と石切丸が来てくれて、三条部屋はなかなか賑やかになった。とくに賑やかだったのは今剣と岩融で、アクロバティックな遊びをしては、しょっちゅう障子や襖をダメにしていた。何度歌仙に怒られたことか。
数ヶ月後にはなんと小狐丸と三日月宗近が揃い、今確認されている三条の刀剣男子を全振り顕現させることができた。
彼らの過ごす部屋は、誰が見ても、正に『三条部屋』だった。
しかしそれ以降も今剣は度々俺の部屋に訪れ、添い寝をせがんで来た。
岩融が寂しがるぞ、と言えば、「岩融にはことわってからきました」と返され、仕方ないなと言いつつ、内心では、自分を慕ってくれている嬉しさに心をぴょんぴょんさせながら添い寝をしたものだ。もちろん寝物語も欠かさなかった。
そしていつの間にか、週末には今剣と一緒に眠ることが当たり前になっていた。
そこでふと、気がついた。今日は日曜日。いつも今剣と一緒に寝ていた日だった。
「にちようびは、あるじさまとねむるひ、ときめていました。あるじさま。きょうはにちようびですよ」
だから、いっしょにねむりましょう。
そう言って俺の墓石にもたれ掛かった。
そうして暫くすると、スピスピと寝息が聞こえてきた。よくこの硬い場所で寝れるなぁ。
まあ、今日くらいなら良いか。刀剣男士は普通の人間とは身体の作りが異なるため、滅多なことでは病気にならない。
しかしせっかく得た人の身体だ。ふかふかの布団で、快適な睡眠を貪ってほしい。
今剣の端正な寝顔を眺めてみる。
あ、目元が少し腫れている。泣いたのかな。
触れられない手で目尻の辺りを緩く撫でていると、後ろから複数の足音が近づいて来た。
後ろを振り返ると、その足音は岩融と石切丸のものだったらしく、困り顔の大男二人がそこに立っていた。
「おお、ここにいたのか。まさかとは思ったが、本当にやるとは。起こすのはいささか可哀想か? 良い夢を見せたまま、部屋に運んでやろうぞ」
「そうだね、こんなところで寝ては身体を痛めてしまう。そんなことをしては主も悲しむだろうからね。それじゃあ、運んでくれるかい。起こさないよう、慎重にね」
応、と返した岩融は、その巨体からは想像しにくい、繊細な手付きで今剣を抱え上げた。
「『あるじさまとねむります』なんて言って部屋を飛びだして行くから、驚いたよ。やはり、彼もまた寂しいのだろうね」
「ああ。それは俺達もおなじだろう。だだこやつは、子供の姿をしているからな。精神が見た目に引っ張られておるのよ」
「久しく人の子とは直接触れ合っていなかったからね、僕らは身近な者の死を忘れてしまっていたのかもしれないね。あれだけたくさんの歴史を見てきたのに、主がいなくなった途端このざまだ。情けないよ」
「そうだな。……しかし、引き継ぎの審神者がやっと決まったのだ。これからは心機一転、新たな審神者の元で励むとしよう。立派な主に恵まれたことを誇りに、我らは我らの歴史を守らねばならぬな」
おお、ついに、俺の後任の審神者が決まったのか。どんな人だろう。できれば、優しい人でありますように。
「中には、歴史を変えたがる者もいるだろう。しかし、それは彼を否定することになる。みんなにはよく言いきかせておかないとね。特に短刀達だよ。彼らは皆、純粋であるがゆえに、良くも悪くも真っ直ぐだ」
子供の行動力とは、ときに凄まじい力を有するものだ。大人にはできない考え方を、大人にはできない思い切りの良さで実現させることがある。
それ故に、短刀たちの心のケアは何よりも優先すべきだ。理性がうまく働かない分、後任の審神者に何かとんでもないことをしてしまうかもしれない。まあ家の短刀たちは皆いい子だし、そんなことないだろうけど。
頼むから、何事もなく引き継ぎが上手く行きますように。
去り際に、石切丸がこちらをチラリと振り返ったような気がした。
その様子は、どこかおかしいように思えた。何がとは正確に言えないし、気のせいかもしれないが、それでも、ぼんやりとした違和感は拭えなかった。
月光のせいか、その顔は少し、悲しそうに見えて。
「このごろ、ずっと、かんがえていることがあります」
いつもは飄々としていて、掴みどころのない短刀が、そう言った。ちなみに三条は全体的に心の内側を見せてくれない。核心に触れさせてくれない。のらりくらりと躱されるのだ。さすが年長者が多いだけある。
「どうして、へし切長谷部だったのでしょう」
「どうしてぼくは、あなたのさいごにごいっしょできなかったのでしょう」
よしつねこうのときは、いっしょだったのに。
ああ、今剣は寂しがっているのだ。
