雨に咲く
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「あ、あおみね」
「あ?」
名前を呼んだことに深い意味なんてない。
放課後になり、帰宅しようと昇降口までやってきた。
そこに目立つ長身のクラスメイトが佇んでいるなと思ったら、声に出てしまっただけ。
私の呟きは本人にも聞こえてしまったらしく、青峰はこちらに視線を向けた。
「どうしたの?」
この状況で無視するわけにもいかず、仕方ないので近づいて話しかける。
な、なんだか怒ってるような……?
元々鋭い目つきが今はさらに険しく細められていた。
身長差から必然的に見下ろされる形になって、ものすごく圧を感じる。
「雨降ってやがんだよ。くそっ、朝は晴れてたじゃねーか」
口を尖らせ空を睨んでいる青峰は、きっと傘を持っていないのだろう。
『朝は晴れていた』と言っても、夕方からは雨の予報だった。
まあ、天気予報を見ていない、見ても大丈夫だと過信したのかもしれないけど。
青峰の不機嫌な理由がわかったことに、少し安心する。
私が話しかけたせいだったらどうしようかと思った。
だけど、問題がもう1つ。
話を聞いて、ハイさようならというわけにもいかなかった。
私は青峰と違って傘を持っている。
朝の通学時に彼を見かけることがあったので、家が同じ方角なことも知っていた。
「……一緒に入ってく?」
「オマエん家ってどの辺?」
「○○町」
「マジかよ。オレもそっちだわ。……じゃーそうさせてもらうか」
「うん」
この雨の中そのまま帰らせるのはバツが悪いもんね。
そう自分に言い聞かせるが、少し後悔しているところもあった。
クラスメイトとはいえ、ろくに話したこともない男子と同じ傘で帰るなんて絶対に気まずい。
だけど、もうどうしようもない。
とりあえず傘を開いて差そうとすると、傘を奪われた。
「バカか! オマエが持ったらオレが入れねぇだろーが」
「ごめん、それもそうだね」
私が差したら長身の青峰はかなり屈まないと入れない。
「おら、入れよ。とっとと帰ろーぜ」
「う、うん……」
急かされるが、青峰と私の傘があまりにミスマッチでついじっと見てしまう。
だって、190センチ超え(たしかそんな話をきいたことがある)で強面の男が、ピンクの花柄の傘なんて!
女性用サイズだから大きさもアンバランスで、余計に面白い。
写メって友達に見せれば、それなりにウケそうな気がする。
そんなことをしたら怒られそうだから、さすがに止めておいたけど。
「今日の数学難しくなかった?」
「すーがく? ……あー、オレ寝てたわ」
「呆れた……」
「いーんだよ、別に」
「テストで泣いても知らないから」
「んじゃ、オマエノート見せろ」
「ムリ。全然内容の意味わからなかったもん。見せられるものじゃないよ」
「受けてもわかんねぇんじゃ、寝てんのと変わんねぇだろ」
「全然違いますよー」
沈黙は気まずいと思って話題をふってみたら、意外と会話が続いたことに感動を覚える。
そんな調子で話していたら、思ったよりもすぐに時間が過ぎていった。
私の家の方が青峰の家よりも手前だったらしく、青峰は私を家まで送り届けてくれる。
まぁ、私の傘だからそうなってしまうのは仕方ないんだけど。
このまま私の傘を一人で差して歩いたら、通りがかった人にぎょっとされてしまうかもしれない。お父さんの傘を貸してあげよう。
そう思って青峰に向き合ったとき、私はあることに気付いた。
青峰の左側だけ濡れている。
「ちょっと待ってて!!」
「あ?」
急いで家に入ると、タンスからバスタオルを引っ張りだす。
頭の中は混乱していた。
私は全然濡れてないのに……。
だけど、ふつうに考えれば、あの傘に二人がすっぽり入るわけなんてない。青峰は大柄だから尚更。
私が濡れないようにして、自分は濡れてたっての?
いくら私の傘だからってそんなこと気にしなくて良いのに。
というか、青峰がそんな気を使うなんて。
普段のイメージからは想像ができなくて、戸惑ってしまう。
「……っ」
ああ、これ以上考えちゃダメ……!
