1.ヒツジの仲間
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「ほら、こんなものなんですよ」
そっと言い聞かせるように、優しく。
「君の言っていたものなんて、君の信じていてものなんて、最初から、そう、最初から何も無かったんですよ。全ては、幻想です」
愛の言葉を紡ぐように、甘く。
少年は見下ろした少女に囁いた。
「……」
蹲る少女の瞳は何を映しているのだろうか?
憤怒か、悲哀か、絶望か。
少年は屈んで、愉しそうに少女の顔を覗き込む。
少女の左頬は、紫に変色し腫れ上がっていた。
顔のあちこちには赤黒い血がこびり付いている。
そこに滑らかな線を描くように見えるのは、涙の跡だろう。
再び泣き出しそうなくらい、その瞳は潤んでるのに――。
少年は不快そうに顔を歪めた。
「……あなたは本当に、樺根君なの……?それとも、日辻君と同じように……変わってしまったの……?」
「僕は何も変わっていませんよ。僕は――そうですねぇ。その話をするのはもう少し後にしましょう。もう少しでフィナーレですから……――」
声を震わせる少女は、見れば見るほど酷い顔だった。
それは日辻真人による暴力の証。
樺根が少女――ミョウジナマエに出会ったのは、ある日の放課後だった。
薄い光が差し込む廊下に、数人の女子生徒が集まっていた。
「バッカじゃないのぉ? そんなにゴミが好きなら、ほら! ゴミと一体化しちゃいなさいよ!」
床に這いつくばった一人の少女の上に、袋に入ったゴミをぶち撒ける。
それは先程まで少女が掃除していたものだった。
自らが集めたゴミを頭から被る少女。
「キャハハハ!お似合いねぇ、ゴミ女!」
「やっだー!くっさーい!」
「ばい菌が移るから近寄らないでよねぇ!」
ドッと沸き起こる甲高い笑い声が廊下に反響する。
ゴミだらけの少女はすっと立ち上がった。
「……私の行動がおかしいと思うのは構わない。だけど、だからってこんな事をするのは止めて」
彼女の落ち着いた声はあまり響かずに廊下に消えていく。
だが、どこか凛とした重があった。
「なっ、なに言ってんのよ! 何であんたに命令されなきゃいけないのよ!」
「別に、命令じゃ」
「うっさいわね! 私達、あんたに構ってる暇なんて無いから!」
吐き捨てて、少女達はバタバタと駆けていった。
「大丈夫ですか……?」
樺根はおずおずと声を掛けた。
目を瞬かせる少女。そう、彼女がミョウジナマエだった。
自身についたゴミをパンパンと払い落としながら「大丈夫だよ」と返事をする。
樺根はポケットからハンカチを取り出した。
「あ、あの……コレ。良かったら使って下さい」
ナマエはまたきょとんとし、それからにっこりと微笑んだ。
ポケットから白いハンカチを取り出して樺根に示す。
「ありがとう。でも、いいよ、自分で持ってるから」
「それにしても……酷い事をするんですね――」
「……」
「僕、実は見てたんです……」
ナマエは、じっと無表情で樺根を見つめいていた。
それを『どうしてただ眺めていた』という非難の意だと思った樺根は、俯いて謝罪する。
「すみません、何も出来なくて……」
「あっ、ううん、ごめんね。そういう意味じゃないよ。ただ、恥ずかしいところを見られちゃったなって思って……」
困った顔で笑うナマエに、慌てて首を振った。
「いえ、全然恥ずかしくなんて無いです! ……なんというか、格好良かったです……」
「……ありがとう」
今度は照れたように笑う彼女の顔は、夕焼けを浴びて輝いていた。
それから、すぐ後の事だった。
日辻にナマエを紹介され、お互いに驚いたのは。
黒曜中の環境を改善しようという数少ない人達だ。
二人に繋がりがあるのは、当たり前の事だったかもしれない。
「宜しくね、樺根君。仲間が増えて嬉しいな」
それからは三人で、校舎に描かれたラクガキを消したり、無残に散らかったゴミを拾い集めたり、割れた窓の補修をしたり――地道な作業を繰り返した。
そっと言い聞かせるように、優しく。
「君の言っていたものなんて、君の信じていてものなんて、最初から、そう、最初から何も無かったんですよ。全ては、幻想です」
愛の言葉を紡ぐように、甘く。
少年は見下ろした少女に囁いた。
「……」
蹲る少女の瞳は何を映しているのだろうか?
