未来の話
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ウェールズ城の客間に案内されたナマエは、促されるままソファに腰かける。
子供の頃、ふわふわでとても大きいと感じていたそれは、大人になった今でも充分に大きく座り心地も抜群だった。
テーブルの上にはティーセットと真っ赤ないちごのタルトが用意されている。
ナマエの向かい側にはアグロヴァルとラモラックが並んで座っていた。
昔を思い出して、なんだか懐かしくなる。
大きく違うのは――と、隣に座るパーシヴァルをちらりと盗み見た。
久しぶりに会うからだろうか、その端正な横顔に見惚れてしまいそうになる。
こんな気持ちで彼を見上げる日がくるなんて、誰が想像できただろう。
そして、もう一つの大きい変化。
優しい笑顔を思い浮かべては、胸が痛む。いくら歳月が過ぎようと、理不尽な喪失の悲しみは襲ってくる。
しかし、そんなナマエの感傷を吹き飛ばすように、ラモラックはとんでもない発言をする。
「思い出したんだけどさ、ちっちゃい頃パーシィって『ナマエと結婚する』って言ってたよね」
「「えっ」」
ティーカップを持ったパーシヴァルとナマエの手がピタリと止まる。
驚愕に目を開きこちらを見つめてくる二人に、ラモラックは無邪気に笑った。
「わ! 同じ反応! 似たもの夫婦だね~」
「ま、まだ夫婦じゃ、」
「まだってことはいずれそうなるってことだよね~」
ナマエは否定できずに口を噤んだ。迂闊な反論はしない方が賢明かもしれない。
その横でパーシヴァルは「覚えておりません」と戸惑っていた。
「我は覚えておるぞ。あれはたしか……――」
優雅にカップを置いたアグロヴァルは、当時のことをゆったりと語り始める。
「ナマエさんに次に会えるのはいつになりますか?」
「まぁまぁ、待ってる間にナマエをビックリさせるイタズラでも考えてみようよ」
「ラモラック! だが、そうだな。日々を過ごしていればすぐにまたその日が来る」
ナマエが帰ってしまい、パーシヴァルはしょんぼりしていた。遠くに住んでいる彼女はそう頻繁に遊びにはこられない。
わがままを言ってはいけないと理解していても、寂しくなってしまう。一緒にいる時間が楽しければ楽しいほど、余計だ。
兄二人はパーシヴァルの気が晴れるようなことはないかと思考を巡らせる。
「そうだ!」
突然パーシヴァルはぱっと顔を輝かせる。
「俺、大きくなったらナマエさんと結婚します!」
「……パーシヴァルはナマエのことが好きなのか?」
「はい! あ、もちろん、アグロヴァル兄上とラモラック兄上のことも好きですよ!」
それからお母様とお父様と……と指で数えながら好きな人物の名前をあげていく。
アグロヴァルとラモラックは顔を見合わせた。
ナマエに対する気持ちはどうやら特別なものではないらしい。というより、パーシヴァルに『好き』の区別はまだないようだ。
「結婚したらずっと一緒に遊べますよね!」
せっかく元気になったのだし、今は恋愛感情や結婚について説明する必要はないだろうと二人は微笑ましくパーシヴァルを見守った。
「……そんなことが」
パーシヴァルは頭を抱えた。
聞かなければ良かったかもしれない。聞いても思い出せず、ただ無駄に羞恥心にかられることになった。
反対に、照れくさそうにしていたナマエは笑顔を浮かべていた。今とは違う感情でも、自分を好いていてくれたことが嬉しい。
「本当にパーシヴァルは可愛かったわね!」
「はは、たしかにパーシヴァルは可愛いらしいところもあるな!」
「そうだね、パーシィは可愛いところもあるよね~」
「ナマエ、お前は何を言っているんだ! 兄上達も、お戯れはおやめください!」
皆から可愛いと言われて、パーシヴァルはますます恥ずかしくなる。
だが、顔を赤くして反論する姿も可愛いと余計に三人を喜ばせるだけだった。
三人がひとしきりパーシヴァルを可愛がり落ち着いた後。
先程まで豪快に笑っていたアグロヴァルが、打って変わって真面目な顔で切り出した。
「しかし、幼きパーシヴァルの言葉が真になるとは考えもしなかったが、こうしてお前達が結ばれたことを我は嬉しく思うぞ」
二人に注がれた慈愛に満ちた瞳が、実弟のパーシヴァルだけでなくナマエも彼にとって大切な存在なのだと雄弁に語っていた。
そして、大切な二人が幸せになることを切に願っていると。
「アグロヴァル兄上にそう言っていただけると、俺も嬉しいです」
「ありがとう、アグに……あ、ごめんなさい!」
ナマエは、はっと口を手で覆う。
子供の頃にラモラックにつられてアグ兄と呼んでいた。
