愛をこめて花束を
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「こんなところかな?」
落ちた花弁や葉っぱを箒で集めて一息つく。
もうすぐお店を開ける時間になるけど、店長は仕入れに出ていて私一人しかいない。
自分で掃除した店内をぐるりと見渡し、色とりどりの花を見て満足げに頷いた。今日もみんな綺麗だ。
どんなお客さんが来るだろう? この子たちはどんな人に買われていくだろう?
まあそんな早くからお客さんは来ないだろうけど。
なんて油断していたら、開店とほぼ同時に見知った人物がやってきた。
「いらっしゃいませ、パーシヴァル!」
「赤い薔薇を一輪もらおうか」
「かしこまりました。ところで、その服カッコイイじゃん! どうしたの?」
パーシヴァルはいつもの鎧ではなく礼服を着ている。白いシャツに彼の髪と同じ赤いスカーフが鮮やかだ。
胸元を開けすぎではないかと思ったが、一応お客さんだし黙っておいた。なんてえらいのだろう。
「これはジークフリートとランスロットと一緒に仕立てたんだ。あぁ、それと駄犬もな。アレもなかなか様になっていたぞ。まさに駄犬にも衣装だな」
「まだヴェインのこと駄犬って言ってるんだ……」
好きな人が駄犬と呼ばれているのはなかなかに複雑だ。ヴェインは駄目なんかじゃないし、すごく優しいし頼りになる。
たしかに少し犬っぽいところはあるけれど、そこも可愛いのに……。
でも、パーシヴァルもヴェインのことを本当は認めているみたいだし、二人のことを私がどうこう言えたことじゃないか。
なにか他の話題はないかと考えて、ふと思い出す。
「そういえば、一輪の薔薇の花言葉って知ってる?」
「当然だ」
「じゃあ噂の彼女にあげるんだ? ラブラブで良いね~」
「お前には関係ないだろう」
露骨に顔をしかめているが、きっと照れ隠しだ。
一輪の薔薇の花言葉は『あなただけ』。
包もうとしたら断られた。たった一輪、飾りもなにもつけずに渡すあたりが情熱的なパーシヴァルらしい。
パーシヴァルが帰ってから間もなく、ランスロットが顔を出した。
「久しぶりだな、ナマエ」
「久しぶり~! さっきパーシヴァルが来たよ。その服、一緒に仕立てたんだって? 似合ってるね!」
「ふふ、ありがとな」
パーシヴァルとは対照的にランスロットはボタンをきっちりと留めた正統派スタイルだ。胸元のリボンと袖口の青の爽やかさも彼らしい。
「今日は赤い薔薇を11本買いにきたんだ。花言葉は『最愛』……であってるよな?」
「ランスロットも彼女に渡すんだね!?」
「ま、まあな。こういう時くらいプレゼントがあっても良いかと思ってな。普段、騎士団が忙しくてあんまり会えないし」
照れくさそうに頬をかくランスロットが微笑ましい。
『最愛』という花言葉も真っ直ぐで純粋な彼にピッタリだ。
「そういえば、ヴェインはまだ来てないのか?」
「ヴェイン? 来てないけど?」
「アイツ、お前にも見せたいって言ってたぞ。良かったな」
ランスロットは、私のヴェインへの想いを知って応援してくれている。
「え、本当!? 私も見たい!!ヴェインはどんな格好なの!?」
パーシヴァルの駄犬発言に反応していまいち考えていなかったけど、ヴェインもこんな上等な服を仕立てているのだ。
どんな感じなのだろう。絶対格好良いに決まっている。
ソワソワする私に、ランスロットはいたずらっ子のように笑う。
「それは見てのお楽しみだ!」
「ケチ~! 急に見たら心臓に悪いから先に知っておきたいのに!」
「はは、なんだそれ」
ランスロットが帰った後、お客さんが来ないのを良いことに私はヴェインの服を想像していた。パーシヴァルとランスロットもそれぞれ違った服だったし、ヴェインもまた二人とは違う雰囲気なのだろう。
そこへやってきたのはヴェインではなくジークフリートさんだった。
やはりジークフリートさんも礼服に身を包んでいる。
黒いスーツと羽織った白いコートのコントラストは、二人とはまた違った迫力があった。これが大人の色気というものなのだろうか。
「赤い薔薇をもらえるか。本数はそうだな……7本で頼む」
「かしこまりました」
パーシヴァル、ランスロットに続いてジークフリートさんも赤い薔薇。
これはもしやと思ってしまうが、二人ほど親しいわけではないから質問するのは失礼かもしれない。
