1.秘密
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「ジュリエット様に結婚を申し込もうと考えている」
パリスの言葉は予想済みで、ナマエが驚くことはなかった。
ただ、いつも一人で決断する彼にしては珍しい。それだけ葛藤もあるのだろうか。
ロミオとジュリエットが愛し合う姿を、パリスとナマエは誰より間近で見ていた。
ジュリエットはロミオが亡くなりニ年経った今でも彼を想い続けているし、ロミオはパリスにとっても大切な存在である。
「とても良いことだと思うわ。ロミオがいない今、ジュリエットを任せられるのは貴方しかいないもの。貴方なら絶対にジュリエットを幸せにしてくれる。街の人たちもそれを望んでいるわ」
自分の役目はパリスの背中を押すことだろうと、あらかじめ考えていた言葉を淀みなく伝える。
もちろん、それはナマエの本心でもあった。
「だが、ジュリエット様はロミオのことを今でも愛している。ずっと、あの方の時間は止まったまま」
「それほど想っている相手を忘れるのは簡単じゃないものね……忘れたくても忘れられない。動き出したくても動けないまま……」
悲しげに目を伏せるナマエは、普段からは想像できないほどあまりにか弱く頼りなく感じられた。
妹のようなジュリエットを心配しているのだろうが、まるで彼女自身がその苦しみを抱えているかのようで。
ナマエにもそんな相手がいるのだろうか?
しかし、そんな質問をして良いものか。
パリスが逡巡していると、彼女は顔をあげておどけた表情を見せる。
「なんて、私には分からないけれどね。あの子を見ていたらそう思っただけ」
「……本当にそうなのか?」
「当たり前じゃない。パリスってば、おかしなことを言うのね。働きすぎて疲れてるのかしら?」
思わず口をついて出た言葉にもナマエはあっけらかんとしている。
それでも何故か気に掛かり、さらに訊ねたい気持ちはあった。
だが、パリスにはできなかった。彼こそが、誰にも言えない秘密を抱えていたからだ。
己が彼女を無理に暴く権利などないのだと、パリスは自分に言い聞かせる。
国のこと、ジュリエットのこと――よく話す仲であっても、ナマエの心の内をほとんど知らないのだと、今更になって気付いた。
「でも、本当に……貴方ならジュリエットを幸せにしてくれると思っているわ。ジュリエットだって、貴方に求婚されたらなにか変わるかもしれない。すぐには無理かもしれないけれど、きっかけのひとつになるかもしれない」
「そうなることを願うばかりだ。いつも真っ直ぐなジュエリット様は美しい。私は、あの方の抱える苦悩や重圧を一緒に背負いたい」
パリスは頭を切り替える。今考えるべきは、ナマエのことではなくジュリエットのことだ。
そんな彼は、一瞬身を固くするナマエに気付かない。
その間に、彼女はふわりと笑顔を作った。
「真っ直ぐなところが、あの子の魅力だものね。パリスのその気持ちが伝われば、きっと大丈夫よ」
本当は、パリスの考えは当たっていた。
その先は彼の想像の及ばないもので、ナマエはパリスを愛している。
ジュリエットとロミオが出会い惹かれ合うのと同じ頃、ナマエもまたパリスに惹かれていた。
しかし、パリスはナマエのことを見ておらず、彼女は想いを秘め続けると決めた。
ロミオが死んでしまった今では尚更だ。
ナマエの気持ちを知ったら、気持ちに応えられないことをパリスは苦しむかもしれない。
ジュリエットは、パリスとの結婚を躊躇ってしまうだろう。
ロザリンドもベンヴォーリオも、気付かなかったと嘆くかもしれない。
ナマエの大切な人たちは皆優しかった。優しくて、他人のことに心を痛めてしまう人たち。
自分さえ想いを明かさなければ、彼らを傷つけることはないのだ。
ジュリエットとパリスが結ばれるのは素晴らしいことだと、本当にそう思う。
ジュリエットの心の傷が癒えますように。
パリスが大切な人を支えられますように。
心からそう願った。
