溶けゆくのは
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ずっと見ていたから、あなたが誰を見ているかなんて分かっていた。
恋人になれるなんて思っていたわけじゃない。
それでも、焦がれ続ける想いを止めることはできなかった。
今はまだこのままで良い、そうやって現状に甘えていた。
でも、それももう終わりなんだ。
私を含んだ火属性のメンバーは依頼を終え、グランサイファーの甲板で反省会をしていた。
解散の旨を告げたパーシヴァルは最後にジータに声を掛ける。
「日ごろの感謝を込めて、お返しを渡したくてな。安心しろ、今年もお前のものは特別製だ……」
それまで笑顔を見せていたジータは一転して不服そうな顔になり、駆けていってしまった。
すっかり忘れていたけど今日はホワイトデー。
そっか、パーシヴァルはジータには特別なお返しをしているんだ。『今年も』ということは今までもそうだったんだろう。
「まっ、待て! なぜ逃げる! 訳を話せ! 訳を!」
聞くまでもないと思うのだけれど、それが分かっていれば平気でみんなの前で話を持ち出したりしないか……。
慌てて彼女を追いかけようとするパーシヴァルに少しだけ。
「パーシヴァルってさぁ、意外にデリカシーないよね。ジータがなんで逃げちゃったか、ちゃんと考えればわかるよね?」
棘のある言い方。こんな言い方をするつもりじゃなかったのに。これじゃ、ただの八つ当たりだ。
ジータの気持ちも考えて。いや、そうじゃなくて、本当は。
なんで私の前で特別なお返しをするの。
私だって、パーシヴァルには特別なものを贈った。でも、そんなこと伝えられなかったから、彼が知らないのも無理はないのに。
彼がこんなに鈍くなければ気付いてくれたかもしれない。振り向いてくれなくても、ほんの少しは気に留めてくれたかもしれない。
この気持ちが報われることなんてないと知っていたけれど、改めて現実を目の当たりにしたくなかった。
自分で想像するのと実際に見るのでは受けるダメージが全然違う。
気持ちも伝えられないくせに、勝手すぎる。
「……俺の行為が問題だったのだろう。反省している」
「……うん」
歯痒そうなパーシヴァルは初めて見る顔で。きっと、これからも私が知ることのない表情を彼女には曝け出すのだろう。
私はジータの所へ向かう彼をただ見送るしかできなかった。
ジータとパーシヴァルの仲について一部のメンバーがざわめく中、アテナの「夜ももう遅いですし、私達も戻りましょう」という鶴の一声で解散になる。
なんだかうずうずしているユエルなんかはこれからソシエとお喋りに花を咲かせるかもしれないけど。
私は部屋に戻らずに甲板の手すりに体を預け、風に吹かれていた。
どうせ眠れないし、冷たい風と共にこの気持ちが飛んでいってしまえば良いのにと思う。
「夜風は冷えるぜ、嬢ちゃん。そろそろ部屋に戻った方が良いんじゃないか?」
「まだ部屋に戻りたくなくて……」
声をかけてきたのはアラナンさんだった。
まだ仲間になって日は浅いけれど、火属性ということで一緒に依頼をこなすことも多くそれなりに話す仲だ。
「ならすまねぇが、嬢ちゃんの時間をちょっと貸してくれねぇか?」
「良いけど……?」
つれてこられたのはキッチンで、ちょっと取ってくるものがあると言ってアラナンさんは一旦部屋に戻ってしまう。
一体なんだろう?