「どうした? 俺の顔に何かついているか?」
「ごめんなさい。違うんです。ちょっと気になることがあって……」
「俺で答えられることなら構わないが」
私の不躾な視線に怒ることもなく、質問を許可してくれる。『竜殺し』として名を馳せているせいかなんとなく近付きがたいと思っていたたけど、とても穏やかな雰囲気だ。
「ありがとうございます。あの……7本の薔薇の花言葉を知っていますか?」
「あぁ。花言葉はヴェインから聞いたんだ」
「ヴェインが?」
「あいつは本当に色々なことを知っている」
予想外の名前に驚いた。感心したような嬉しそうなジークフリートさんに、関係ない私もなんとなく鼻が高い。
ヴェインはランスロットと一緒になって『ジークフリートさんはすげぇんだぜ!』とよく話していたから、そんな人に褒められていると知ったら喜ぶだろうな。
「ということは、想い人へのプレゼント……ですか?」
「……あぁ、そうだな」
頷くジークフリートさんは少し切なそうに見えた。
7本の薔薇の花言葉は『ずっと言えませんでしたが好きでした』。秘めていた想いを告白するということだろう。
「気持をを伝えてしまって良いものか迷っていたんだがな」
迷っていたが決心したということなんだろう。
私はずっと伝えられずにいるから、伝えようとするジークフリートさんはすごい。
「うまくいきますように……」
「ありがとう」
そんなことしか言えない自分が歯がゆいけど、ジークフリートさんは穏やかに笑ってくれた。
そんなこんなで今日の営業は終了した。
結局ヴェインは来なかったけど、どんな顔をして会えば良いのかわからなくなったから結果オーライかもしれない。
そう思っていたのに。
「ナマエ! 今帰りか?」
家のすぐ近くで、ヴェインに会った。
「ヴェイン!? うん、さっき終わったところ」
「そっか、お疲れ様!」
にっこりと笑うヴェインに私の疲れも癒される。さっきまでどんな顔をすればなんて考えていたのに、思ったより現金にできているらしい。
さらにヴェインはランスロットたちのように豪華な衣装に身を包んでいた。
三人と違いジャケットを着ておらず、白いシャツが眩しい。橙色のベストの温かな色合いに彼らしさを感じた。
「お店にランスロットたちが来て、その服一緒に仕立てたってきいたよ。その……似合ってるね。すごく良いよ……!」
「ありがとな!」
照れているのか後頭部をガシガシとかいている。
ヴェインはしばらく考えるような仕草を見せた後、花束を取り出した。後ろ手になにか持っているとは思ったけど、まさか花束だったとは。
「あのさ、これ……貰ってくれないか?」
「う、うん、ありがとう……」
赤くなるヴェインに私もつられて赤くなる。
今日何度も見た真っ赤な薔薇。
それはランスロットたちがそれぞれの想い人に渡す愛の形だったけれど、私もヴェインから……?
薔薇のかぐわしい香りのせいか、頭がクラクラする。
震えそうになる指で、花束を受け取る。
その瞬間、私は冷静になった。
包まれていた薔薇は13本――花言葉は『永遠の友情』。
人に教えるくらいなんだから、ヴェインが知らないはずはないだろう。
友情。ずっと友達。
浮き足立ってしまった自分が恥ずかしい。バカみたいだ。
私も他の子たちみたいに、なんて。自惚れにもほどがある。ヴェインとは恋人同士でもないのに、なぜこんなにショックを受けているのか。
「こんなお花もらえるなんてはじめてだなー! いっつも売るばっかりだからね」
できるだけ明るく笑う。ダメだ平静を装わなくちゃ。
「……ナマエが喜んでくれたなら、俺も嬉しいぜ」
穏やかに微笑むヴェインに胸がぎゅっとなる。
ほんとうは嬉しくなんてない。そんな風に笑わないで。
「……ごめん、今日は結構忙しくて疲れちゃったみたい。もう、家に入るね」
「ナマエ? 大丈夫か?」
「うん、休めば大丈夫だから。お花、ありがとう……」
できるだけ不自然にならないように伝える。家のすぐそばで良かった。送るなんて言われたら耐えられない。
私が家に入るのを見れば、ヴェインも安心するだろう。
落ちた花弁や葉っぱを箒で集めて一息つく。
もうすぐお店を開ける時間になるけど、店長は仕入れに出ていて私一人しかいない。
自分で掃除した店内をぐるりと見渡し、色とりどりの花を見て満足げに頷いた。今日もみんな綺麗だ。
どんなお客さんが来るだろう? この子たちはどんな人に買われていくだろう?
