ショコラ

【少女時間】
   ~ サクラといの ~
[ショコラ]



 頬を染めた女性たちで賑わうその売り場を前に、サクラは悩んでいた。

 手には幾つかのチョコレートを抱え、それでも尚、あれかこれかと吟味する。

「なぁにしてんのっ!」

 その声と同時に遠慮もなく、ばしんと背中を叩かれた。

 危うく棚に突っ込みそうになるのを気力や根性や見栄、その他諸々を総動員して踏みとどまり、サクラは振り返る。

「なにさらす、いのぶたーっ!」

「ぼうっとしてるからよ、デコリーン」

 同じように数個のチョコレートを手に、いのはわざと意地が悪そうに微笑んだ。

「で、なーにを悩んじゃってんのー?」

「……いいでしょ、別に……」

 うつむいて、腕の中の包みを確認するように積みなおす。

 サクラのそんな仕草を見つめ、いのはそれらの行き先を思った。

 今、サクラの周囲にいる人々より少しだけ多い、その数。
 
「そーんなに買い込んじゃってー」

 けれど、だからと言って優しいことは言えない仲だ。

「ま、下手な鉄砲も数撃てば当たるんじゃなーい?」

「そーゆーアンタこそっ」

 サクラはいのの手にある幾つもの包みを睨む。

「これは義理とお情けの分」

 アタシ本命だけは毎年手作りだもの。

「誰からももらえないだろう、可愛そうなお仲間や先生への愛の手よ」

「……とゆーより、来月への投資でしょ?」

「もちろん、それもあるわよ」

 当然でしょ、といのは笑う。

「そーじゃなきゃ、とーっくにバレンタインなんかすたれてるんじゃない?」

「……そーね」

 同意しながらサクラは会計に向かう。

 女の子がチョコレートに込めるのは、純粋な好意ばかりじゃない。

 打算や計算。

 義理と人情。

 感謝や謝罪。

 1人1人、1つ1つ、微妙に違っているのだ。

 たった1つの、本命もそれは同じで。

 今年もそれは渡せないけれど───。
 


 【ホワイトデーに続く】
‡蛙女屋蛙娘。@ iscreamman‡
WRITE:2005/02/02
UP DATE:2005/02/20(PC)
   2009/02/09(mobile)
RE UP DATE:2024/08/01
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