襲ってくる妙な恥ずかしさに耐えられなくて、私はぶんぶんと頭を振った。
とにかく、タオルを渡さないと。
なんだか心臓がうるさいのは、青峰を待たせちゃいけないと急いでいるせいだ。
「お待たせ!」
青峰は素直に玄関前で立っていた。
「体濡れちゃってるよね!? これで拭いて」
「別にいいよ、めんどくせぇ」
「ダメ! ちゃんと拭かなきゃ!」
強引にタオルを押しつける。
私のせいで風邪をひいたりしたら寝覚めが悪いじゃない。
しぶしぶといった様子で青峰は濡れた所を拭きだした。
「ったく、別にイイっつーのに……」
「……ごめんね、ありがと」
「礼言うのはこっちだろ? 入れてもらって助かった。サンキューな」
「う、うん……」
私の言いたいことは、伝わらなかったようだ。
だけど、それを訂正することができなくて、曖昧に頷いた。
体を拭き終えた青峰は、新しく貸したお父さんの傘を差して歩いていく。
黒くて大きい傘は、青峰一人なら問題なく入れるし、彼が持っていても何の違和感もなかった。
「じゃー、また明日な」
「う、うん! また明日……!」
予想外の言葉に驚いている暇もなく、青峰はあっという間に角を曲がって姿を消してしまった。
歩くのが早い。急いでいたのかもしれないけど、きっとそれだけじゃない。
あれだけ背が高くて足が長ければ、歩幅だって広いに決まっている。
ここに来るまでは私に合わせてくれてたんだと、今更になって気がついた。
「なんなの、もう……っ」
また心臓がドキドキと音を立てる。
濡れた肩も、歩く速さも、全くそんな素振りは見せないで。
意外な優しさを知ってしまった。
「『また明日』かぁ……」
先程交した言葉を反芻する。
今までほとんど話したことはなかった。
ただの挨拶。社交辞令だと思うのに。
明日からは今日みたいに話せるのかななんて。
淡い期待を抱く自分がいた。
何も知らなかったクラスメイトの印象が少しだけ変わった、そんな雨の日。
「あ?」
名前を呼んだことに深い意味なんてない。
放課後になり、帰宅しようと昇降口までやってきた。
そこに目立つ長身のクラスメイトが佇んでいるなと思ったら、声に出てしまっただけ。
私の呟きは本人にも聞こえてしまったらしく、青峰はこちらに視線を向けた。
「どうしたの?」
この状況で無視するわけにもいかず、仕方ないので近づいて話しかける。
な、なんだか怒ってるような……?
元々鋭い目つきが今はさらに険しく細められていた。
身長差から必然的に見下ろされる形になって、ものすごく圧を感じる。
「雨降ってやがんだよ。くそっ、朝は晴れてたじゃねーか」
口を尖らせ空を睨んでいる青峰は、きっと傘を持っていないのだろう。
『朝は晴れていた』と言っても、夕方からは雨の予報だった。
まあ、天気予報を見ていない、見ても大丈夫だと過信したのかもしれないけど。
青峰の不機嫌な理由がわかったことに、少し安心する。
私が話しかけたせいだったらどうしようかと思った。
だけど、問題がもう1つ。
話を聞いて、ハイさようならというわけにもいかなかった。
私は青峰と違って傘を持っている。
朝の通学時に彼を見かけることがあったので、家が同じ方角なことも知っていた。
「……一緒に入ってく?」
「オマエん家ってどの辺?」
「○○町」
「マジかよ。オレもそっちだわ。……じゃーそうさせてもらうか」
「うん」
この雨の中そのまま帰らせるのはバツが悪いもんね。
そう自分に言い聞かせるが、少し後悔しているところもあった。
クラスメイトとはいえ、ろくに話したこともない男子と同じ傘で帰るなんて絶対に気まずい。
だけど、もうどうしようもない。
とりあえず傘を開いて差そうとすると、傘を奪われた。
「バカか! オマエが持ったらオレが入れねぇだろーが」
「ごめん、それもそうだね」
私が差したら長身の青峰はかなり屈まないと入れない。
「おら、入れよ。とっとと帰ろーぜ」
「う、うん……」
急かされるが、青峰と私の傘があまりにミスマッチでついじっと見てしまう。
だって、190センチ超え(たしかそんな話をきいたことがある)で強面の男が、ピンクの花柄の傘なんて!
