太郎太刀さんは知ってる ※男主
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俺の墓が立ってから3日が過ぎた。
ここの刀剣男子、かなりいい奴らだったようで、俺の墓の周りを庭にして、なんだか墓だとは思えないほどキレイにしてくれた。庭にはベンチや池もあり、見事に刀剣男士の憩いの場となっていた。勘違いしそうになるが、ここはあくまで俺の墓である。
いやそれにしても、技術の進歩とは素晴らしいものだ。先日の敵襲でボロボロになった庭の修繕はもちろん、その隣に新しく皆の憩いの場(俺の墓)を作った訳だが、なんとこの間約半日。ネットで頼み、開始時刻と終了時刻を指定すればちょっぱやで終わらせてくれるのだ。安くて速いのに凄まじいクオリティを誇るため、俺も本丸の増築によく利用していた。
そんな文明の利器を駆使して作られた俺の墓は、まあ普通に墓だった。そこら辺にありそうな、ごく普通の一般的な墓。しかし、いつぞや俺がポロッと溢した「辛気臭い墓は嫌だなぁ。どうせなら、墓参りとか積極的に行きたくなっちゃうようなやつがいい」という一言を見事に尊重してくれたらしく、墓石の周りは花が植えられ、近くには桜の木と池があり、さらにはベンチもついている。
昨日完成したばかりだが、完成したその時から皆が満喫し始めたのでもう完全に庭である。墓はおまけ状態だ。主悲しい。
昼間は賑やかで寂しさを感じることは一切ないが、夜になると誰もいなくなってしまう。外なので当たり前といえば当たり前なのだが、つい先日まで母屋で過ごしていた俺としてはその温度差に慣れていないので、昨日は少し涙が出た。死んだときには出なかったのに、幽霊になってから出るなんて。でも、誰も俺のことが見えないし、俺の声も届かない。俺に気づいてくれない。母屋に行けば少しは寂しさも紛れるかと思い、夕方、皆が母屋へ帰っていくときに付いて行こうとしたが、どうやらこの幽霊の体は墓から離れすぎると制御できなくなるらしい。夕方、皆に付いて行こうとした記憶はあるのだが、母屋に近づいてからの記憶がない。気づくと、深夜に墓の前に戻って来ていた。その間のことは一切覚えていない。何があったのかも分からない。よって、俺は無闇に墓から離れないことを教訓として心に刻むことにした。
さて、只今の時刻は……まあ時計がないのでよく分からないが、早朝、だと思う。
今日は誰か来てくれるだろうか。いや、俺がいなくなったばかりでその後処理に忙しいから誰も来てくれないかもしれないな。
そう考えていると、誰かが庭に近づいてきた。遠目でもわかる。あの金色は、間違いなく、蜂須賀虎徹だ。大切な俺の初期刀。一番迷惑をかけたし、かけられた。最高の相棒だった。
蜂須賀は俺の墓の前に来ると、その場で正座した。俺のことは見えていないようだった。本当の本当に見えないのか、と目の前で変顔やらヒゲダンスやらをやってみたが、こちらに目の焦点が合わない。やっぱり見えないのか。ねえ、俺ここにいるんだよ。
「…主、おはよう」
うん。おはよう。いい朝だね、快晴だよ。
「君がいなくなったから仕事が増えて大変なんだ。書類の整理やら作成やらで長谷部と歌仙がそろそろ赤疲労になりそうだよ」
あっちゃー。やっぱり書類仕事はその二人に回るよな。だってめっちゃ得意だもんな。いっぱいお世話になったなぁ。でも赤疲労はまずいから、皆で手伝ってやってくれ。
「燭台切と小豆長光が昨日の夜、ハンバーグを作ってくれたよ。美味しかった。無意識で主の席にも用意していてね。気づいてしんみりしてしまった」
