黒竜騎士団時代の話
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「あら、パーシヴァル。おはよう」
「おはようございます」
ナマエと再会して数日後の早朝。
パーシヴァルは兵舎の廊下で木箱を抱えた彼女と遭遇した。箱の中は見えないが、漂ってくる甘い香りから何が入っているか想像はつく。
その芳香はパーシヴァルにとって好ましい物のはずだが、今の状況では落ち着かない気持ちに拍車をかけるだけだった。
つい先日まで彼女が騎士団にいることすら知らなかったのに、再会した途端にすぐまた顔を合わせるのは何故なのだろうか。
パーシヴァルは気付かれない程度にナマエを観察する。
鎧を纏っていない姿はあまりにも華奢で、中庭で見た時よりもさらに小さく感じられた。
無理もないことだが、男女の体格差など幼い頃は意識することもない。彼女の方が年上だった分、むしろ自分よりもとても大きくて逞しい存在だと思っていた。
「……お持ちします」
「大丈夫よ」
居心地の悪さをごまかすように、細い腕に抱えられた木箱に手を伸ばす。パーシヴァルの想像通り、箱の中には苺がぎっしりと並んでいた。宝石のように赤く艶めいていて、一目で良い品なのだと分かる。
「実家から届いてね。食堂にお裾分けしようと思っていたところなの。良かったら、パーシヴァルも少し持ち帰らない?」
「いえ、俺は……」
「苺は嫌い? 昔は好きだったと思うのだけれど」
そんなことを覚えていなくて良いのに。現在のパーシヴァルは、好物をわざわざ公言することはなかった。
しかし、嘘をつくことも抵抗がある。彼女の悪意の無い瞳を前にしては、尚更だった。
「嫌いでは……ありません……」
「良かったわ! 私も苺は大好きなの!」
無邪気な笑顔を見せる女性に、不意に幼い少女の姿が重なる。
『パーシヴァル、いちごが好きなの? じゃあこれあげるね! 大丈夫、わたしの方がお姉さんだもん!』
「パーシヴァル?」
「申し訳ありません。なんでもありません」
「……ふふ、こうしているとなんだか昔を思い出すわ。貴方の家で、苺摘みをさせたもらったり、苺のお菓子をご馳走になったりしたものだから」
「懐かしいですね。俺も当時を思い返しました」
『わたしもいちご好き! いっしょで嬉しいな!』
そうだ、ナマエはいつも明るくパーシヴァルに笑いかけてくれた。
だんだんと、過去の光景が蘇ってくる。
最後に会ったのは母を喪った頃だった。国が混乱し自分たちの状況も変化していく中、彼女のことを考える時間も減っていき、いつしか記憶の奥底に沈んでいた。
同年代の子供との交流は貴重で、共に過ごせることが楽しかった。はしゃぐパーシヴァルを、ナマエは優しく見守ってくれていた。
懐かしそうに細められた瞳に、また昔の姿が重なる。
成長し大人びても、変わらない部分もあるのだろう。そんな当たり前のことを認識して安堵する。
ふわりと漂う苺の甘い香りに、また懐かしさを覚えるのだった。
「おはようございます」
ナマエと再会して数日後の早朝。
パーシヴァルは兵舎の廊下で木箱を抱えた彼女と遭遇した。箱の中は見えないが、漂ってくる甘い香りから何が入っているか想像はつく。
その芳香はパーシヴァルにとって好ましい物のはずだが、今の状況では落ち着かない気持ちに拍車をかけるだけだった。
つい先日まで彼女が騎士団にいることすら知らなかったのに、再会した途端にすぐまた顔を合わせるのは何故なのだろうか。
パーシヴァルは気付かれない程度にナマエを観察する。
鎧を纏っていない姿はあまりにも華奢で、中庭で見た時よりもさらに小さく感じられた。
無理もないことだが、男女の体格差など幼い頃は意識することもない。彼女の方が年上だった分、むしろ自分よりもとても大きくて逞しい存在だと思っていた。
「……お持ちします」
「大丈夫よ」
居心地の悪さをごまかすように、細い腕に抱えられた木箱に手を伸ばす。パーシヴァルの想像通り、箱の中には苺がぎっしりと並んでいた。宝石のように赤く艶めいていて、一目で良い品なのだと分かる。
「実家から届いてね。食堂にお裾分けしようと思っていたところなの。良かったら、パーシヴァルも少し持ち帰らない?」
「いえ、俺は……」
「苺は嫌い? 昔は好きだったと思うのだけれど」
そんなことを覚えていなくて良いのに。現在のパーシヴァルは、好物をわざわざ公言することはなかった。
しかし、嘘をつくことも抵抗がある。彼女の悪意の無い瞳を前にしては、尚更だった。
「嫌いでは……ありません……」
「良かったわ! 私も苺は大好きなの!」
無邪気な笑顔を見せる女性に、不意に幼い少女の姿が重なる。
『パーシヴァル、いちごが好きなの? じゃあこれあげるね! 大丈夫、わたしの方がお姉さんだもん!』
「パーシヴァル?」
「申し訳ありません。なんでもありません」
「……ふふ、こうしているとなんだか昔を思い出すわ。貴方の家で、苺摘みをさせたもらったり、苺のお菓子をご馳走になったりしたものだから」
「懐かしいですね。俺も当時を思い返しました」
『わたしもいちご好き! いっしょで嬉しいな!』
そうだ、ナマエはいつも明るくパーシヴァルに笑いかけてくれた。
だんだんと、過去の光景が蘇ってくる。
最後に会ったのは母を喪った頃だった。国が混乱し自分たちの状況も変化していく中、彼女のことを考える時間も減っていき、いつしか記憶の奥底に沈んでいた。
同年代の子供との交流は貴重で、共に過ごせることが楽しかった。はしゃぐパーシヴァルを、ナマエは優しく見守ってくれていた。
懐かしそうに細められた瞳に、また昔の姿が重なる。
成長し大人びても、変わらない部分もあるのだろう。そんな当たり前のことを認識して安堵する。
ふわりと漂う苺の甘い香りに、また懐かしさを覚えるのだった。