痛む気持ちはひた隠しにして。
パリスの言葉は予想済みで、ナマエが驚くことはなかった。
ただ、いつも一人で決断する彼にしては珍しい。それだけ葛藤もあるのだろうか。
ロミオとジュリエットが愛し合う姿を、パリスとナマエは誰より間近で見ていた。
ジュリエットはロミオが亡くなりニ年経った今でも彼を想い続けているし、ロミオはパリスにとっても大切な存在である。
「とても良いことだと思うわ。ロミオがいない今、ジュリエットを任せられるのは貴方しかいないもの。貴方なら絶対にジュリエットを幸せにしてくれる。街の人たちもそれを望んでいるわ」
自分の役目はパリスの背中を押すことだろうと、あらかじめ考えていた言葉を淀みなく伝える。
もちろん、それはナマエの本心でもあった。
「だが、ジュリエット様はロミオのことを今でも愛している。ずっと、あの方の時間は止まったまま」
「それほど想っている相手を忘れるのは簡単じゃないものね……忘れたくても忘れられない。動き出したくても動けないまま……」
悲しげに目を伏せるナマエは、普段からは想像できないほどあまりにか弱く頼りなく感じられた。
妹のようなジュリエットを心配しているのだろうが、まるで彼女自身がその苦しみを抱えているかのようで。
ナマエにもそんな相手がいるのだろうか?
しかし、そんな質問をして良いものか。
パリスが逡巡していると、彼女は顔をあげておどけた表情を見せる。
「なんて、私には分からないけれどね。あの子を見ていたらそう思っただけ」
「……本当にそうなのか?」
「当たり前じゃない。パリスってば、おかしなことを言うのね。働きすぎて疲れてるのかしら?」
思わず口をついて出た言葉にもナマエはあっけらかんとしている。
それでも何故か気に掛かり、さらに訊ねたい気持ちはあった。
だが、パリスにはできなかった。彼こそが、誰にも言えない秘密を抱えていたからだ。
己が彼女を無理に暴く権利などないのだと、パリスは自分に言い聞かせる。
国のこと、ジュリエットのこと――よく話す仲であっても、ナマエの心の内をほとんど知らないのだと、今更になって気付いた。
「でも、本当に……貴方ならジュリエットを幸せにしてくれると思っているわ。ジュリエットだって、貴方に求婚されたらなにか変わるかもしれない。すぐには無理かもしれないけれど、きっかけのひとつになるかもしれない」
「そうなることを願うばかりだ。いつも真っ直ぐなジュエリット様は美しい。私は、あの方の抱える苦悩や重圧を一緒に背負いたい」
パリスは頭を切り替える。今考えるべきは、ナマエのことではなくジュリエットのことだ。
そんな彼は、一瞬身を固くするナマエに気付かない。
その間に、彼女はふわりと笑顔を作った。
「真っ直ぐなところが、あの子の魅力だものね。パリスのその気持ちが伝われば、きっと大丈夫よ」
本当は、パリスの考えは当たっていた。
その先は彼の想像の及ばないもので、ナマエはパリスを愛している。
ジュリエットとロミオが出会い惹かれ合うのと同じ頃、ナマエもまたパリスに惹かれていた。
しかし、パリスはナマエのことを見ておらず、彼女は想いを秘め続けると決めた。
ロミオが死んでしまった今では尚更だ。
ナマエの気持ちを知ったら、気持ちに応えられないことをパリスは苦しむかもしれない。
ジュリエットは、パリスとの結婚を躊躇ってしまうだろう。
ロザリンドもベンヴォーリオも、気付かなかったと嘆くかもしれない。
ナマエの大切な人たちは皆優しかった。優しくて、他人のことに心を痛めてしまう人たち。
自分さえ想いを明かさなければ、彼らを傷つけることはないのだ。
ジュリエットとパリスが結ばれるのは素晴らしいことだと、本当にそう思う。
ジュリエットの心の傷が癒えますように。
パリスが大切な人を支えられますように。
心からそう願った。
痛む気持ちはひた隠しにして。
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