まあそんな早くからお客さんは来ないだろうけど。
なんて油断していたら、開店とほぼ同時に見知った人物がやってきた。
「いらっしゃいませ、パーシヴァル!」
「赤い薔薇を一輪もらおうか」
「かしこまりました。ところで、その服カッコイイじゃん! どうしたの?」
パーシヴァルはいつもの鎧ではなく礼服を着ている。白いシャツに彼の髪と同じ赤いスカーフが鮮やかだ。
胸元を開けすぎではないかと思ったが、一応お客さんだし黙っておいた。なんてえらいのだろう。
「これはジークフリートとランスロットと一緒に仕立てたんだ。あぁ、それと駄犬もな。アレもなかなか様になっていたぞ。まさに駄犬にも衣装だな」
「まだヴェインのこと駄犬って言ってるんだ……」
好きな人が駄犬と呼ばれているのはなかなかに複雑だ。ヴェインは駄目なんかじゃないし、すごく優しいし頼りになる。
たしかに少し犬っぽいところはあるけれど、そこも可愛いのに……。
でも、パーシヴァルもヴェインのことを本当は認めているみたいだし、二人のことを私がどうこう言えたことじゃないか。
なにか他の話題はないかと考えて、ふと思い出す。
「そういえば、一輪の薔薇の花言葉って知ってる?」
「当然だ」
「じゃあ噂の彼女にあげるんだ? ラブラブで良いね~」
「お前には関係ないだろう」
露骨に顔をしかめているが、きっと照れ隠しだ。
一輪の薔薇の花言葉は『あなただけ』。
包もうとしたら断られた。たった一輪、飾りもなにもつけずに渡すあたりが情熱的なパーシヴァルらしい。
パーシヴァルが帰ってから間もなく、ランスロットが顔を出した。
「久しぶりだな、ナマエ」
「久しぶり~! さっきパーシヴァルが来たよ。その服、一緒に仕立てたんだって? 似合ってるね!」
「ふふ、ありがとな」
パーシヴァルとは対照的にランスロットはボタンをきっちりと留めた正統派スタイルだ。胸元のリボンと袖口の青の爽やかさも彼らしい。
「今日は赤い薔薇を11本買いにきたんだ。花言葉は『最愛』……であってるよな?」
「ランスロットも彼女に渡すんだね!?」
「ま、まあな。こういう時くらいプレゼントがあっても良いかと思ってな。普段、騎士団が忙しくてあんまり会えないし」
照れくさそうに頬をかくランスロットが微笑ましい。
『最愛』という花言葉も真っ直ぐで純粋な彼にピッタリだ。
「そういえば、ヴェインはまだ来てないのか?」
「ヴェイン? 来てないけど?」
「アイツ、お前にも見せたいって言ってたぞ。良かったな」
ランスロットは、私のヴェインへの想いを知って応援してくれている。
「え、本当!? 私も見たい!!ヴェインはどんな格好なの!?」
パーシヴァルの駄犬発言に反応していまいち考えていなかったけど、ヴェインもこんな上等な服を仕立てているのだ。
どんな感じなのだろう。絶対格好良いに決まっている。
ソワソワする私に、ランスロットはいたずらっ子のように笑う。
「それは見てのお楽しみだ!」
「ケチ~! 急に見たら心臓に悪いから先に知っておきたいのに!」
「はは、なんだそれ」
ランスロットが帰った後、お客さんが来ないのを良いことに私はヴェインの服を想像していた。パーシヴァルとランスロットもそれぞれ違った服だったし、ヴェインもまた二人とは違う雰囲気なのだろう。
そこへやってきたのはヴェインではなくジークフリートさんだった。
やはりジークフリートさんも礼服に身を包んでいる。
黒いスーツと羽織った白いコートのコントラストは、二人とはまた違った迫力があった。これが大人の色気というものなのだろうか。
「赤い薔薇をもらえるか。本数はそうだな……7本で頼む」
「かしこまりました」
パーシヴァル、ランスロットに続いてジークフリートさんも赤い薔薇。
これはもしやと思ってしまうが、二人ほど親しいわけではないから質問するのは失礼かもしれない。
「どうした? 俺の顔に何かついているか?」
「ごめんなさい。違うんです。ちょっと気になることがあって……」
「俺で答えられることなら構わないが」
