そのひと時が
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覇空戦争の戦場跡地では、風の星晶獣が覚醒期に入っていた。
彼らの討伐戦には多くの騎空団が参加しており、グランの率いる団もそのひとつだった。
激しい戦いは連日連夜繰り広げられたが、ようやく終了する。
「みんな、ありがとう!お疲れ様!しばらくゆっくり休んで!」
かなりの戦果をあげられ疲労以上に満足げなグランの言葉で、一同は思い思いの休暇をすごすことになる。
*****
「お疲れ様です」
ナマエの恋人であるパーシヴァルも討伐メンバーの一人だった。
パーシヴァルを労わるために、ナマエはとっておきの紅茶を淹れる。
この間立ち寄った島で見つけたイチゴのフレーバーティー。きっと気に入ってくれるだろう。
「良い香りだな」
果実の甘い香りが鼻孔をくすぐる。
白い陶磁器に注がれた赤色は見た目にも美しい。
口に含めば、じんわりと優しい味が広がった。
あたたかさが疲れた体に染みわたる。
「……美味い」
「良かったです! あと、クッキーも良かったらどうぞ! そんなに甘くないのでパーシヴァル様でも食べられると思います!」
パーシヴァルは素直にクッキーにも手を伸ばした。
「こちらも美味いな」という感想にほっとする。気に入るだろうとは思っていても、実際そうだという保証はない。
彼の反応に満足して、ナマエも紅茶とクッキーを味わった。
「何枚でも食べられちゃいますけど、夕飯のためにセーブしないとですね。今日は皆さんの慰労会にして、ご馳走を作るってローアインさんたちが言ってましたから」
「ほう……。それは楽しみだな」
久しぶりのゆったりとした時間にパーシヴァルの心は穏やかだった。
ナマエの舌は肥えていて、選ぶものに間違いはなかった。
なによりこうして自分のために準備をする姿がいじらしい。
彼女の笑顔に、戦い続きで昂った気持ちが落ち着きをとり戻していく。
だが、連戦の疲労はすぐに癒えるものではない。
簡単に疲れた姿を見せるパーシヴァルではないが、ナマエはなんとなく感じ取っていた。
彼を癒したい。もっと自分に何かできないだろうか。そう考えた彼女に、名案が浮かんだ。
コレだ。最近読んだ書物に載っていた、男性を癒す方法――彼女は魔法の言葉を口にする。
「大丈夫ですか? おっぱい揉みますか?」
「っ!?」
思いもよらない発言に、パーシヴァルは紅茶を吹き出しそうになった。
なんとか耐えるが、器官に入りむせてしまう。
「だ、大丈夫ですかっ!?」
ナマエは慌てて立ち上がると、ゴホゴホとせき込むパーシヴァルの背中をさすろうとする。
彼はそれを制し、低い声で問い返した。
「そんな言葉、どこで覚えてきた」
珍しく褒めてやろうと思えばこれだ。
せっかくの紅茶が台無しになった。
「これです!」
じゃ~んと効果音がつきそうな勢いでどこからともなく取り出したのは、一冊の書物。
表紙には『意中の彼をオトすマル秘テク50選?』と書かれている。
ド派手なカラーリングが目に痛い。
いつの時代のセンスだ。50とは多いな。などというツッコミが浮かんでくる。
とにかく、中身を見ずとも低俗なものだとわかった。
彼女の手から雑誌を取り上げる。
そのまま消し炭にしなかっただけ、パーシヴァルも耐えたほうだった。
「こんなものを真に受けるな」
「えっ、じゃあここに書いてあることはウソなんですか?」
「……ああ。こんな低俗なものに惑わされて愚かな行動をするな。情報の取捨選択くらいできるようにしておけ」
「ごめんなさい。気をつけます……」
世の中には危険な魔導書も存在する。
これがそうだとは言わないが、裏の界隈で取引されるものが市井に紛れ込む可能性はある。
なんでも鵜呑みにしてしまうナマエが、そういった本を手にしたら?などと考えるとパーシヴァルの説教にも力が入る。
いや、たんに彼女の発言があんまりだったことへの怒りが大きいだけかもしれない。
「だいたいお前は普段から危機感が足りないんだ。この前も――」
くどくどと小言をもらい、ナマエは小さくなっていた。
ただパーシヴァルを癒したい一心だったのだ。
いつも最前線で戦っている彼。特に今回は長い戦いだった。
戦闘ではあまりサポートできない分、別のところでと思ったのに。
こんなに怒らせてしまうなんて情けない。
「おい! 聞いているのか!?」
「はい……」
「……」
見下ろしたナマエがあまりに落ち込んでいて、さすがに言いすぎたかと口をつぐむ。
しょんぼりとした様子は捨てられた子猫のようで。
「そう落ち込むこともないだろう。こんな物に頼らずとも、俺はそのままのお前が――」
うっかり口を滑らせかけて、ハッとする。俺はなにを言おうとしていた!?
