黒竜騎士団時代の話
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それは幸せの象徴のようだった。
「まぁ、いらっしゃい! 遠い所からよく来てくれたわね~」
ヘルツェロイデに抱きしめてもらうと、ふんわりと良い香りがする。
いつも笑顔で優しくて。長く艶やかな赤い髪と上品なドレスは物語のお姫様のようで。大きくなったらこんな女性になりたいとひっそり憧れた。
「ナマエ、しばらく見ない間に縮んだんじゃない? もう完全にボクの方が大きいよね~」
「大差ないだろう。ラモラック、それより素直にナマエに会うのが楽しみだったと言ったらどうだ」
「ちょ、何言っちゃってるの、アグ兄!?」
「俺も! ナマエさんが来てくれて嬉しいです!」
ラモラックは同い年のせいかくだらないことで張り合っていたけれど、一番気さくに話せる相手だった。よくからかわれもしたが、笑顔を与えてくれる。
二人の弟と同じようにナマエのことも気にかけてくれたアグロヴァル。大人びていて頼りになって格好良いと子供ながらに淡い想いを抱いていた。
パーシヴァルは末っ子らしく、無邪気で可愛らしい。素直に甘えてくれるのが嬉しくて、面倒を見るのが好きだった。
仲が良い三兄弟は、一人っ子のナマエにとって羨ましかった。そんな三人の輪の中に入れてもらえることが嬉しかった。
「今日は苺のタルトを作ったの! 三人も手伝ってくれたのよ~」
甘酸っぱい幸せの味。みんな楽しそうに笑っていた。
ずっとこんな穏やかな日が続けば良い。
そう願っていたのに、幸せは長くは続かない。
泣かないでほしい。
だから、私は……――。
「ん……もう朝……?」
ナマエはゆっくりと布団から起き上がった。
ずいぶん懐かしい夢を見た気がする。内容は朧げでも、特徴的な赤毛の少年が出てきたことだけは覚えいてた。
久しぶりにパーシヴァルに会って以来、色々と昔のことを思い出す。
ぼんやりと思考を巡らせながら、寝巻を脱ぎ捨てシャツに腕を通した。
「あれから何年経つのかしら……」
彼の母親・ヘルツェロイデの死後、ウェールズを訪れることは無かった。当時の情勢では難しかったのだろうと、年を重ねるにつれ理解できるようになった。
どうしようもないと知りながら、パーシヴァルたちがどうしているのか気がかりではあった。その後ウェールズが安定してからは、月日も経過していて突然会いに行くことが憚られてしまった。
だから、パーシヴァルとの対面に戸惑いがあった。
彼が自分のことを覚えているか分からない。覚えていたとしても、急に疎遠になったことに申し訳なさがあった。今更どんな顔をして会えば良いのか。
そんな風に迷っていたが、挨拶くらいしてもおかしくはないだろうと意を決して話しかけたのだ。
2度目に会ったときは、昔の話をしてしまったが問題なかったろうか。間を持たせるためでもあったけれど、つい懐かしくなってしまった。パーシヴァルたちと過ごした日々は、ナマエにとって大切なものだったから。
でも、彼がどう考えているのか分からないのに話すべきではなかったかもしれない。
「……パーシヴァルも困惑しているようだったものね」
驚かせて悪いことをしただろうか。はじめから声を掛けない方が良かったかもしれない。
どんどん思考は悪い方向へ沈んでいく。
気持ちを切り替えるように、軽く頬を叩いた。もう過ぎてしまったことをアレコレ考えても仕方がない。
「……それにしても、パーシヴァルは本当に見違えたわね」
昔はあんなに小さくて可愛かったのに。ひよこのように兄たちについて回っていた姿を思い出して、自然と笑みが浮かんだ。
ウェールズ家の三男が入団するという事前の情報がなければ、彼だと分からなかったかもしれない。
外見だけの話ではない。新人の中でも飛び抜けた実力があり、堂々と落ち着いた立ち居振る舞い。
立派に成長した姿を知れて嬉しい反面、少し寂しくもあった。
「それに比べて私は……」
鏡に映った自分を見て溜息がこぼれる。自信がなく覇気のない顔が恥ずかしい。
騎士になる理想を掲げ、期待に胸を躍らせていた少女はどこに消えてしまったのだろう。
入団直後からめきめきと頭角を現すパーシヴァルに対し、ずっとくすぶっている自分。
「知られたく、ないな……」
自分を慕ってくれたかわいい男の子。弟のような存在が嬉しくて殊更姉ぶっていた気がする。
自分の物を積極的にわけたり、ラモラックがふざけたら諫めたり。年長者のアグロヴァルのようにうまくできていなかっただろうけど。
とうの昔のことでもそんな相手に、今の情けない姿を見られたくなかった。
「プライドだけは一人前で、どうしようもない見栄っ張り、ね」
それでも隠すのだけは上手くなった。
改めて姿見の前立ち、まっすぐに背筋を伸ばす。きちんと結いあげた髪に、身に纏った騎士団の服。それだけで、さきほどよりも随分とマシに見える。
仕上げとばかりに、ナマエはにっこりと笑顔を作った。
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