私の不躾な視線に怒ることもなく、質問を許可してくれる。『竜殺し』として名を馳せているせいかなんとなく近付きがたいと思っていたたけど、とても穏やかな雰囲気だ。
「ありがとうございます。あの……7本の薔薇の花言葉を知っていますか?」
「あぁ。花言葉はヴェインから聞いたんだ」
「ヴェインが?」
「あいつは本当に色々なことを知っている」
予想外の名前に驚いた。感心したような嬉しそうなジークフリートさんに、関係ない私もなんとなく鼻が高い。
ヴェインはランスロットと一緒になって『ジークフリートさんはすげぇんだぜ!』とよく話していたから、そんな人に褒められていると知ったら喜ぶだろうな。
「ということは、想い人へのプレゼント……ですか?」
「……あぁ、そうだな」
頷くジークフリートさんは少し切なそうに見えた。
7本の薔薇の花言葉は『ずっと言えませんでしたが好きでした』。秘めていた想いを告白するということだろう。
「気持をを伝えてしまって良いものか迷っていたんだがな」
迷っていたが決心したということなんだろう。
私はずっと伝えられずにいるから、伝えようとするジークフリートさんはすごい。
「うまくいきますように……」
「ありがとう」
そんなことしか言えない自分が歯がゆいけど、ジークフリートさんは穏やかに笑ってくれた。
そんなこんなで今日の営業は終了した。
結局ヴェインは来なかったけど、どんな顔をして会えば良いのかわからなくなったから結果オーライかもしれない。
そう思っていたのに。
「ナマエ! 今帰りか?」
家のすぐ近くで、ヴェインに会った。
「ヴェイン!? うん、さっき終わったところ」
「そっか、お疲れ様!」
にっこりと笑うヴェインに私の疲れも癒される。さっきまでどんな顔をすればなんて考えていたのに、思ったより現金にできているらしい。
さらにヴェインはランスロットたちのように豪華な衣装に身を包んでいた。
三人と違いジャケットを着ておらず、白いシャツが眩しい。橙色のベストの温かな色合いに彼らしさを感じた。
「お店にランスロットたちが来て、その服一緒に仕立てたってきいたよ。その……似合ってるね。すごく良いよ……!」
「ありがとな!」
照れているのか後頭部をガシガシとかいている。
ヴェインはしばらく考えるような仕草を見せた後、花束を取り出した。後ろ手になにか持っているとは思ったけど、まさか花束だったとは。
「あのさ、これ……貰ってくれないか?」
「う、うん、ありがとう……」
赤くなるヴェインに私もつられて赤くなる。
今日何度も見た真っ赤な薔薇。
それはランスロットたちがそれぞれの想い人に渡す愛の形だったけれど、私もヴェインから……?
薔薇のかぐわしい香りのせいか、頭がクラクラする。
震えそうになる指で、花束を受け取る。
その瞬間、私は冷静になった。
包まれていた薔薇は13本――花言葉は『永遠の友情』。
人に教えるくらいなんだから、ヴェインが知らないはずはないだろう。
友情。ずっと友達。
浮き足立ってしまった自分が恥ずかしい。バカみたいだ。
私も他の子たちみたいに、なんて。自惚れにもほどがある。ヴェインとは恋人同士でもないのに、なぜこんなにショックを受けているのか。
「こんなお花もらえるなんてはじめてだなー! いっつも売るばっかりだからね」
できるだけ明るく笑う。ダメだ平静を装わなくちゃ。
「……ナマエが喜んでくれたなら、俺も嬉しいぜ」
穏やかに微笑むヴェインに胸がぎゅっとなる。
ほんとうは嬉しくなんてない。そんな風に笑わないで。
「……ごめん、今日は結構忙しくて疲れちゃったみたい。もう、家に入るね」
「ナマエ? 大丈夫か?」
「うん、休めば大丈夫だから。お花、ありがとう……」
できるだけ不自然にならないように伝える。家のすぐそばで良かった。送るなんて言われたら耐えられない。
私が家に入るのを見れば、ヴェインも安心するだろう。
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