4.未来
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「すごいわ! アントニーのお芝居が見られるなんて! しかも最前列よ!」
「やっとチケットが手に入って良かったわね」
ロミオとジュリエットの結婚式から数週間が経ったある日。
大興奮のロザリンドに連れられて、ローズ座にやってきた。
ナマエも興味が無いわけではないが、アントニーの熱狂的ファンの彼女やサオウの戯曲を愛したロミオたちに比べれば淡泊なのだろう。
しかし、公演を見終わったナマエは涙が止まらなかった。
アントニーの、ベンヴォーリオの胸に迫る演技、そして繊細で美しい脚本。
内容は一人の女性がある男性に片想いをしているというもの。
女性の想いは叶うことはなかったが、彼女にとっても男性にとっても希望を感じさせる終わりだった。
二人の細やかな感情の動きに、ナマエは心を揺さぶられた。
報われない想いでも全てがマイナスなことばかりではない。
そう感じたら、今までの迷いが吹き飛んでいくようだった。
その夜、ナマエはパリスの執務が終わるのを見計らい、彼のもとへ出向いた。
元々よくこうして話していたため突然の来訪にパリスが驚くこともない。
だが、ナマエから告げられた言葉には、さすがの彼も目を見開いた。
「パリス、私は貴方のことが好きなの。急にごめんなさい。別に貴方の恋人になりたいわけではないから安心して。ジュリエットたちが歩き出したように、私も前に進みたいと思ったの。それには、貴方への想いに囚われ続けるのはいけないと思ったから」
長年の想いを告げることには少しの解放感と緊張感があった。
彼に口を挟まれぬようにと早口になってしまう。
好きということをただ伝えたいだけ。そうすれば変われる気がするから。
大丈夫、それ以上は何も望んでいない。
貴方を困らせるつもりはないから。黙って聞いてくれればそれだけで良いから。
と一気に吐き出した気持ちと共に、じんわりと瞼に熱いものが滲んでくる。
以前にもパリスの前で泣いてしまったのに、また泣くわけにはいかないと必死で堪えた。
「ナマエ……」
パリスは開きかけた口を一旦閉じる。なんと言葉をかけようか迷っていた。
こんなことを告げて良いものか。
だが、彼女の想いに正直に応えるべきだろう。嘘偽りのない気持ちを伝えることががナマエへ返せる精一杯のもの。
「……私は君のことがずっと気になっている。この感情が好きなのかは分からない。それでも、私の心には君がいた。君の悲しそうな顔を見たとき、もっと君を知りたいと思った。もっと頼ってほしいと思った。ジュリエットに求婚しておきながら、不誠実な男だろう?」
「そんなこと、ないわ……」
予想もしなかった返答にナマエは動揺した。
もちろん彼を不誠実だなんて思わない。ロミオとジュリエットのことを誰よりも案じ、支えてきたのはパリスだ。
しかし、そんな彼の心に自分がいた?
「それでも、君が良いなら……一緒に踏み出してみたい。新しい一歩を」
「っ……良いに決まっているじゃない……っ」
結局ナマエの目からは涙が零れた。
好きと言われたわけではない。
もしかしたら、やっぱり違うと断られてしまうかもしれない。
それでも、ずっと秘めてきた想いをこうして受け止めてもらえただけで、胸が満たされる。
パリスはナマエの頬に流れる涙を優しく拭った。
気恥ずかしそうに見つめ合う二人を星の光がそっと照らす。
それはまるで、歩み出した二人の未来を祝福するかのようだった。
1/1ページ