一人でいたい気持ちもあったけれど、誰かといる方が気が紛れるかもしれない。
まだ眠る気は無かったから、それ以外ならなんでも良いやと半ば投げやりな気持ちだった。
慌ただしく戻ってきたアラナンさんは厨房の方へと引っ込んでいく。
「どうせ暇だから急がなくて大丈夫だよ」と声を掛けると、ありがたいと笑ってくれる。
しばらくして良い匂いがして、アラナンさんがマグカップを差し出してきた。
「ホットチョコレートだ。バレンタインのお返しってやつだ。本当は明日にでも渡そうと思ってたんだがな」
「あ、ありがとう……」
アラナンさんにもバレンタインの贈り物をしたけど、お返しがあるとは思っていなかった。なにせホワイトデーの存在も忘れていたくらいだ。
近くで嗅ぐとより一層良い匂いする。
ほかほかと湯気の立つカップを抱えているだけで温かく、想像以上に体が冷えていたことに気付いた。
だから、アラナンさんは予定を変更して今用意してくれたんだ。
「熱いから気を付けろよ」
「う、うん」
ヤケドしないように、少し時間を置いてゆっくりと口に含む。
濃厚だけど飲みやすくて、やさしい甘さが胸を満たしていく。
「おいしい……」
「そりゃ良かった」
柔らかく笑ったアラナンさんは、ちょっと考えるような仕草をして表情を引き締めた。
「嬢ちゃん、ちょっと突っ込んだ話をしても良いか? ジータ殿と、パーシヴァル殿のことなんだがよ……」
「……っ」
「想うだけでは伝わらない。想いは曝け出すことが肝心なの」
「サン!」
言いにくそうなアラナンさんと、二人の名前が出てくるとは思わず身を固くする私。
そんな空気を壊すかのように、急に現れたのは召喚石のザ・サンだった。私はよく知らないけど、ワールドがどうたらでアラナンさんとずっと一緒にいるらしい。
「すまねぇな、サンの奴が」
「ううん、いいよ」
「甲板でのやり取りを嬢ちゃんが気にしてるんじゃねぇかと思ってな」
どうせバレてるなら隠す必要もないか。
ホットチョコで再び口を潤すと、そのまま言葉を続ける。
「私、パーシヴァルのことが好きだったんだ……でもね、分かってたの。パーシヴァルはジータのことが好きなんだって。考えないようにしてたけど、今日のあれ見ちゃったらもうダメだよね……。ジータは優しいし可愛いし、パーシヴァルともお似合いだよね」
私をこの団に拾ってくれたジータ。
彼女がいなければ私は今でも1人孤独に生きていたかもしれない。
こうして誰かに恋をすることも無かっただろう。
他人のことを放っておけなくて、損得なんて考えずに迷わず手を差し伸べてしまうお人好し。ジータもパーシヴァルもそういうところがすごく似ていた。だから、二人のことは大好きだし、お似合いだと思った。
「そう思うのは本当なのに、それでも悲しくて……嫌なの……。本当はパーシヴァルに私のことを見てほしかった。好きになってほしかった。私だって隣に並びたかった。告白もしなかったくせに、こんなこと考えるのはいけないってわかってるけど……」
自然と涙が溢れる。
秘めておこうと思っていた気持ちがぽつりぽつりと零れていく。
「嬢ちゃんは優しいな」
「そんなこと、ないよ……っ」
今だってこんなことを言ってアラナンさんを困らせている。
私が本当に優しかったら、パーシヴァルのことをすんなり諦めて、ここで泣いたりしていない。
「告白しなかったのは、二人を困らせまいとしたんじゃねぇか?」
「違うよ……ただ、勇気が無かっただけ」
振られるのが怖かっただけ。結果なんて分かりきっていたのに、それを受け止められなかっただけ。直接、断られたらきっともっと痛いから。
「そうだったとしても、嬢ちゃんは自分だけじゃなくあの二人のこともちゃんと考えてるじゃねぇか。だから、自分を追い込むのはやめるんだな」
「想いは曝け出してこそでしょう」
「こら、サン! 全部曝け出してそれで上手くいくなら良いが、そうとも限らねぇのさ。他者のために秘めておくものもある。それも善行の一つだ」
「この間は『その通り』と言っていた」
「いちいち突っかかる奴だなお前は。だが、そうだな」