が、時すでに遅し。
彼女の耳にはしっかり届いていて、期待に満ちた眼差しを向けてくる。
さきほどの落ち込みはどこへやら。まったく現金な性格である。
「そのままのお前が……なんですか!?」
絶対分かっているだろう。
「いや、なんでもない。せっかくの紅茶が冷めてしまったな」
「ずるいです! 言いかけてやめるなんて、パーシヴァル様らしくありません!」
なおも食いつくナマエは勢い余って絨毯に足を引っ掛けてしまう。
「きゃっ……!!」
転ぶのを覚悟するが体を打ちつける痛みはなく、感じるのは温かさだった。
「全く……何をやっている」
呆れた声が頭上から降ってきて、自分がパーシヴァルの腕の中にいると理解する。
「ご、ごめんなさい! パーシヴァル様、お怪我はありませんか!?」
「俺はなんともないが、お前は無事か?」
「はい! パーシヴァル様のおかげです。ありがとうございます!」
怒られたばかりなのに調子に乗って、またパーシヴァルの手を煩わせてしまった。
申し訳なさと同時に、助けてくれる優しさに感激する。
やっぱり素敵だなあと彼を見ると、いつもよりずっと近くに顔があって気恥ずかしい。
もぞもぞと動いてみるが、パーシヴァルはナマエを拘束したままだ。
「あの、パーシヴァル様……? もう離してくださって大丈夫ですよ?」
「しばらくこのままでも良いだろう」
「えっ!? だ、だ、だめです……!」
「ナマエ、お前は俺とこうしているのが嫌なのか?」
「い、イヤじゃないですけど……は、恥ずかしいです……」
「その調子でよくあんな提案ができたものだな」
パーシヴァルは抱きしめる腕に力をこめた。
逞しい胸板に押し付けられ、心臓の音が聞こえる。きっと自分の鼓動は彼よりももっとずっと速い。
イヤなわけではない。けれど、こういったことに不慣れなナマエには刺激が強すぎて――どうしたら良いのかわからず身を固くする。
彼の香水の匂いは好きなはずなのに、至近距離で感じるとクラクラする。
「ぱ、パーシ、ヴァル、さま……」
頬を上気させ潤んだ瞳で見上げてくる彼女に、パーシヴァルはひっそりとため息をついた。
少し落ち着いたとはいえ、戦いの後は気が昂るもの。
こんな状態でそんな顔をされる身にもなってほしい。
もっとも、そういう顔をさせているのは彼自身なのだが。
大胆な提案をするくせに、実際は抱きしめただけでこの有り様とは。
まあアレは彼女なりの気遣いで、深く考えていなかったのだろうが。
それでも動揺させられたのは事実であり、この程度の仕返しは当然というか生温いくらいだ。
自分の腕の中で戸惑う彼女が愛らしく、パーシヴァルはそう結論づけることにした。
彼らの討伐戦には多くの騎空団が参加しており、グランの率いる団もそのひとつだった。
激しい戦いは連日連夜繰り広げられたが、ようやく終了する。
「みんな、ありがとう!お疲れ様!しばらくゆっくり休んで!」
かなりの戦果をあげられ疲労以上に満足げなグランの言葉で、一同は思い思いの休暇をすごすことになる。
*****
「お疲れ様です」
ナマエの恋人であるパーシヴァルも討伐メンバーの一人だった。
パーシヴァルを労わるために、ナマエはとっておきの紅茶を淹れる。
この間立ち寄った島で見つけたイチゴのフレーバーティー。きっと気に入ってくれるだろう。
「良い香りだな」
果実の甘い香りが鼻孔をくすぐる。
白い陶磁器に注がれた赤色は見た目にも美しい。
口に含めば、じんわりと優しい味が広がった。
あたたかさが疲れた体に染みわたる。
「……美味い」
