照らす赤
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ナマエのクラスにアメリカからの帰国子女が転校してきた。
転校生――火神大我は自己紹介で将来の夢はNBAプレイヤーになることだと告げる。
たしかに背が高いからバスケに向いているのかもしれないとナマエが考えている中、クラスがざわついた。
「なんか変わってるねー」
「おもしろーい」
クスクスと笑いあう女子たち。
ナマエの左隣の男子はバスケ部だが、さらに隣にいるもう一人のバスケ部員と顔を見合わせていた。 その顔はあきらかに不満そうである。
なんで?
なにが面白いのか。なにが気に入らないのか。
スポーツに疎いナマエはNBAのこともよく知らない。
バスケットの本場、アメリカのプロリーグ。プレイできる人間なんてほんの一握りだけ。漠然と大変な道なのだろうと想像する。
彼のバスケットの腕前もなにも知らない。
だが、堂々となんの戸惑いもなく、NBAプレイヤーになりたいと口にした火神を素直にかっこいいと感じた。真っ直ぐに道を見据える姿を尊敬するとさえ思ったのに。
周囲の反応はナマエとは真逆のものだった。
そんなに笑わなくても良いじゃないかと思っても、この場でクラスメイトに憤りをぶつけることなどできない。
ただ唇を噛んで俯いた。
その後、とくに火神と交流することもなかったが、彼がバスケ部を辞めたという話が耳に入ってきた。
隣の男子たちは「火神のやつ浮いてたんだよなあ」「ぜってーオレたちのこと見下してたって」などと会話をしている。
火神とは話したことすらない。
でも、自己紹介のときの真っ直ぐな瞳を覚えている。あんな目をした人が、同じバスケ部の人間を見下したりするのだろうか。
それでもナマエは火神と言葉を交わすこともない。
彼の背中をそっと見つめるだけだった。
自分から彼に働きかけることなどないと思っていた。
ある日の放課後。
図書室で本を選ぶのに熱中していたら、すっかり日が暮れていた。
教室に置いてあるカバンを取って、さっさと帰ろう。
パタパタと軽い足音をたて、後ろのドアから教室に入る。
夕焼けに照らされ、教室が赤く染まっていた。
そこに、別の赤色をが目に飛び込んできて、ナマエは目を丸くした。
火神がひとり、窓際の自分の席から外を眺めている。
なんとなく気まずい。
幸い、火神はナマエに気付いていなかった。
ナマエの席は扉のすぐそば。できるだけ音をたてないようにすれば、このまま気付かれないかもしれない。
そろそろと机にかけたカバンをとり、ドアまで歩く。
「……」
そのまま教室をあとにすれば良かったのに、気になって振り返ってしまった。
大きいはずの背中がなぜか小さく寂しげに見える。
「火神君」
教室と廊下の境目で声をかけた。
「私、火神君はすごいと思います。まだ自分の夢がない人だって多い中で、明確な夢を持ってるんですから。それだけでも、カッコイイと思いました。だから、まわりの変な反応なんて気にしないでほしいです。……少なくとも、私は火神君の夢を応援したいです」
言い切ったと同時に駆け出した。
火神が振り返ったのが分かったか、どんな顔をしているか確認する勇気はない。
何か問われたら答えられる自信もなく全力で逃げた。
言い逃げは良くない。火神も不快だったかもしれない。もしくは、急なことで意味不明だったかもしれない。
ぐるぐると駆け巡る不安をごまかすためにも、ナマエは走った。
一方、火神は廊下にぼうぜんと立っていた。
消えていく小さな背中を見送る。追いかけようかとも考えたが、やめた。
突然聞こえた声は、都合の良い幻聴かと耳を疑った。
この現状を変えてほしい。そんな望みが生んだ幻なのかと。
夕陽のせいか真っ赤な顔をしていた少女は、話したことすらない。たしか同じクラスのミョウジだ。
だが、なぜ彼女が?
