太郎太刀さんは知ってる ※男主
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「ここから離れられない、と?」
「ああ。俺もどうしてかは分からないけど、ここから離れると、意識がなくなるんだ。だから母屋の方にもいけない」
太郎太刀は暫く考え込んでいたようだが、俺にも良く分かっていないのでどうしようもない。
今するべきことは現状の把握だ。
「とりあえず、この本丸がこれからどうなるかを教えてもらえるか?新しい審神者が来るって聞いたんだけど」
本当?と聞くと、太郎太刀はコクリと頷いた。
「はい。私もまだ詳しくは分からなのですが、あと十週間で引き継ぎの審神者がこちらに来るそうです。まだ年齢も性別も分かりませんが。そのあたりのことは長谷部が取り持ってくれています。……それから、刀剣男士が三つの派閥に分かれました」
派閥が分かれた、とはどういうことだろうか。
「新しく審神者が来るにあたり、それぞれの身の振り方を考えたのです。新しく来た審神者と契約を結び、この本丸で過ごそうとするもの。あなたを最後の主とし、刀解をのぞむもの。それから、審神者の受け入れを拒むもの。政府としては戦力の保持のために、大人しく新しい審神者に従ってほしいようですが」
「受入れ、刀解、拒否、か」
先日鯰尾が言っていたことを思い出した。
『俺、刀解してもらおうと考えてるんです』
審神者なくして刀解はできない。一度審神者と縁を結んでからでないと、刀剣男士は本霊に還れない。
俺の大切な仲間たち。ああ、せめて俺が刀解できたら良かったのに。ますます自分が死んだことが嫌になってくる。
「新しい審神者に従う者は、蜂須賀虎徹を筆頭として、虎徹派、源氏兄弟、五条、長谷部、同田貫あたりですね」
こっちは責任感の強いやつが多いようだ。髭切はああ見えて自分の仕事はきっちりこなすから。同田貫は単に戦場にいたいだけだろう。
「刀解を望んでいるのは、村正派、来派、一期一振を筆頭とした粟田口派。ああ、粟田口は珍しく派閥がバラバラなようで。短刀の何人かは新しい審神者に従うようです」
粟田口が分かれるなんて珍しい。この間ここに来た五虎退はきっと新しい審神者の元で働くのだろう。あの子の最後の涙を俺は見たのだから。
「審神者の受け入れを拒み、ここを刀剣男子のみで運営しようとするのは、山姥切国広を筆頭として、堀川、兼定辺りですね。私も詳しい情勢は知らないので、全員の意見は分かりません」
こいつらの狙いはまったく分からない。審神者のいない本丸は、ガソリンのない車のようなものだ。それとして存在はできるが、ほかの機能は果たせない。鍛刀も手入れもできず、ただの建物として存在するだけ。それになんの価値があるのだろうか。そのあたりはこれから調査が必要だ。
「なるほど、ありがとう。……ところで、太郎はどこに属してるんだ?」
「わたしは……、刀解を望んでいましたが、そうですね、あなたがいるならば、ここに残り、新しい審神者とともに歩んでも構わないと思うのです」
「そっか」
俺としても、俺を見ることのできる刀を失いたくない。ここに一人は辛いんだ。
一人は寂しい。一人は寒い。体はなくても心は残ってるんだ。人間はきっと、心の痛みにとっても弱い。
「ところで、あなたは何かあてはあるのですか」
不安そうに伏し目が揺れる。
「あて、と言うと?」
「成仏するための、です。あなたにこうして会えたことは嬉しいですが、それとこれとは別の話。亡者は何時までもこの世にいてはいけない」
「そう、だよなぁ」
死んだ俺の最終目標は成仏することだが、そのためには未練を晴らさなくてはならない。未練なんて数え切れないほどあるし、その全てを晴らせるはずなんて無い。
「どうすればいいかは分からないけど、なんとかやってみるよ」
「それが良いでしょう」
「なあ、太郎太刀。俺がここにいることは誰にも言わないでくれ。バレると騒ぎになりそうだしな。それから、時々でいいから、ここに来て、俺と話してくれると嬉しい」
太郎は優しく笑った。
「ええ。あなたが望むなら」