ハンバーグ食べたかったなぁ。でもこの体、物に触れないから無理だな。お腹も空かないし喉も乾かない。なんだか皆に少し近くなったかもな。刀剣男士も、食事は娯楽として楽しんでる感じなんだろ?まあ俺はもう楽しめないわけだけど。
「その場は陸奥守や愛染やらがどうにかしてくれたよ。有能なムードメーカーがいて良かった」
あいつらは一見能天気そうに見えて、ちゃんと考えてるからなー。自分の個性の使いどころだと思ったんだろう。俺もまたあいつらと馬鹿騒ぎしたいな。
「皆、主の死についていけてない様だよ。早く慣れてもらわないと」
うーん、俺としてはもうちょい俺の死を偲んでくれたほうが嬉しい、けど、皆が暗くなるのは嫌だから、適度にしんみりしてくれ。
「…でも、多分俺が一番主の死についていけてないんだ。さっき、主を起こそうとして、つい主の部屋に声をかけてしまった。返事が返ってこなくてね、そこでやっと、主がもういないことに気づいたよ。……気づいたけれど、正直まだ実感が湧かない。君が、何食わぬ顔して朝食の席につくんじゃないか、今日の予定を伝えにくるんじゃないか、陽のあたる場所で短刀たちと昼寝してるんじゃないか、夕飯の品目を想像して書類整理の最中にニヤニヤしてるんじゃないかとか、そんなことばかり考えてしまう」
…うん、俺も、お前らとの生活がまた当たり前のように再開されるんじゃないかって思ってたりするよ。自分が死んだこと、受け入れられてないから。
「もう過ぎてしまったことを語るのはあまり好きではないんだが、あのとき、主の傍に俺がいれば、って思うんだよ」
…うん。
「人はいつか死んでしまうことは分かってる。俺たちのように半永久的に存在できる訳じゃないことも知ってる」
…そうだな。
「今までも、たくさんの人の死を見てきた。だから知った気になっていたんだ。人の死とは、こういうものだ、と。割り切れるつもりでいた」
…そうだよな。俺よりきっと、たくさんのそれを見てきたんだろうな。
「でも、違ったんだ。かつては伸ばせなかった腕だって、踏み出せなかった脚だって、名前を呼ぶ口だって、今の俺にはあるんだ。救えるかもしれなかった死を、そう簡単に受け入れられる訳がないんだよ」
泣くなよ、蜂須賀。つらい思いさせてごめん。
「昨日、皆君の前ではせめて明るくいようと、ここの庭では頑張っていたが、母屋に着いたときには笑顔なんて一つもなかった。皆、泣いていたよ」
そうだったのか。俺はてっきり気持ちを切り替えているものだとばかり思ってたぞ。だってあまりにも、いつも通りの笑顔で、この庭を闊歩してたじゃん。神様だからそういうものなのかと思ったじゃん。じゃんじゃん。
「…本当は、夕飯のハンバーグだって、君の隣でないと、味が分からないんだ。美味しいであろうことは分かるんだよ。でも、君がいない世界は、酷く無意味なものに見えてしまう。色が無いんだ。君がいたときは世界のどんなものだってきちんと色付いて見えていたのに。君がいないことを再確認させられる度に、世界から色が消えていく。」
なんだかこのタイミングで言うのっておかしいんだろうけど、ありがとう。蜂須賀の中で俺の価値がそこまで高くなってたってことだよな。俺が思ってるのと同じくらい、お前も俺のことを思っていてくれてたんだろう。この気持ちを、きちんと言葉にしておくべきだったな。今更後悔したって遅いけど、せめて、それだけでもお互いに伝え合えていたら、俺の未練は一つ少なくなってたかもな。
「ああ、駄目だな。つい暗いことを語ってしまう。こんなことを言うつもりじゃなかったんだ。ただ、これから鍛錬をするから、頑張るよって、そう報告したかっただけなんだ。それがいつの間にかこんな話に……。さて、もう暗い話は終わりにするよ。今日も一日がんばってくるよ、主」
