重なる旋律
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
アグロヴァルに会うため、パーシヴァルとナマエはウェールズ城を訪れていた。
パーシヴァルにとっては慣れ親しんだ生家だが、ナマエは数えるほどしか来たことがなく、目に映るもの全てが新鮮だった。
通された大広間は、さまざまな装飾が施されまさに豪華絢爛。
その中に置かれた一台のピアノが彼女の目を引いた。
大きなピアノは顔が映るほどピカピカに磨き上げられていて、よく手入れされていることがわかる。
「懐かしいな。幼い頃は母上とアグロヴァル兄上が連弾されているのをラモラック兄上と俺が隣で聴いたものだ」
「それは素敵ですね!」
家族のことを話すパーシヴァルの穏やかで幸せそうな表情がナマエは好きだった。
彼の様子から、とても仲睦まじい家族だったことが覗える。
「そういえば、もう随分長いこと聴いていないな」
ヘルツェロイデの死後、アグロヴァルがピアノに触れているのを見たことがないし、パーシヴァルは留学に出て以来あまりウェールズに帰ることもなかった。
幽世の一件からは、兄に頼りすぎていたことを反省して立ち寄る機会を多くしているが。
途端に、ぽつんと置かれたピアノとそれを撫でるパーシヴァルがナマエの目には寂しげに映った。
「そうだ、ナマエ。ピアノは演奏できたな? 良かったら少し弾いてみないか」
「そんな大切なピアノを触って良いのですか? アグロヴァル様にも確認した方が」
「無論、許可する。そもそも、我への確認は不要だがな」
そこへ、ひょっこりと顔を覗かせたのはアグロヴァル本人だった。
突然すぎて驚く二人をよそに、良いタイミングだったなと鷹揚に笑っている。
「家の者以外も調律師などが触れておるし、気にする必要は無い。なにより、ピアノも使われた方が喜ぶだろう」
ずっと手入れはさせていたが、ただそれだけだ。置かれているだけで誰かに演奏されることはなかった。
父の遺志を受け継ぐことに必死だったアグロヴァルには、音楽家を招くような精神的余裕はなかった。母との思い出のピアノに浸ることも。
それを察したパーシヴァルは、なおのことナマエに弾いてもらわねばと意志を固める。
逆にどんどんハードルが上がっていきナマエは恐縮してしまう。
大切なピアノが放置されたままなのは忍びない。しかし、騎空団に入ってからはピアノに触る機会もなかった自分が弾いて良いものかという気持ちもあった。
「ふむ……お前ひとりでは不安ならば俺も共に演奏するか。少しだけ待っていろ」
そうしてパーシヴァルはどこかへ消えてしまう。
ナマエは困惑するが、アグロヴァルは何やら納得している。
「あやつのアレを聴くのも久しぶりだな」
「アレとは何ですか?」
「愚弟が戻るまでのお楽しみというやつだ」
演奏、聴く、ということは楽器だろうか。楽器といっても多種多様だ。
ナマエが推理をしている間に、パーシヴァルは戻ってきた。その手にはヴァイオリンを持っている。
「パーシヴァル様、ヴァイオリンが弾けるんですね!」
「少しかじった程度だ。ところで、ナマエは何か弾きたい曲や得意な曲はあるか」
二人でセッションすることはパーシヴァルの中ではもう決定事項らしい。
そのために楽器を取りに行ったのだし、アグロヴァルも期待に満ちた目をしている。
ここまできて断る気も起きず、ナマエも腹を括った。後でじっくりヴァイオリンのソロ演奏も聴いてみたいと考えながら。
「『キミとボクのミライ』です」
「分かった」
それはナマエがピアノの練習に苦戦した際に、馴染みのあるものならと家族が提案してくれた伝説のアイドルの曲だった。
つい口にしてから、パーシヴァルならもっとクラシック音楽の方が良いのではと後悔する。しかし、予想に反して彼はすんなりと頷いた。