幻だとしたらほぼ知らない相手なのはおかしいし、そもそもなにが解決したわけでもなかった。
なにも解決していないのだ。
現状はかわっていない。
それでも。
――『私は火神君の夢を応援したいです』
夢を笑わらないで認めてくれる人がいる。
それだけで、降り注ぐ日の光が眩しく感じられた。
転校生――火神大我は自己紹介で将来の夢はNBAプレイヤーになることだと告げる。
たしかに背が高いからバスケに向いているのかもしれないとナマエが考えている中、クラスがざわついた。
「なんか変わってるねー」
「おもしろーい」
クスクスと笑いあう女子たち。
ナマエの左隣の男子はバスケ部だが、さらに隣にいるもう一人のバスケ部員と顔を見合わせていた。 その顔はあきらかに不満そうである。
なんで?
なにが面白いのか。なにが気に入らないのか。
スポーツに疎いナマエはNBAのこともよく知らない。
バスケットの本場、アメリカのプロリーグ。プレイできる人間なんてほんの一握りだけ。漠然と大変な道なのだろうと想像する。
彼のバスケットの腕前もなにも知らない。
だが、堂々となんの戸惑いもなく、NBAプレイヤーになりたいと口にした火神を素直にかっこいいと感じた。真っ直ぐに道を見据える姿を尊敬するとさえ思ったのに。
周囲の反応はナマエとは真逆のものだった。
そんなに笑わなくても良いじゃないかと思っても、この場でクラスメイトに憤りをぶつけることなどできない。
ただ唇を噛んで俯いた。
その後、とくに火神と交流することもなかったが、彼がバスケ部を辞めたという話が耳に入ってきた。
隣の男子たちは「火神のやつ浮いてたんだよなあ」「ぜってーオレたちのこと見下してたって」などと会話をしている。
火神とは話したことすらない。
でも、自己紹介のときの真っ直ぐな瞳を覚えている。あんな目をした人が、同じバスケ部の人間を見下したりするのだろうか。
それでもナマエは火神と言葉を交わすこともない。
彼の背中をそっと見つめるだけだった。
自分から彼に働きかけることなどないと思っていた。
ある日の放課後。
図書室で本を選ぶのに熱中していたら、すっかり日が暮れていた。
教室に置いてあるカバンを取って、さっさと帰ろう。
パタパタと軽い足音をたて、後ろのドアから教室に入る。
夕焼けに照らされ、教室が赤く染まっていた。
そこに、別の赤色をが目に飛び込んできて、ナマエは目を丸くした。
火神がひとり、窓際の自分の席から外を眺めている。
なんとなく気まずい。
幸い、火神はナマエに気付いていなかった。
ナマエの席は扉のすぐそば。できるだけ音をたてないようにすれば、このまま気付かれないかもしれない。
そろそろと机にかけたカバンをとり、ドアまで歩く。
「……」
そのまま教室をあとにすれば良かったのに、気になって振り返ってしまった。
大きいはずの背中がなぜか小さく寂しげに見える。
「火神君」
教室と廊下の境目で声をかけた。
「私、火神君はすごいと思います。まだ自分の夢がない人だって多い中で、明確な夢を持ってるんですから。それだけでも、カッコイイと思いました。だから、まわりの変な反応なんて気にしないでほしいです。……少なくとも、私は火神君の夢を応援したいです」
言い切ったと同時に駆け出した。
火神が振り返ったのが分かったか、どんな顔をしているか確認する勇気はない。
何か問われたら答えられる自信もなく全力で逃げた。
言い逃げは良くない。火神も不快だったかもしれない。もしくは、急なことで意味不明だったかもしれない。
ぐるぐると駆け巡る不安をごまかすためにも、ナマエは走った。
一方、火神は廊下にぼうぜんと立っていた。
消えていく小さな背中を見送る。追いかけようかとも考えたが、やめた。
突然聞こえた声は、都合の良い幻聴かと耳を疑った。
この現状を変えてほしい。そんな望みが生んだ幻なのかと。
夕陽のせいか真っ赤な顔をしていた少女は、話したことすらない。たしか同じクラスのミョウジだ。
だが、なぜ彼女が?
幻だとしたらほぼ知らない相手なのはおかしいし、そもそもなにが解決したわけでもなかった。
なにも解決していないのだ。
現状はかわっていない。
それでも。
――『私は火神君の夢を応援したいです』
夢を笑わらないで認めてくれる人がいる。
それだけで、降り注ぐ日の光が眩しく感じられた。
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