2.吐露
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夜も更ける頃、ナマエは自室のベッドに横たわってぼんやりとしていた。
ロミオが生きていた――明かされた真実はあまりに衝撃的で、眠れそうにない。
ただ生きていてくれただけで嬉しい。
反面、辛くもあった。これからもロミオはその存在を悟られることなく過ごさなければならない。
彼が堂々と生きていけたら良かったのに。なんの障害もなくジュリエットと結ばれることが出来たなら。
それが叶わない中、ジュリエットはどうすれば良いのだろう。パリスのことはどうするのだろう。
「パリス……パリスは、このことを知っていたのよね……」
彼がそんな秘密を抱えていたなんて、思いもよらなかった。
どんな気持ちでいたのだろう。
誰にも相談できず、ロミオの恋人であるジュリエットにさえ真実を打ち明けられず、ずっと嘘を吐き続けた。
どれだけ苦しかったのだろう。
だが彼はそんなことはおくびにも出さず、ジュリエットを補佐し国をまとめ続けた。
「パリス……」
自分がパリスの心を慰められたら良いのに。なんて馬鹿げた考えだ。
その通りだというように、先ほど向かった彼の部屋にはすでにロザリンドがいた。
ロザリンドなら、きっとパリスの気持ちを汲み良い言葉をかけてくれるだろう。
邪な気持ちを抱く自分よりよっぽど適任だ。
「ジュリエット……どうしてこんなことになってしまったのかしらね……」
パリスの部屋より先にジュリエットの部屋も訪ねてみたが、やはり『ひとりにしてほしい』と言われてしまった。
誰にも傷ついてほしくない。皆に幸せになってほしいのに。
現実はそう簡単ではない。
暗くなる思考から逃げるように、ぎゅっと瞳を閉じた。
翌日、結局あまり眠れなかったナマエは早朝にベッドから抜け出した。
姿見に映った自分に苦笑する。寝不足で目に隈が出来ているし肌もくすんでいた。こんな姿は誰にも見せられない。
「私が元気を無くしてどうするのよ!」
軽く頬を叩いて活を入れる。
見た目は化粧で誤魔化すとして、あとは心の問題だ。
気晴らしに中庭でも散歩しよう。そう思ったのは良かったのだが。
「あら、おはよう。パリス」
「おはよう、ナマエ。随分と早いな」
「貴方も人のことは言えないでしょう?」
よりにもよって彼と顔を合わせてしまうとは。間が悪いにもほどがある。
「……ロミオのこと、すまなかった」
「私に謝ることはないわ。それよりも、貴方は……」
言いかけてぽろりと涙がこぼれた。
パリスだけでなくナマエ自身も動揺する。
「大丈夫か!?」
「いえ、ごめんなさい。なんでもないのに、勝手に……」
すぐに止まるかと思った涙はそのままぽろぽろと流れ続けた。
どうしてと必死に拭うのにおさまってくれず、ますますナマエは動揺する。
「擦るのは良くない。……すまない。よほど昨日のショックが大きかったんだろう」
「……っ昨日のことはそうだけど……私は、貴方が……貴方の気持ちを考えると、悲しくて……っ」
ハンカチを差し出したパリスが目を見開く。
こんなことを言うつもりはなかったのに、涙腺と一緒に言語機能までおかしくなってしまったようだ。
「だって、貴方は、ずっと辛い秘密を……抱え、て……どれだけ、苦しかったのか……私、なにも知らずに……」
「だが、それは私が自分で選んだことだ。あの時、ロミオを生かすと決めたのは私――その責任がある」
「……パリス……」
ロミオのことを誰にも伝えられぬ日々が苦しくなかったといえば嘘になる。
彼の死を悼む者たちに何も言えないもどかしさ。皆を騙す罪の意識に苛まれた。
それでも、自分自身の選択に後悔はしたくなかった。この苦悩が行動の結果なら甘んじて受け入れる。
なにより、ロミオとジュリエットの痛みを思えば、弱音など吐けるわけも無い。
自分にはそんな権利はないと思っていたのに。
こうして自分のために涙を流すナマエに、どこか心が安らいでいく気がする。
心の内を知らないと思っていた彼女が、こうも自分のために感情を吐き出していることにも、不思議な高揚感があった。
「ナマエ、ありがとう……。こんなことを言うのは憚られるが、私のために泣く君に、私は救われているのかもしれない」
「そんなこと……」
「君は、優しいな」
「優しいのは貴方よ、パリス……。私は貴方のそんなところが……」
ナマエの軽くなりすぎた口もさすがにそこで止まった。その先は絶対に言ってはいけない。
「……私は、貴方のそんなところが心配だわ。いつも無理をしていないかって」
「それは君の方ではないか?」
「お生憎様。私は貴方よりもずっと息抜きさせてもらってるの。こっそり街に遊びに行ったりね」
「……ほどほどにな」
悪戯っぽく笑うナマエの瞳に、もう涙は浮かんでいなかった。
すっかりいつもの調子を取り戻した彼女に、パリスはなんと声を掛ければ良いか分からない。
「ふふ、分かってるわ。……さて、こんな顔ジュリエットたちに見られたら大変だわ。早く戻って顔を洗ってこなくちゃ。さっきは急にごめんなさいね」
「いや、私の方こそすまなかった。……くれぐれも無理はするなよ」
「ありがとう。大丈夫よ」
ナマエを引き留めることもできずに見送ってしまい、パリスはため息を吐く。
涙を見せたかと思ったら、すぐにけろりとして。もっと弱い姿を見せたって許されるのではないか。
だが、今のパリスはそれをナマエに伝える術を持っていなかった。
そんな自分が不甲斐ないような腹立たしいような、抱いたことのない感情にパリスは戸惑いを覚えていた。