軽く音出しをしてから演奏をはじめる。
軽やかに弾むようなピアノとそれを支えるような落ち着いたヴァイオリン、二つの旋律が重なっていく。
ナマエもパーシヴァルもずっと練習していたわけではなく、合わせるのも初めてのこと。
一流の演奏を聞き慣れたアグロヴァルからすれば拙いものだろう。それでも、彼は満足げに聞き入っていた。
音を合わせる楽しさに、ナマエとパーシヴァルも頷き合って笑う。
もしかしたら、こんな感じだったのだろうか。ナマエは、パーシヴァルから聴いた話を思い出す。
連弾する母と兄と、傍らで聴いている弟たち。幸せな家族の光景に想いを馳せる。
窓から差し込む光のぬくもり。大事に手入れされた鍵盤の感触。大切な人たちの笑顔。
明るい音色と共に、あたたかな想いが重なっていくのだった。
*****
おまけ
「とっさに『キミとボクのミライ』と言ってしまったんですが、まさかパーシヴァル様が弾けるとは思ってませんでした!」
「……ああ、昔騎士団にいた頃少しな」
パーシヴァルは当時のことを思い返す。
「パーシヴァル、ヴァイオリンが弾けるんだって? 宴会の余興に演奏してくれよ!」
「何故俺がそんなことを」
「減るもんじゃないし別に良いだろ。俺たちは娯楽に飢えてるんだよ」
「断る」
ランスロットたちに偶然ヴァイオリンのことを知られ、弾いてくれと頼まれた。
パーシヴァルは断ったのだが、なんだかんだで親しい者からの押しに弱いのは昔かららしい。
気付けば、演奏することになっていた。
そして、曲のリクエストまでされ、真面目な彼は人に聞かせられるレベルまで練習したのだった。
「騎士団のお仕事の合間に練習じゃ、大変だったじゃないですか?」
「人に聞かせるのに半端な演奏はしたくなかったからな。それに、逆に良い息抜きになっていた気がする」
「ふふ、その方たちに感謝しないといけませんね。一緒に演奏できて楽しかったですから!」
「たしかに悪くなかった。ウェールズに立ち寄る機会があれば、兄上にまた聴いていただくのも良いかもしれん」
パーシヴァルにとっては慣れ親しんだ生家だが、ナマエは数えるほどしか来たことがなく、目に映るもの全てが新鮮だった。
通された大広間は、さまざまな装飾が施されまさに豪華絢爛。
その中に置かれた一台のピアノが彼女の目を引いた。
大きなピアノは顔が映るほどピカピカに磨き上げられていて、よく手入れされていることがわかる。
「懐かしいな。幼い頃は母上とアグロヴァル兄上が連弾されているのをラモラック兄上と俺が隣で聴いたものだ」
「それは素敵ですね!」
家族のことを話すパーシヴァルの穏やかで幸せそうな表情がナマエは好きだった。
彼の様子から、とても仲睦まじい家族だったことが覗える。
「そういえば、もう随分長いこと聴いていないな」
ヘルツェロイデの死後、アグロヴァルがピアノに触れているのを見たことがないし、パーシヴァルは留学に出て以来あまりウェールズに帰ることもなかった。
幽世の一件からは、兄に頼りすぎていたことを反省して立ち寄る機会を多くしているが。
途端に、ぽつんと置かれたピアノとそれを撫でるパーシヴァルがナマエの目には寂しげに映った。
「そうだ、ナマエ。ピアノは演奏できたな? 良かったら少し弾いてみないか」
「そんな大切なピアノを触って良いのですか? アグロヴァル様にも確認した方が」
「無論、許可する。そもそも、我への確認は不要だがな」
そこへ、ひょっこりと顔を覗かせたのはアグロヴァル本人だった。
突然すぎて驚く二人をよそに、良いタイミングだったなと鷹揚に笑っている。
「家の者以外も調律師などが触れておるし、気にする必要は無い。なにより、ピアノも使われた方が喜ぶだろう」
ずっと手入れはさせていたが、ただそれだけだ。置かれているだけで誰かに演奏されることはなかった。