黙っていた私達を見下ろしていたサンが口を開く。彼女は普段からあまり話さないから二人のこんなやり取りを見るのも初めてだった。
呆気に取られている私に、アラナンさんは向き直る。
「嬢ちゃん、今は全部曝け出しちまいな。まだ溜めこんでるもんがあるなら、話をきくことはできる。恋の痛みはワシにはどうすることもできねぇが、それでも楽になるもんもあるんじゃねぇかと思うぜ」
「アラナンさん……」
優しい言葉に、私はパーシヴァルへの気持ちを話し始めた。誰かに話すのは初めてだった。ぽつりぽつりと話していくうちに、涙もぽたりと落ちていく。
結局、私は情けないくらい泣いてしまって。心もぐしゃぐしゃで、支離滅裂なことを言っていただろう。身勝手極まりない内容だっただろう。
アラナンさんはただ穏やかに聞いてくれた。
次の日、並んで歩くジータとパーシヴァルに胸が痛まなかったわけじゃない。
それでも、昨日よりも少しだけ穏やかな気持ちでいられた気がした。
恋人になれるなんて思っていたわけじゃない。
それでも、焦がれ続ける想いを止めることはできなかった。
今はまだこのままで良い、そうやって現状に甘えていた。
でも、それももう終わりなんだ。
私を含んだ火属性のメンバーは依頼を終え、グランサイファーの甲板で反省会をしていた。
解散の旨を告げたパーシヴァルは最後にジータに声を掛ける。
「日ごろの感謝を込めて、お返しを渡したくてな。安心しろ、今年もお前のものは特別製だ……」
それまで笑顔を見せていたジータは一転して不服そうな顔になり、駆けていってしまった。
すっかり忘れていたけど今日はホワイトデー。
そっか、パーシヴァルはジータには特別なお返しをしているんだ。『今年も』ということは今までもそうだったんだろう。
「まっ、待て! なぜ逃げる! 訳を話せ! 訳を!」
聞くまでもないと思うのだけれど、それが分かっていれば平気でみんなの前で話を持ち出したりしないか……。
慌てて彼女を追いかけようとするパーシヴァルに少しだけ。
「パーシヴァルってさぁ、意外にデリカシーないよね。ジータがなんで逃げちゃったか、ちゃんと考えればわかるよね?」
棘のある言い方。こんな言い方をするつもりじゃなかったのに。これじゃ、ただの八つ当たりだ。
ジータの気持ちも考えて。いや、そうじゃなくて、本当は。
なんで私の前で特別なお返しをするの。
私だって、パーシヴァルには特別なものを贈った。でも、そんなこと伝えられなかったから、彼が知らないのも無理はないのに。
彼がこんなに鈍くなければ気付いてくれたかもしれない。振り向いてくれなくても、ほんの少しは気に留めてくれたかもしれない。
この気持ちが報われることなんてないと知っていたけれど、改めて現実を目の当たりにしたくなかった。
自分で想像するのと実際に見るのでは受けるダメージが全然違う。
気持ちも伝えられないくせに、勝手すぎる。
「……俺の行為が問題だったのだろう。反省している」
「……うん」
歯痒そうなパーシヴァルは初めて見る顔で。きっと、これからも私が知ることのない表情を彼女には曝け出すのだろう。
私はジータの所へ向かう彼をただ見送るしかできなかった。
ジータとパーシヴァルの仲について一部のメンバーがざわめく中、アテナの「夜ももう遅いですし、私達も戻りましょう」という鶴の一声で解散になる。
なんだかうずうずしているユエルなんかはこれからソシエとお喋りに花を咲かせるかもしれないけど。
私は部屋に戻らずに甲板の手すりに体を預け、風に吹かれていた。
どうせ眠れないし、冷たい風と共にこの気持ちが飛んでいってしまえば良いのにと思う。
「夜風は冷えるぜ、嬢ちゃん。そろそろ部屋に戻った方が良いんじゃないか?」
「まだ部屋に戻りたくなくて……」
声をかけてきたのはアラナンさんだった。
まだ仲間になって日は浅いけれど、火属性ということで一緒に依頼をこなすことも多くそれなりに話す仲だ。
「ならすまねぇが、嬢ちゃんの時間をちょっと貸してくれねぇか?」
「良いけど……?」
つれてこられたのはキッチンで、ちょっと取ってくるものがあると言ってアラナンさんは一旦部屋に戻ってしまう。
一体なんだろう?