今はお互いの立場上控えた方が良いだろうと気を付けていたのだが、感極まるとうっかり昔のクセが出てしまう。
「そう気にせずとも、我らしかおらぬ時は昔のように呼べば良い」
「そうだよ、実際妹になるんだしさ~。 あ、これを機に僕のことも『お兄ちゃん♡』って呼んでいいんだよ?」
「……分かったわ、『ラモラックお兄ちゃん』」
ナマエが極上の笑顔と声色で呼び掛けると、ラモラックはぶるりと大げさに震えてみせた。
「うわー。ごめん、やっぱりさっきのナシで」
「変なことを言う貴方が悪いのよ」
「何をやっているのだお前達は」
アグロヴァルは呆れた視線を二人に向ける。
そう言いながらも、アグロヴァルを含めた全員が和やかな空気に包まれていた。
そんなやりとりさえ懐かしさを覚える。
「ごめんごめん。でも、僕だってパーシィとナマエのこと知って嬉しかったんだから。色々あったし、これからもあると思うけど、全力で応援するからさ~」
「無論、我もだ。お前達二人ならば何も心配要らぬとは思うが、困ったことがあれば気兼ねなく言うが良い」
パーシヴァルとナマエは微笑み合う。こうして見守ってくれる人がいることは、なんて嬉しくて心強いのだろう。
「アグロヴァル兄上も、ラモラック兄上も、ありがとうございます。俺には素敵な兄上が二人もいてくださって幸せです」
「二人ともありがとう。貴方たちの大切なパーシヴァルは私が幸せにするから心配しないでね」
「む? それは俺のセリフだろう? お前は俺が必ず幸せにする」
おかしなところで張り合う二人にラモラックは両腕でバツ印を作った。
「ちょっと二人とも、こんなところでイチャイチャするのは禁止ですー!」
「もう! また変なこと言わないでよ」
「そうです、これは大切な話です」
「やっぱり二人は似てるよ~」
アグ兄助けてーとラモラックはわざとらしく長兄にひっついた。
分かっていないアグロヴァルは大真面目に、「どちらも幸せになるのだぞ」とのたまう。
「僕疲れちゃった……」
そんな時には甘い物、と言うようにラモラックはタルトを頬張る。
そういえば、会話が盛り上がるあまりせっかくのケーキがほとんど手つかずになっていた。
三人もラモラックに倣い、タルトを口に運ぶ。
甘酸っぱい味にナマエは懐かしくなる。大好きな幸せの味。
変わらぬもの。変わったもの。どちらもあるが、この先にはきっとまた幸せが広がっている。
そんな確信を胸に、ナマエは隣にいる愛しい人の横顔を再び見上げた。
子供の頃、ふわふわでとても大きいと感じていたそれは、大人になった今でも充分に大きく座り心地も抜群だった。
テーブルの上にはティーセットと真っ赤ないちごのタルトが用意されている。
ナマエの向かい側にはアグロヴァルとラモラックが並んで座っていた。
昔を思い出して、なんだか懐かしくなる。
大きく違うのは――と、隣に座るパーシヴァルをちらりと盗み見た。
久しぶりに会うからだろうか、その端正な横顔に見惚れてしまいそうになる。
こんな気持ちで彼を見上げる日がくるなんて、誰が想像できただろう。
そして、もう一つの大きい変化。
優しい笑顔を思い浮かべては、胸が痛む。いくら歳月が過ぎようと、理不尽な喪失の悲しみは襲ってくる。
しかし、そんなナマエの感傷を吹き飛ばすように、ラモラックはとんでもない発言をする。
「思い出したんだけどさ、ちっちゃい頃パーシィって『ナマエと結婚する』って言ってたよね」
「「えっ」」
ティーカップを持ったパーシヴァルとナマエの手がピタリと止まる。
驚愕に目を開きこちらを見つめてくる二人に、ラモラックは無邪気に笑った。
「わ! 同じ反応! 似たもの夫婦だね~」
「ま、まだ夫婦じゃ、」
「まだってことはいずれそうなるってことだよね~」
ナマエは否定できずに口を噤んだ。迂闊な反論はしない方が賢明かもしれない。
その横でパーシヴァルは「覚えておりません」と戸惑っていた。
「我は覚えておるぞ。あれはたしか……――」
優雅にカップを置いたアグロヴァルは、当時のことをゆったりと語り始める。
「ナマエさんに次に会えるのはいつになりますか?」
「まぁまぁ、待ってる間にナマエをビックリさせるイタズラでも考えてみようよ」
「ラモラック! だが、そうだな。日々を過ごしていればすぐにまたその日が来る」
ナマエが帰ってしまい、パーシヴァルはしょんぼりしていた。遠くに住んでいる彼女はそう頻繁に遊びにはこられない。
わがままを言ってはいけないと理解していても、寂しくなってしまう。一緒にいる時間が楽しければ楽しいほど、余計だ。
兄二人はパーシヴァルの気が晴れるようなことはないかと思考を巡らせる。
「そうだ!」
突然パーシヴァルはぱっと顔を輝かせる。