憤怒か、悲哀か、絶望か。
少年は屈んで、愉しそうに少女の顔を覗き込む。
少女の左頬は、紫に変色し腫れ上がっていた。
顔のあちこちには赤黒い血がこびり付いている。
そこに滑らかな線を描くように見えるのは、涙の跡だろう。
再び泣き出しそうなくらい、その瞳は潤んでるのに――。
少年は不快そうに顔を歪めた。
「……あなたは本当に、樺根君なの……?それとも、日辻君と同じように……変わってしまったの……?」
「僕は何も変わっていませんよ。僕は――そうですねぇ。その話をするのはもう少し後にしましょう。もう少しでフィナーレですから……――」
声を震わせる少女は、見れば見るほど酷い顔だった。
それは日辻真人による暴力の証。
樺根が少女――ミョウジナマエに出会ったのは、ある日の放課後だった。
薄い光が差し込む廊下に、数人の女子生徒が集まっていた。
「バッカじゃないのぉ? そんなにゴミが好きなら、ほら! ゴミと一体化しちゃいなさいよ!」
床に這いつくばった一人の少女の上に、袋に入ったゴミをぶち撒ける。
それは先程まで少女が掃除していたものだった。
自らが集めたゴミを頭から被る少女。
「キャハハハ!お似合いねぇ、ゴミ女!」
「やっだー!くっさーい!」
「ばい菌が移るから近寄らないでよねぇ!」
ドッと沸き起こる甲高い笑い声が廊下に反響する。
ゴミだらけの少女はすっと立ち上がった。
「……私の行動がおかしいと思うのは構わない。だけど、だからってこんな事をするのは止めて」
彼女の落ち着いた声はあまり響かずに廊下に消えていく。
だが、どこか凛とした重があった。
「なっ、なに言ってんのよ! 何であんたに命令されなきゃいけないのよ!」
「別に、命令じゃ」
「うっさいわね! 私達、あんたに構ってる暇なんて無いから!」
吐き捨てて、少女達はバタバタと駆けていった。
「大丈夫ですか……?」
樺根はおずおずと声を掛けた。
目を瞬かせる少女。そう、彼女がミョウジナマエだった。
自身についたゴミをパンパンと払い落としながら「大丈夫だよ」と返事をする。
樺根はポケットからハンカチを取り出した。
「あ、あの……コレ。良かったら使って下さい」
ナマエはまたきょとんとし、それからにっこりと微笑んだ。
ポケットから白いハンカチを取り出して樺根に示す。
「ありがとう。でも、いいよ、自分で持ってるから」
「それにしても……酷い事をするんですね――」
「……」
「僕、実は見てたんです……」
ナマエは、じっと無表情で樺根を見つめいていた。
それを『どうしてただ眺めていた』という非難の意だと思った樺根は、俯いて謝罪する。
「すみません、何も出来なくて……」
「あっ、ううん、ごめんね。そういう意味じゃないよ。ただ、恥ずかしいところを見られちゃったなって思って……」
困った顔で笑うナマエに、慌てて首を振った。
「いえ、全然恥ずかしくなんて無いです! ……なんというか、格好良かったです……」
「……ありがとう」
今度は照れたように笑う彼女の顔は、夕焼けを浴びて輝いていた。
それから、すぐ後の事だった。
日辻にナマエを紹介され、お互いに驚いたのは。
黒曜中の環境を改善しようという数少ない人達だ。
二人に繋がりがあるのは、当たり前の事だったかもしれない。
「宜しくね、樺根君。仲間が増えて嬉しいな」
それからは三人で、校舎に描かれたラクガキを消したり、無残に散らかったゴミを拾い集めたり、割れた窓の補修をしたり――地道な作業を繰り返した。
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