行ってらっしゃい。頑張れよ、蜂須賀。
ここの刀剣男子、かなりいい奴らだったようで、俺の墓の周りを庭にして、なんだか墓だとは思えないほどキレイにしてくれた。庭にはベンチや池もあり、見事に刀剣男士の憩いの場となっていた。勘違いしそうになるが、ここはあくまで俺の墓である。
いやそれにしても、技術の進歩とは素晴らしいものだ。先日の敵襲でボロボロになった庭の修繕はもちろん、その隣に新しく皆の憩いの場(俺の墓)を作った訳だが、なんとこの間約半日。ネットで頼み、開始時刻と終了時刻を指定すればちょっぱやで終わらせてくれるのだ。安くて速いのに凄まじいクオリティを誇るため、俺も本丸の増築によく利用していた。
そんな文明の利器を駆使して作られた俺の墓は、まあ普通に墓だった。そこら辺にありそうな、ごく普通の一般的な墓。しかし、いつぞや俺がポロッと溢した「辛気臭い墓は嫌だなぁ。どうせなら、墓参りとか積極的に行きたくなっちゃうようなやつがいい」という一言を見事に尊重してくれたらしく、墓石の周りは花が植えられ、近くには桜の木と池があり、さらにはベンチもついている。
昨日完成したばかりだが、完成したその時から皆が満喫し始めたのでもう完全に庭である。墓はおまけ状態だ。主悲しい。
昼間は賑やかで寂しさを感じることは一切ないが、夜になると誰もいなくなってしまう。外なので当たり前といえば当たり前なのだが、つい先日まで母屋で過ごしていた俺としてはその温度差に慣れていないので、昨日は少し涙が出た。死んだときには出なかったのに、幽霊になってから出るなんて。でも、誰も俺のことが見えないし、俺の声も届かない。俺に気づいてくれない。母屋に行けば少しは寂しさも紛れるかと思い、夕方、皆が母屋へ帰っていくときに付いて行こうとしたが、どうやらこの幽霊の体は墓から離れすぎると制御できなくなるらしい。夕方、皆に付いて行こうとした記憶はあるのだが、母屋に近づいてからの記憶がない。気づくと、深夜に墓の前に戻って来ていた。その間のことは一切覚えていない。何があったのかも分からない。よって、俺は無闇に墓から離れないことを教訓として心に刻むことにした。
さて、只今の時刻は……まあ時計がないのでよく分からないが、早朝、だと思う。
今日は誰か来てくれるだろうか。いや、俺がいなくなったばかりでその後処理に忙しいから誰も来てくれないかもしれないな。
そう考えていると、誰かが庭に近づいてきた。遠目でもわかる。あの金色は、間違いなく、蜂須賀虎徹だ。大切な俺の初期刀。一番迷惑をかけたし、かけられた。最高の相棒だった。
蜂須賀は俺の墓の前に来ると、その場で正座した。俺のことは見えていないようだった。本当の本当に見えないのか、と目の前で変顔やらヒゲダンスやらをやってみたが、こちらに目の焦点が合わない。やっぱり見えないのか。ねえ、俺ここにいるんだよ。
「…主、おはよう」
うん。おはよう。いい朝だね、快晴だよ。
「君がいなくなったから仕事が増えて大変なんだ。書類の整理やら作成やらで長谷部と歌仙がそろそろ赤疲労になりそうだよ」
あっちゃー。やっぱり書類仕事はその二人に回るよな。だってめっちゃ得意だもんな。いっぱいお世話になったなぁ。でも赤疲労はまずいから、皆で手伝ってやってくれ。
「燭台切と小豆長光が昨日の夜、ハンバーグを作ってくれたよ。美味しかった。無意識で主の席にも用意していてね。気づいてしんみりしてしまった」
ハンバーグ食べたかったなぁ。でもこの体、物に触れないから無理だな。お腹も空かないし喉も乾かない。なんだか皆に少し近くなったかもな。刀剣男士も、食事は娯楽として楽しんでる感じなんだろ?まあ俺はもう楽しめないわけだけど。
