nartic boyで読みたいカカイル

【冥い海】
   〜 第2位 子供時代 〜
[nartic boyで読みたいカカイル]



 朝だというのに仄暗い。

 じっとりと重い雨が音もなく降りしきる中、イルカは父に手を引かれ歩く。

 出掛けに黒い服を着せられたのでお互いに黙って。
 けれど、イルカは何度も訊ねそうになっては、言い出せずに口をつぐんだ。

 今日は誰か───父の知人の、弔いなのだろう。
 しかし、かすかに震えているような冷たい父の手に導かれて向かう先は、慰霊碑のある方向とは違っていた。

 水を含んだ空気の重苦しさと雲に覆われた空の暗さ、そしていつになく寡黙な父の不可解な行動。
 まるで、父の顔をした何者かに、どこか遠く離れた場所へ連れ去れらていくような不安が、幼いイルカの胸にじわりじわりと広がっていく。

 逃げ出したい、という気持ちはあった。
 
 だが、痛いほど強く握られた手を、振り払うことができない。

 まだ子供のイルカしか、縋るものがないのかというほどの力で握りしめてくるこの手を離してしまったら、父がどこかへ行ってしまいそうに思えたのだ。

 常に朗らかで豪気な父の、見たことのない暗いかげりの浮いた顔が、イルカをためらわせる。

 そうして、里の外れまで歩いた頃、父は足を止めた。

 手入れの行き届いた垣根と、古いけれど上品な門構えの屋敷が、そこにあった。

 門扉は開いていたが、支柱に巻かれた黒布がその家が喪中であることを知らせている。

 父はここへ向かっていたのかと、イルカは多少の安堵を覚えた。
 しかし、それっきり父は立ち尽くしてしまった。

 霧の降っているかのような中を傘も差さずに歩いてきたせいで、全身が夜露に濡れたように水を含んでいる。
 髪も身体も重く湿り、衣服は冷たく、けれどわずかな体温で蒸れて着心地を悪くする。

 いっそ、バケツでもひっくり返すように、一気に降り注ぐ大雨なら気持ちもいいのだろう。

 そう思ってイルカは空を見上げた。

 鈍く光る淀んだ雲に切れ間はなく、雨の上がる様子も、強まる気配もない。
 
「イルカ」

 ぽつりと呼ばれ、イルカは視線を父へ向けた。

 濡れた髪からこぼれた水滴がやつれた頬を流れて顎を伝い、イルカの真一文字に傷の走る鼻へ落ちる。

 何故か、そのわずか一滴の雫に塩気を感じた。

「ここで、待っていなさい」

 イルカの腕を掴んでいた手で、柔らかく頭を撫で───それはまるで、何らかの覚悟を決めたかのような仕草だった、父は門へ向かう。

 門内には石畳が敷かれ、その奥には玄関の格子戸が見えた。
 それがからりと開くと、喪服を着た痩せた子供が立っている。

 多分、イルカの倍程の年齢だろう。
 けれど、額には忍の証である額当てを巻いていた。
 そして、好き放題に伸びた白銀の髪の間から、ひどく冷たい、しかし燃えるような憎しみを宿した目でイルカの父を睨んでいる。

「なにをしにきたんです?」

 感情を押し殺した、幼い声だった。



 【続く?】
‡蛙女屋蛙娘。@ iscreamman‡
WRITE:2005/04/14
UP DATE:2009/10/30(mobile)
RE UP DATE:2024/08/05



   ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



子カカシ(8歳)×子イルカ(4歳)というより、サクモ(34歳)+イル父(38歳)?
年齢差は『闘の書』設定
大人と子供の4歳差の違いってヤツを使ってみたいかな~、と
つーか、この子供時代をデフォルトに、愛憎渦巻く20代カカイルを~
例の任務よりサクモさんが選んだのがイルカ父の命だったとしたら?
26になってカカシも父親が下した判断への理解はできるものの、やっぱり原因となった人間(の子供であるイルカ)を目の前にして…ってのは?

‡蛙女屋蛙娘。@ iscreamman‡
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