「良かったです! あと、クッキーも良かったらどうぞ! そんなに甘くないのでパーシヴァル様でも食べられると思います!」
パーシヴァルは素直にクッキーにも手を伸ばした。
「こちらも美味いな」という感想にほっとする。気に入るだろうとは思っていても、実際そうだという保証はない。
彼の反応に満足して、ナマエも紅茶とクッキーを味わった。
「何枚でも食べられちゃいますけど、夕飯のためにセーブしないとですね。今日は皆さんの慰労会にして、ご馳走を作るってローアインさんたちが言ってましたから」
「ほう……。それは楽しみだな」
久しぶりのゆったりとした時間にパーシヴァルの心は穏やかだった。
ナマエの舌は肥えていて、選ぶものに間違いはなかった。
なによりこうして自分のために準備をする姿がいじらしい。
彼女の笑顔に、戦い続きで昂った気持ちが落ち着きをとり戻していく。
だが、連戦の疲労はすぐに癒えるものではない。
簡単に疲れた姿を見せるパーシヴァルではないが、ナマエはなんとなく感じ取っていた。
彼を癒したい。もっと自分に何かできないだろうか。そう考えた彼女に、名案が浮かんだ。
コレだ。最近読んだ書物に載っていた、男性を癒す方法――彼女は魔法の言葉を口にする。
「大丈夫ですか? おっぱい揉みますか?」
「っ!?」
思いもよらない発言に、パーシヴァルは紅茶を吹き出しそうになった。
なんとか耐えるが、器官に入りむせてしまう。
「だ、大丈夫ですかっ!?」
ナマエは慌てて立ち上がると、ゴホゴホとせき込むパーシヴァルの背中をさすろうとする。
彼はそれを制し、低い声で問い返した。
「そんな言葉、どこで覚えてきた」
珍しく褒めてやろうと思えばこれだ。
せっかくの紅茶が台無しになった。
「これです!」
じゃ~んと効果音がつきそうな勢いでどこからともなく取り出したのは、一冊の書物。
表紙には『意中の彼をオトすマル秘テク50選?』と書かれている。
ド派手なカラーリングが目に痛い。
いつの時代のセンスだ。50とは多いな。などというツッコミが浮かんでくる。
とにかく、中身を見ずとも低俗なものだとわかった。
彼女の手から雑誌を取り上げる。
そのまま消し炭にしなかっただけ、パーシヴァルも耐えたほうだった。
「こんなものを真に受けるな」
「えっ、じゃあここに書いてあることはウソなんですか?」
「……ああ。こんな低俗なものに惑わされて愚かな行動をするな。情報の取捨選択くらいできるようにしておけ」
「ごめんなさい。気をつけます……」
世の中には危険な魔導書も存在する。
これがそうだとは言わないが、裏の界隈で取引されるものが市井に紛れ込む可能性はある。
なんでも鵜呑みにしてしまうナマエが、そういった本を手にしたら?などと考えるとパーシヴァルの説教にも力が入る。
いや、たんに彼女の発言があんまりだったことへの怒りが大きいだけかもしれない。
「だいたいお前は普段から危機感が足りないんだ。この前も――」
くどくどと小言をもらい、ナマエは小さくなっていた。
ただパーシヴァルを癒したい一心だったのだ。
いつも最前線で戦っている彼。特に今回は長い戦いだった。
戦闘ではあまりサポートできない分、別のところでと思ったのに。
こんなに怒らせてしまうなんて情けない。
「おい! 聞いているのか!?」
「はい……」
「……」
見下ろしたナマエがあまりに落ち込んでいて、さすがに言いすぎたかと口をつぐむ。
しょんぼりとした様子は捨てられた子猫のようで。
「そう落ち込むこともないだろう。こんな物に頼らずとも、俺はそのままのお前が――」
うっかり口を滑らせかけて、ハッとする。俺はなにを言おうとしていた!?