「その場は陸奥守や愛染やらがどうにかしてくれたよ。有能なムードメーカーがいて良かった」
あいつらは一見能天気そうに見えて、ちゃんと考えてるからなー。自分の個性の使いどころだと思ったんだろう。俺もまたあいつらと馬鹿騒ぎしたいな。
「皆、主の死についていけてない様だよ。早く慣れてもらわないと」
うーん、俺としてはもうちょい俺の死を偲んでくれたほうが嬉しい、けど、皆が暗くなるのは嫌だから、適度にしんみりしてくれ。
「…でも、多分俺が一番主の死についていけてないんだ。さっき、主を起こそうとして、つい主の部屋に声をかけてしまった。返事が返ってこなくてね、そこでやっと、主がもういないことに気づいたよ。……気づいたけれど、正直まだ実感が湧かない。君が、何食わぬ顔して朝食の席につくんじゃないか、今日の予定を伝えにくるんじゃないか、陽のあたる場所で短刀たちと昼寝してるんじゃないか、夕飯の品目を想像して書類整理の最中にニヤニヤしてるんじゃないかとか、そんなことばかり考えてしまう」
…うん、俺も、お前らとの生活がまた当たり前のように再開されるんじゃないかって思ってたりするよ。自分が死んだこと、受け入れられてないから。
「もう過ぎてしまったことを語るのはあまり好きではないんだが、あのとき、主の傍に俺がいれば、って思うんだよ」
…うん。
「人はいつか死んでしまうことは分かってる。俺たちのように半永久的に存在できる訳じゃないことも知ってる」
…そうだな。
「今までも、たくさんの人の死を見てきた。だから知った気になっていたんだ。人の死とは、こういうものだ、と。割り切れるつもりでいた」
…そうだよな。俺よりきっと、たくさんのそれを見てきたんだろうな。
「でも、違ったんだ。かつては伸ばせなかった腕だって、踏み出せなかった脚だって、名前を呼ぶ口だって、今の俺にはあるんだ。救えるかもしれなかった死を、そう簡単に受け入れられる訳がないんだよ」
泣くなよ、蜂須賀。つらい思いさせてごめん。
「昨日、皆君の前ではせめて明るくいようと、ここの庭では頑張っていたが、母屋に着いたときには笑顔なんて一つもなかった。皆、泣いていたよ」
そうだったのか。俺はてっきり気持ちを切り替えているものだとばかり思ってたぞ。だってあまりにも、いつも通りの笑顔で、この庭を闊歩してたじゃん。神様だからそういうものなのかと思ったじゃん。じゃんじゃん。
「…本当は、夕飯のハンバーグだって、君の隣でないと、味が分からないんだ。美味しいであろうことは分かるんだよ。でも、君がいない世界は、酷く無意味なものに見えてしまう。色が無いんだ。君がいたときは世界のどんなものだってきちんと色付いて見えていたのに。君がいないことを再確認させられる度に、世界から色が消えていく。」
なんだかこのタイミングで言うのっておかしいんだろうけど、ありがとう。蜂須賀の中で俺の価値がそこまで高くなってたってことだよな。俺が思ってるのと同じくらい、お前も俺のことを思っていてくれてたんだろう。この気持ちを、きちんと言葉にしておくべきだったな。今更後悔したって遅いけど、せめて、それだけでもお互いに伝え合えていたら、俺の未練は一つ少なくなってたかもな。
「ああ、駄目だな。つい暗いことを語ってしまう。こんなことを言うつもりじゃなかったんだ。ただ、これから鍛錬をするから、頑張るよって、そう報告したかっただけなんだ。それがいつの間にかこんな話に……。さて、もう暗い話は終わりにするよ。今日も一日がんばってくるよ、主」
行ってらっしゃい。頑張れよ、蜂須賀。