二十歳の頃

【ヒナタ】
[二十歳の頃]



「ヒナタ様、おめでとうございます」

「ありがとう」

 そんなやりとりを何度繰り返したろう。
 ヒナタは密かに息を吐く。

 上忍への昇格もお決まりだそうで。
 そろそろ宗家も御襲名を考えておいででしょう。
 ああ、その前にまずは良い婿をおとりなさいませんと。

 長々と続く口上は、要約すれば皆、そんなことばかりだった。

「ヒナタ様」

「はい」

「ご成人、おめでとうございます」

 そういって頭を下げるネジを見下ろし、ヒナタは気が重くなる。

 この人まで、今日はあんなコトを言ってくるのだろうかと。

「ヒナタ様、もっと堂々となさっていてください」

 けれど、ネジが発したのは全然予想していなかった言葉だった。

「あなたはこの日向宗家の跡取で、いずれは私たちの長となられる方ではないですか」

「…けれど、ネジ兄さん。私は…」
 
「誰でも苦手なことはあります。しかし日向には、いえこの里には、あなたを支える手はいくらでもあるのです」

 それに、とネジは続ける。

「あなたは誰よりも、宗家としてふさわしい資質をお持ちだ」

「ネジ兄さん…」

 ヒナタは、そしてこの場に居合わせた日向の一族はネジが何を言わんとしているのか量れず、騒然となった。

「ヒナタ様には人を正しく見る目があるではないですか」

 ネジは言い切る。

「あなたはご自分の思うとおりに人をお使いなさい。至らないことがあれば、誰かが必ずあなたを支えましょう」

 まずは自分が。
 そして、あの男が。

 真っ直ぐに自分を見て告げるネジに、ヒナタは微笑んだ。

「ありがとう、ネジ兄さん…」

 それは、8年後のお話───



 【了】
‡蛙女屋蛙娘。@ iscreamman‡
WRITE:2005/01/06
UP DATE:2005/01/22(PC)
   2009/11/16(mobile)
RE UP DATE:2024/08/05
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