三条派の刀は新米の審神者からすれば皆レア度が高く、なかなか集まらなかった。周りの皆は着々と兄弟が集まっていく中、今剣はいつも寂しさを抱え、一人で過ごしていた。そうしていつしか寂しさは不安になった。不安は時折ひどく大きくなり、それが爆発するのは大抵夜だった。暗闇は不安を大きくするものだ。夜中にしくしくと泣きながら俺の部屋の扉の前に来るも、変に遠慮したらしく、自らノックすることはなかった。しかし、今剣が来ていることはセコム役であるこんのすけに知らせてもらえたため、どうしたんだ、とすぐに扉を開けて中に招き入れた。
「さびしいんです」
恐る恐るといったふうに告げられた。
おおかた、粟田口や来派の部屋の賑やかな声でも聞こえてきたんだろう。それで寂しさが爆発したという訳だ。
じゃあ、今日は一緒に寝よう。そう提案すれば、申し訳無さと嬉しさが入り混じったような顔でコクリと頷いた。
同じようなことがその後も何度かあった。
そういうときはいつも、ホットミルクを用意して、楽しい話をして、一緒の布団で寝たものだ。
その半年後、なんとか岩融と石切丸が来てくれて、三条部屋はなかなか賑やかになった。とくに賑やかだったのは今剣と岩融で、アクロバティックな遊びをしては、しょっちゅう障子や襖をダメにしていた。何度歌仙に怒られたことか。
数ヶ月後にはなんと小狐丸と三日月宗近が揃い、今確認されている三条の刀剣男子を全振り顕現させることができた。
彼らの過ごす部屋は、誰が見ても、正に『三条部屋』だった。
しかしそれ以降も今剣は度々俺の部屋に訪れ、添い寝をせがんで来た。
岩融が寂しがるぞ、と言えば、「岩融にはことわってからきました」と返され、仕方ないなと言いつつ、内心では、自分を慕ってくれている嬉しさに心をぴょんぴょんさせながら添い寝をしたものだ。もちろん寝物語も欠かさなかった。
そしていつの間にか、週末には今剣と一緒に眠ることが当たり前になっていた。
そこでふと、気がついた。今日は日曜日。いつも今剣と一緒に寝ていた日だった。
「にちようびは、あるじさまとねむるひ、ときめていました。あるじさま。きょうはにちようびですよ」
だから、いっしょにねむりましょう。
そう言って俺の墓石にもたれ掛かった。
そうして暫くすると、スピスピと寝息が聞こえてきた。よくこの硬い場所で寝れるなぁ。
まあ、今日くらいなら良いか。刀剣男士は普通の人間とは身体の作りが異なるため、滅多なことでは病気にならない。
しかしせっかく得た人の身体だ。ふかふかの布団で、快適な睡眠を貪ってほしい。
今剣の端正な寝顔を眺めてみる。
あ、目元が少し腫れている。泣いたのかな。
触れられない手で目尻の辺りを緩く撫でていると、後ろから複数の足音が近づいて来た。
後ろを振り返ると、その足音は岩融と石切丸のものだったらしく、困り顔の大男二人がそこに立っていた。
「おお、ここにいたのか。まさかとは思ったが、本当にやるとは。起こすのはいささか可哀想か? 良い夢を見せたまま、部屋に運んでやろうぞ」
「そうだね、こんなところで寝ては身体を痛めてしまう。そんなことをしては主も悲しむだろうからね。それじゃあ、運んでくれるかい。起こさないよう、慎重にね」
応、と返した岩融は、その巨体からは想像しにくい、繊細な手付きで今剣を抱え上げた。
「『あるじさまとねむります』なんて言って部屋を飛びだして行くから、驚いたよ。やはり、彼もまた寂しいのだろうね」
「ああ。それは俺達もおなじだろう。だだこやつは、子供の姿をしているからな。精神が見た目に引っ張られておるのよ」
「久しく人の子とは直接触れ合っていなかったからね、僕らは身近な者の死を忘れてしまっていたのかもしれないね。あれだけたくさんの歴史を見てきたのに、主がいなくなった途端このざまだ。情けないよ」
「そうだな。……しかし、引き継ぎの審神者がやっと決まったのだ。これからは心機一転、新たな審神者の元で励むとしよう。立派な主に恵まれたことを誇りに、我らは我らの歴史を守らねばならぬな」
おお、ついに、俺の後任の審神者が決まったのか。どんな人だろう。できれば、優しい人でありますように。
「中には、歴史を変えたがる者もいるだろう。しかし、それは彼を否定することになる。みんなにはよく言いきかせておかないとね。特に短刀達だよ。彼らは皆、純粋であるがゆえに、良くも悪くも真っ直ぐだ」
子供の行動力とは、ときに凄まじい力を有するものだ。大人にはできない考え方を、大人にはできない思い切りの良さで実現させることがある。
それ故に、短刀たちの心のケアは何よりも優先すべきだ。理性がうまく働かない分、後任の審神者に何かとんでもないことをしてしまうかもしれない。まあ家の短刀たちは皆いい子だし、そんなことないだろうけど。
頼むから、何事もなく引き継ぎが上手く行きますように。
去り際に、石切丸がこちらをチラリと振り返ったような気がした。