父の遺志を受け継ぐことに必死だったアグロヴァルには、音楽家を招くような精神的余裕はなかった。母との思い出のピアノに浸ることも。
それを察したパーシヴァルは、なおのことナマエに弾いてもらわねばと意志を固める。
逆にどんどんハードルが上がっていきナマエは恐縮してしまう。
大切なピアノが放置されたままなのは忍びない。しかし、騎空団に入ってからはピアノに触る機会もなかった自分が弾いて良いものかという気持ちもあった。
「ふむ……お前ひとりでは不安ならば俺も共に演奏するか。少しだけ待っていろ」
そうしてパーシヴァルはどこかへ消えてしまう。
ナマエは困惑するが、アグロヴァルは何やら納得している。
「あやつのアレを聴くのも久しぶりだな」
「アレとは何ですか?」
「愚弟が戻るまでのお楽しみというやつだ」
演奏、聴く、ということは楽器だろうか。楽器といっても多種多様だ。
ナマエが推理をしている間に、パーシヴァルは戻ってきた。その手にはヴァイオリンを持っている。
「パーシヴァル様、ヴァイオリンが弾けるんですね!」
「少しかじった程度だ。ところで、ナマエは何か弾きたい曲や得意な曲はあるか」
二人でセッションすることはパーシヴァルの中ではもう決定事項らしい。
そのために楽器を取りに行ったのだし、アグロヴァルも期待に満ちた目をしている。
ここまできて断る気も起きず、ナマエも腹を括った。後でじっくりヴァイオリンのソロ演奏も聴いてみたいと考えながら。
「『キミとボクのミライ』です」
「分かった」
それはナマエがピアノの練習に苦戦した際に、馴染みのあるものならと家族が提案してくれた伝説のアイドルの曲だった。
つい口にしてから、パーシヴァルならもっとクラシック音楽の方が良いのではと後悔する。しかし、予想に反して彼はすんなりと頷いた。
軽く音出しをしてから演奏をはじめる。
軽やかに弾むようなピアノとそれを支えるような落ち着いたヴァイオリン、二つの旋律が重なっていく。
ナマエもパーシヴァルもずっと練習していたわけではなく、合わせるのも初めてのこと。
一流の演奏を聞き慣れたアグロヴァルからすれば拙いものだろう。それでも、彼は満足げに聞き入っていた。
音を合わせる楽しさに、ナマエとパーシヴァルも頷き合って笑う。
もしかしたら、こんな感じだったのだろうか。ナマエは、パーシヴァルから聴いた話を思い出す。
連弾する母と兄と、傍らで聴いている弟たち。幸せな家族の光景に想いを馳せる。
窓から差し込む光のぬくもり。大事に手入れされた鍵盤の感触。大切な人たちの笑顔。
明るい音色と共に、あたたかな想いが重なっていくのだった。
*****
おまけ
「とっさに『キミとボクのミライ』と言ってしまったんですが、まさかパーシヴァル様が弾けるとは思ってませんでした!」
「……ああ、昔騎士団にいた頃少しな」
パーシヴァルは当時のことを思い返す。
「パーシヴァル、ヴァイオリンが弾けるんだって? 宴会の余興に演奏してくれよ!」
「何故俺がそんなことを」
「減るもんじゃないし別に良いだろ。俺たちは娯楽に飢えてるんだよ」
「断る」
ランスロットたちに偶然ヴァイオリンのことを知られ、弾いてくれと頼まれた。
パーシヴァルは断ったのだが、なんだかんだで親しい者からの押しに弱いのは昔かららしい。
気付けば、演奏することになっていた。
そして、曲のリクエストまでされ、真面目な彼は人に聞かせられるレベルまで練習したのだった。
「騎士団のお仕事の合間に練習じゃ、大変だったじゃないですか?」
「人に聞かせるのに半端な演奏はしたくなかったからな。それに、逆に良い息抜きになっていた気がする」
「ふふ、その方たちに感謝しないといけませんね。一緒に演奏できて楽しかったですから!」
「たしかに悪くなかった。ウェールズに立ち寄る機会があれば、兄上にまた聴いていただくのも良いかもしれん」
1/1ページ