「俺、大きくなったらナマエさんと結婚します!」
「……パーシヴァルはナマエのことが好きなのか?」
「はい! あ、もちろん、アグロヴァル兄上とラモラック兄上のことも好きですよ!」
それからお母様とお父様と……と指で数えながら好きな人物の名前をあげていく。
アグロヴァルとラモラックは顔を見合わせた。
ナマエに対する気持ちはどうやら特別なものではないらしい。というより、パーシヴァルに『好き』の区別はまだないようだ。
「結婚したらずっと一緒に遊べますよね!」
せっかく元気になったのだし、今は恋愛感情や結婚について説明する必要はないだろうと二人は微笑ましくパーシヴァルを見守った。
「……そんなことが」
パーシヴァルは頭を抱えた。
聞かなければ良かったかもしれない。聞いても思い出せず、ただ無駄に羞恥心にかられることになった。
反対に、照れくさそうにしていたナマエは笑顔を浮かべていた。今とは違う感情でも、自分を好いていてくれたことが嬉しい。
「本当にパーシヴァルは可愛かったわね!」
「はは、たしかにパーシヴァルは可愛いらしいところもあるな!」
「そうだね、パーシィは可愛いところもあるよね~」
「ナマエ、お前は何を言っているんだ! 兄上達も、お戯れはおやめください!」
皆から可愛いと言われて、パーシヴァルはますます恥ずかしくなる。
だが、顔を赤くして反論する姿も可愛いと余計に三人を喜ばせるだけだった。
三人がひとしきりパーシヴァルを可愛がり落ち着いた後。
先程まで豪快に笑っていたアグロヴァルが、打って変わって真面目な顔で切り出した。
「しかし、幼きパーシヴァルの言葉が真になるとは考えもしなかったが、こうしてお前達が結ばれたことを我は嬉しく思うぞ」
二人に注がれた慈愛に満ちた瞳が、実弟のパーシヴァルだけでなくナマエも彼にとって大切な存在なのだと雄弁に語っていた。
そして、大切な二人が幸せになることを切に願っていると。
「アグロヴァル兄上にそう言っていただけると、俺も嬉しいです」
「ありがとう、アグに……あ、ごめんなさい!」
ナマエは、はっと口を手で覆う。
子供の頃にラモラックにつられてアグ兄と呼んでいた。
今はお互いの立場上控えた方が良いだろうと気を付けていたのだが、感極まるとうっかり昔のクセが出てしまう。
「そう気にせずとも、我らしかおらぬ時は昔のように呼べば良い」
「そうだよ、実際妹になるんだしさ~。 あ、これを機に僕のことも『お兄ちゃん♡』って呼んでいいんだよ?」
「……分かったわ、『ラモラックお兄ちゃん』」
ナマエが極上の笑顔と声色で呼び掛けると、ラモラックはぶるりと大げさに震えてみせた。
「うわー。ごめん、やっぱりさっきのナシで」
「変なことを言う貴方が悪いのよ」
「何をやっているのだお前達は」
アグロヴァルは呆れた視線を二人に向ける。
そう言いながらも、アグロヴァルを含めた全員が和やかな空気に包まれていた。
そんなやりとりさえ懐かしさを覚える。
「ごめんごめん。でも、僕だってパーシィとナマエのこと知って嬉しかったんだから。色々あったし、これからもあると思うけど、全力で応援するからさ~」
「無論、我もだ。お前達二人ならば何も心配要らぬとは思うが、困ったことがあれば気兼ねなく言うが良い」
パーシヴァルとナマエは微笑み合う。こうして見守ってくれる人がいることは、なんて嬉しくて心強いのだろう。
「アグロヴァル兄上も、ラモラック兄上も、ありがとうございます。俺には素敵な兄上が二人もいてくださって幸せです」
「二人ともありがとう。貴方たちの大切なパーシヴァルは私が幸せにするから心配しないでね」
「む? それは俺のセリフだろう? お前は俺が必ず幸せにする」
おかしなところで張り合う二人にラモラックは両腕でバツ印を作った。
「ちょっと二人とも、こんなところでイチャイチャするのは禁止ですー!」
「もう! また変なこと言わないでよ」
「そうです、これは大切な話です」
「やっぱり二人は似てるよ~」
アグ兄助けてーとラモラックはわざとらしく長兄にひっついた。
分かっていないアグロヴァルは大真面目に、「どちらも幸せになるのだぞ」とのたまう。
「僕疲れちゃった……」
そんな時には甘い物、と言うようにラモラックはタルトを頬張る。
そういえば、会話が盛り上がるあまりせっかくのケーキがほとんど手つかずになっていた。
三人もラモラックに倣い、タルトを口に運ぶ。
甘酸っぱい味にナマエは懐かしくなる。大好きな幸せの味。
変わらぬもの。変わったもの。どちらもあるが、この先にはきっとまた幸せが広がっている。
そんな確信を胸に、ナマエは隣にいる愛しい人の横顔を再び見上げた。
1/1ページ