が、時すでに遅し。
彼女の耳にはしっかり届いていて、期待に満ちた眼差しを向けてくる。
さきほどの落ち込みはどこへやら。まったく現金な性格である。
「そのままのお前が……なんですか!?」
絶対分かっているだろう。
「いや、なんでもない。せっかくの紅茶が冷めてしまったな」
「ずるいです! 言いかけてやめるなんて、パーシヴァル様らしくありません!」
なおも食いつくナマエは勢い余って絨毯に足を引っ掛けてしまう。
「きゃっ……!!」
転ぶのを覚悟するが体を打ちつける痛みはなく、感じるのは温かさだった。
「全く……何をやっている」
呆れた声が頭上から降ってきて、自分がパーシヴァルの腕の中にいると理解する。
「ご、ごめんなさい! パーシヴァル様、お怪我はありませんか!?」
「俺はなんともないが、お前は無事か?」
「はい! パーシヴァル様のおかげです。ありがとうございます!」
怒られたばかりなのに調子に乗って、またパーシヴァルの手を煩わせてしまった。
申し訳なさと同時に、助けてくれる優しさに感激する。
やっぱり素敵だなあと彼を見ると、いつもよりずっと近くに顔があって気恥ずかしい。
もぞもぞと動いてみるが、パーシヴァルはナマエを拘束したままだ。
「あの、パーシヴァル様……? もう離してくださって大丈夫ですよ?」
「しばらくこのままでも良いだろう」
「えっ!? だ、だ、だめです……!」
「ナマエ、お前は俺とこうしているのが嫌なのか?」
「い、イヤじゃないですけど……は、恥ずかしいです……」
「その調子でよくあんな提案ができたものだな」
パーシヴァルは抱きしめる腕に力をこめた。
逞しい胸板に押し付けられ、心臓の音が聞こえる。きっと自分の鼓動は彼よりももっとずっと速い。
イヤなわけではない。けれど、こういったことに不慣れなナマエには刺激が強すぎて――どうしたら良いのかわからず身を固くする。
彼の香水の匂いは好きなはずなのに、至近距離で感じるとクラクラする。
「ぱ、パーシ、ヴァル、さま……」
頬を上気させ潤んだ瞳で見上げてくる彼女に、パーシヴァルはひっそりとため息をついた。
少し落ち着いたとはいえ、戦いの後は気が昂るもの。
こんな状態でそんな顔をされる身にもなってほしい。
もっとも、そういう顔をさせているのは彼自身なのだが。
大胆な提案をするくせに、実際は抱きしめただけでこの有り様とは。
まあアレは彼女なりの気遣いで、深く考えていなかったのだろうが。
それでも動揺させられたのは事実であり、この程度の仕返しは当然というか生温いくらいだ。
自分の腕の中で戸惑う彼女が愛らしく、パーシヴァルはそう結論づけることにした。
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