太郎太刀さんは知ってる ※男主
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「私の勘違いだったらすまないね。でも主、君はそこにいるんだろう?姿は見えないし声も聞こえないが、気配は分かる。……早く還れると良いのだけどねぇ」
早朝、急にやってきた目の前の御神刀がそんなことを言うものだから、驚いた。これで二振り目だ。姿や声は認識されていないが、存在に気付いてもらえた。
自分の存在に気づかれないというのは、想像より遥かに辛いことなのだとこの生活で痛感した。寂しいし悲しい。透明人間になりたいと思ったことはあるが、実際になってみるとそれほど良いものではない。もしも太郎太刀がいなければどうなっていたか。俺は太郎太刀に感謝してもしきれない。
「一体何が未練なのかは……多すぎて分からないね。はは、君のことだから、冷蔵庫のプリン、とかかな?」
石切丸にしては珍しく、冗談を言っている。
しかしそれが空元気だというのは、すぐに分かった。なにせ、目の下に隈を作っていたのだから。
さらに、心なしか頬は痩けていて、顔色も悪いように見える。自分の死は、彼にこれほどまでの影響を与えるのか。
自分は主として、意外と上手くやれていた方なのかもしれない。もしあのまま、ここで皆と生きて行けていたならば、もっとずっと……。ifの話を考えるの、良くないよな。今は石切丸の話の方が大切だ。
顔色の悪い彼は、それでも真剣に続ける。
「まあそれは一つ冗談として。聞こえてるかも分からないけれど、私からひとつ君に忠告しておこう」
そして、ぴっと人差し指を立てた。
「むやみに出歩いてはいけないよ。はっきりとは言えないが、何か良くないものが母屋の方にある。何かは分からない。悪意や害意は感じられないから余計に厄介なんだ。見つけ次第どうにかするよう努めるから、少しは安心してくれ」
害意がないなら放っておいてもいいのでは。と思ったが、やはり石切丸にとっては気がかりなのだろう。
というか、俺ここから動けないし。本丸の外は愚か、母屋へも行けないし。もしかして、俺の行動範囲が狭いことの原因が母屋にあるのだろうか。うーん、不穏だ。
先日の鯰尾のときと良い、今回といい、やはり母屋に何かまずいことが起こっているような気がする。
だが母屋には、というかこの本丸には、俺とその仲間である刀剣男士と、それからこんのすけしかいなかったわけで。
いや、考えるのはよそう。疑心暗鬼に陥ってしまう。
とりあえず、石切丸のことは応援することにした。ずっと目を背けておく分けにも行かないだろうし。もしも分かったら、報告しに来てくれるといいな。
「さて、私はそろそろ戻るよ。何、そのうちまた来るさ。それまで、自衛をしっかりね」
そして振り向きざまに、
「何となく、予想はついているんだ。当たらなければ幸いなんだけれどね」
そう不穏なセリフを言い残して、石切丸は母屋へ戻っていった。
心の靄が、晴れる気がしない。
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