一人でいたい気持ちもあったけれど、誰かといる方が気が紛れるかもしれない。
まだ眠る気は無かったから、それ以外ならなんでも良いやと半ば投げやりな気持ちだった。
慌ただしく戻ってきたアラナンさんは厨房の方へと引っ込んでいく。
「どうせ暇だから急がなくて大丈夫だよ」と声を掛けると、ありがたいと笑ってくれる。
しばらくして良い匂いがして、アラナンさんがマグカップを差し出してきた。
「ホットチョコレートだ。バレンタインのお返しってやつだ。本当は明日にでも渡そうと思ってたんだがな」
「あ、ありがとう……」
アラナンさんにもバレンタインの贈り物をしたけど、お返しがあるとは思っていなかった。なにせホワイトデーの存在も忘れていたくらいだ。
近くで嗅ぐとより一層良い匂いする。
ほかほかと湯気の立つカップを抱えているだけで温かく、想像以上に体が冷えていたことに気付いた。
だから、アラナンさんは予定を変更して今用意してくれたんだ。
「熱いから気を付けろよ」
「う、うん」
ヤケドしないように、少し時間を置いてゆっくりと口に含む。
濃厚だけど飲みやすくて、やさしい甘さが胸を満たしていく。
「おいしい……」
「そりゃ良かった」
柔らかく笑ったアラナンさんは、ちょっと考えるような仕草をして表情を引き締めた。
「嬢ちゃん、ちょっと突っ込んだ話をしても良いか? ジータ殿と、パーシヴァル殿のことなんだがよ……」
「……っ」
「想うだけでは伝わらない。想いは曝け出すことが肝心なの」
「サン!」
言いにくそうなアラナンさんと、二人の名前が出てくるとは思わず身を固くする私。
そんな空気を壊すかのように、急に現れたのは召喚石のザ・サンだった。私はよく知らないけど、ワールドがどうたらでアラナンさんとずっと一緒にいるらしい。
「すまねぇな、サンの奴が」
「ううん、いいよ」
「甲板でのやり取りを嬢ちゃんが気にしてるんじゃねぇかと思ってな」
どうせバレてるなら隠す必要もないか。
ホットチョコで再び口を潤すと、そのまま言葉を続ける。
「私、パーシヴァルのことが好きだったんだ……でもね、分かってたの。パーシヴァルはジータのことが好きなんだって。考えないようにしてたけど、今日のあれ見ちゃったらもうダメだよね……。ジータは優しいし可愛いし、パーシヴァルともお似合いだよね」
私をこの団に拾ってくれたジータ。
彼女がいなければ私は今でも1人孤独に生きていたかもしれない。
こうして誰かに恋をすることも無かっただろう。
他人のことを放っておけなくて、損得なんて考えずに迷わず手を差し伸べてしまうお人好し。ジータもパーシヴァルもそういうところがすごく似ていた。だから、二人のことは大好きだし、お似合いだと思った。
「そう思うのは本当なのに、それでも悲しくて……嫌なの……。本当はパーシヴァルに私のことを見てほしかった。好きになってほしかった。私だって隣に並びたかった。告白もしなかったくせに、こんなこと考えるのはいけないってわかってるけど……」
自然と涙が溢れる。
秘めておこうと思っていた気持ちがぽつりぽつりと零れていく。
「嬢ちゃんは優しいな」
「そんなこと、ないよ……っ」
今だってこんなことを言ってアラナンさんを困らせている。
私が本当に優しかったら、パーシヴァルのことをすんなり諦めて、ここで泣いたりしていない。
「告白しなかったのは、二人を困らせまいとしたんじゃねぇか?」
「違うよ……ただ、勇気が無かっただけ」
振られるのが怖かっただけ。結果なんて分かりきっていたのに、それを受け止められなかっただけ。直接、断られたらきっともっと痛いから。
「そうだったとしても、嬢ちゃんは自分だけじゃなくあの二人のこともちゃんと考えてるじゃねぇか。だから、自分を追い込むのはやめるんだな」
「想いは曝け出してこそでしょう」
「こら、サン! 全部曝け出してそれで上手くいくなら良いが、そうとも限らねぇのさ。他者のために秘めておくものもある。それも善行の一つだ」
「この間は『その通り』と言っていた」
「いちいち突っかかる奴だなお前は。だが、そうだな」
黙っていた私達を見下ろしていたサンが口を開く。彼女は普段からあまり話さないから二人のこんなやり取りを見るのも初めてだった。
呆気に取られている私に、アラナンさんは向き直る。
「嬢ちゃん、今は全部曝け出しちまいな。まだ溜めこんでるもんがあるなら、話をきくことはできる。恋の痛みはワシにはどうすることもできねぇが、それでも楽になるもんもあるんじゃねぇかと思うぜ」
「アラナンさん……」
優しい言葉に、私はパーシヴァルへの気持ちを話し始めた。誰かに話すのは初めてだった。ぽつりぽつりと話していくうちに、涙もぽたりと落ちていく。
結局、私は情けないくらい泣いてしまって。心もぐしゃぐしゃで、支離滅裂なことを言っていただろう。身勝手極まりない内容だっただろう。
アラナンさんはただ穏やかに聞いてくれた。
次の日、並んで歩くジータとパーシヴァルに胸が痛まなかったわけじゃない。
それでも、昨日よりも少しだけ穏やかな気持ちでいられた気がした。
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