女性用サイズだから大きさもアンバランスで、余計に面白い。
写メって友達に見せれば、それなりにウケそうな気がする。
そんなことをしたら怒られそうだから、さすがに止めておいたけど。
「今日の数学難しくなかった?」
「すーがく? ……あー、オレ寝てたわ」
「呆れた……」
「いーんだよ、別に」
「テストで泣いても知らないから」
「んじゃ、オマエノート見せろ」
「ムリ。全然内容の意味わからなかったもん。見せられるものじゃないよ」
「受けてもわかんねぇんじゃ、寝てんのと変わんねぇだろ」
「全然違いますよー」
沈黙は気まずいと思って話題をふってみたら、意外と会話が続いたことに感動を覚える。
そんな調子で話していたら、思ったよりもすぐに時間が過ぎていった。
私の家の方が青峰の家よりも手前だったらしく、青峰は私を家まで送り届けてくれる。
まぁ、私の傘だからそうなってしまうのは仕方ないんだけど。
このまま私の傘を一人で差して歩いたら、通りがかった人にぎょっとされてしまうかもしれない。お父さんの傘を貸してあげよう。
そう思って青峰に向き合ったとき、私はあることに気付いた。
青峰の左側だけ濡れている。
「ちょっと待ってて!!」
「あ?」
急いで家に入ると、タンスからバスタオルを引っ張りだす。
頭の中は混乱していた。
私は全然濡れてないのに……。
だけど、ふつうに考えれば、あの傘に二人がすっぽり入るわけなんてない。青峰は大柄だから尚更。
私が濡れないようにして、自分は濡れてたっての?
いくら私の傘だからってそんなこと気にしなくて良いのに。
というか、青峰がそんな気を使うなんて。
普段のイメージからは想像ができなくて、戸惑ってしまう。
「……っ」
ああ、これ以上考えちゃダメ……!
襲ってくる妙な恥ずかしさに耐えられなくて、私はぶんぶんと頭を振った。
とにかく、タオルを渡さないと。
なんだか心臓がうるさいのは、青峰を待たせちゃいけないと急いでいるせいだ。
「お待たせ!」
青峰は素直に玄関前で立っていた。
「体濡れちゃってるよね!? これで拭いて」
「別にいいよ、めんどくせぇ」
「ダメ! ちゃんと拭かなきゃ!」
強引にタオルを押しつける。
私のせいで風邪をひいたりしたら寝覚めが悪いじゃない。
しぶしぶといった様子で青峰は濡れた所を拭きだした。
「ったく、別にイイっつーのに……」
「……ごめんね、ありがと」
「礼言うのはこっちだろ? 入れてもらって助かった。サンキューな」
「う、うん……」
私の言いたいことは、伝わらなかったようだ。
だけど、それを訂正することができなくて、曖昧に頷いた。
体を拭き終えた青峰は、新しく貸したお父さんの傘を差して歩いていく。
黒くて大きい傘は、青峰一人なら問題なく入れるし、彼が持っていても何の違和感もなかった。
「じゃー、また明日な」
「う、うん! また明日……!」
予想外の言葉に驚いている暇もなく、青峰はあっという間に角を曲がって姿を消してしまった。
歩くのが早い。急いでいたのかもしれないけど、きっとそれだけじゃない。
あれだけ背が高くて足が長ければ、歩幅だって広いに決まっている。
ここに来るまでは私に合わせてくれてたんだと、今更になって気がついた。
「なんなの、もう……っ」
また心臓がドキドキと音を立てる。
濡れた肩も、歩く速さも、全くそんな素振りは見せないで。
意外な優しさを知ってしまった。
「『また明日』かぁ……」
先程交した言葉を反芻する。
今までほとんど話したことはなかった。
ただの挨拶。社交辞令だと思うのに。
明日からは今日みたいに話せるのかななんて。
淡い期待を抱く自分がいた。
何も知らなかったクラスメイトの印象が少しだけ変わった、そんな雨の日。
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